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金色の絨毯敷きつめられる頃  作者: 弍口 いく
最終章 那由他

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その3

 地面の揺れを感じ、地震か? と思った次の瞬間、目の前の景色が一変した。


 そこは深い森、澄んだ霊気に満ちた神聖な場所のはず……なのに、

「なんや、アレ!」

 とおるは巨大蜘蛛に姿を変えた羅刹姫らせつひめを目の当たりにし、驚きの声を上げた。

 未空みくもグロテスクに蠢くモノを、ポカンと口を開けて見ていた。


 巨大蜘蛛から出た無数の糸が、大銀杏の太い幹を覆い隠すように幾重にも重なっている。糸は怪しく光り、邪悪な妖力を大銀杏に注ぎ込んでいる。


「あの糸、羅刹姫よ」

 続いて光と共に現れた流風るかが言った。

 その横には理煌りお華埜子かのこも現れていた。二人とも突然、強制的に呼び寄せられたものの、事態が把握できずにキョトンとしている。


 流風はすぐに事態を察していた。

 ホテルに張り巡らされていた糸と同じ妖気、羅刹姫の邪悪な妖気を感じる。あの巨大蜘蛛はきっと朧蜂おぼろばちの卵を取り込んで変化した羅刹姫の姿なのだろう。それにしても目を背けたくなる醜悪な姿だ。


「羅刹姫はなにしてんの?」

 華埜子が気持ち悪そうに大蜘蛛を見た。

「決まってるでしょ、封印を破ろうとしてるのよ」

「封印って、あの大銀杏なん?」

 華埜子は蜘蛛の糸にグルグル巻きにされた大銀杏を見た。

 糸から邪悪な妖力が伝わって、大銀杏は苦しそうに震えている。


 流風は糸を切ろうと風刃を繰り出すが、すべて弾かれてビクともしない。

「糸が切れないなら、本体を!」

 流風は大蜘蛛に視線を向けた。が……。


「なに?」

 そこにはもう巨大蜘蛛の姿はなかった。

 つい先程見たモノとは比べ物にならない、小さく縮んだ蜘蛛が糸の先にいた。

 糸に注ぎ込む妖気とシンクロして、本体の羅刹姫はドンドン縮小して干からびていく。

 そして、人間の姿に戻った時、糸がハラリとほどけた。





 羅刹姫のやせ細った体がゆっくり傾いた。

 全身の力が抜けて倒れた羅刹姫を、紫凰しおの背から見ていた那由他なゆたの表情が険しくなった。

「すべての妖力を注ぎ込んだんやな、封印の中の邪悪なモノに」

黎子くろこが出てくるんだね」

 しずくもうっすらと目を開けながらその様子を見下ろした。


 幼かった明子はあの戦いを知らない。だから雫の前世の記憶にもない。姉の黎子がどんな化け物になったのかは、紫凰から聞かされていただけだ。それが今、1200年の時を経て、転生者である雫が、可哀そうな姉の成れの果てを目撃しようとしていた。





 大銀杏の根元から地面に亀裂が走った。

 それはたちまち縦横無尽に走り、周囲の銀杏に達した。

 亀裂からは真っ黒い瘴気が噴き出し、大銀杏を、枝葉を真っ黒に染めていく。

 清浄な空気が汚されていく。

 瘴気に侵された木々も、黄色く色付きかけていた葉が真っ黒に変色した。


 亀裂は流風たちの足元にも迫った。

 流風は風を身にまとって空中に上がろうとしたが、亀裂から瘴気に紛れて真っ黒い枝が飛び出し、流風の足首に絡まった。

 !!

 引き戻されて亀裂の中に引きずり込まれそうになる。


 華埜子はすかさず地面に両手を当て、亀裂をふさいだ。

 間一髪、黒い枝はふさがれた地面に挟まれて切断された。

 流風は解放されて空中にとどまることが出来た。

 しかし、華埜子の周囲にも次々と亀裂が走り、瘴気とセットで黒い枝が生え出している。

 

 今度は流風が風刃を繰り出して、黒い枝を刈り取った。そして、華埜子の手を取って、二人で空中に逃れた。


 地上では銀杏が次々と黒く変色していく。

 美しかった銀杏の森は、死の色が漂う暗黒の地と化した。





 理煌は背中に生えた炎の翼でダイナミックに飛んでいた。

 美しく燃える炎の翼、これは琥珀こはくが与えてくれた力なのか? 全身にみなぎる力を理煌はひしひしと感じていた。


「かっこエエなぁ、それ」

 瞳をキラキラさせながら、澄は炎の翼に見惚れた。

 そんな彼の両足首には、水流で作ったコンパクトな翼がパタパタと羽ばたいていた。


「あなたも巨大にすればイイじゃない」

 澄の横には、空気圧をコントロールして浮かんでいる未空がいた。

「大きしたらバランスが難しいんや」

 地上に立っているように安定している未空を見た。

「未空ちゃんはこの短期間で、能力ちからを使いこなせるようになったんやな」

「当たり前よ、鍛錬を怠ってないから」


 理煌は柊邸を灰にした能力を思い出して、恐怖に震えていた。今の自分にはあの時以上のパワーがある。コントロールできずに暴走して、みんなを巻き添えにしかねない。ちゃんと戦えるのか、不安で押しつぶされそうだった。


 理煌は大銀杏を見下ろした。

 怒り狂うように地割れから瘴気が噴き出している。大銀杏の黒く変色した枝葉はウニョウニョと動き、なにかを掴もうとしているようだが、理煌たちのいるところまでは届かないようだ。


「みんな凄いなぁ、あたしだけ飛べへん」

 華埜子は羨ましそうに他の4人を見た。

「飛べなくたって、あなたにも使える能力があるんでしょ」

 地の能力がどれほどのモノか流風は知らない。こんな緩いキャラの彼女が、まともに戦えるとは思えなかった。


「けど……、あたしたち、なにをしたらエエんや?」

 そうなのだ、転生者は邪悪なモノと戦わなければならない宿命、しかし、具体的にどうすればいいのかは流風にもわからなかった。


「呑気に見てる場合じゃないんだよ」

 雫と那由他を乗せた紫凰が接近した。

「もう始まっているんだよ」

 縦に伸びた赤紫の瞳が鋭く大銀杏を見た。


「わー、真琴ちゃんと色違い」

 紫凰の変化姿を初めて見た澄が好奇心に目を輝かせた。


 その時、

 バリバリバリ!!

 大銀杏が真っ二つに裂けた。


 裂け目から稲光が空に向かって走った。


 爆音が空気を振動させて、目撃した全員の体も震わせた。

 眩い光に目を細めながら、那由他はいよいよその時が来たのだと鼓動の高鳴りを感じた。


 かろうじて立っている大銀杏の左右に大きく傾いた幹の間から、真っ黒な瘴気が噴き出した。

 それに紛れてなにかが地上に出ようともがいているようだった。


   つづく


   



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