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金色の絨毯敷きつめられる頃  作者: 弍口 いく
第2章 霞

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その3

(なんで、こうなるんや……)

 真琴まことは眉間に皺を寄せながら、ミニバンの中央列に座っていた。


 後ろでは、すみれ華埜子かのこが楽しそうにお喋りしている。堤華埜子、通称ノッコは、小学生の頃から真琴の親友と呼べる存在。丸顔で愛嬌のある笑顔が可愛い、真琴とは見た目正反対のタイプ。


 高級な本革のシートで、真琴は何度も足を組み替えていた。


 三人はお抱え運転手、沢本(あらた)の運転で、菫の別荘建設予定地だった場所へ向かっていた。沢本はまだ27歳の好青年だが、引退した祖父の後を継いで菫の運転手となり、いつも我儘に付き合わされている。


 すでに発掘調査が開始されている現場は立入禁止になっており、部外者は近づけない。それでもあきらめ切れない菫は、行ける所まで行って、様子を窺おうとしていた。


 珠蓮に偵察を頼むはずが、その前に菫に捕まり、有無も言わさず同行させられる羽目になってしまった。

 そしてドライブと言って華埜子を誘ったのも菫だった。


 林道を登るにつれ、真琴の脳裏に先日の出来事が甦った。

 吸血鬼に監禁されたのもこんな山奥、あの時は酷い目に遭ったと、怒りがフツフツ湧くと共に、嫌な予感がよぎった。

 あの時も菫に呼びつけられたのが発端だった。


 気のせいであってほしいと真琴は願った。きっとカーブの多い山道で車酔い気味だから気分が悪いだけだ、そうそう不運に見舞われてたまるか! と。

 しかし、そうはいかなかった。


「奥様、渋滞しているようですが」

 新が車を停止させた。

 細い林道を数台の車が塞いでいる。

「なんなの? こんな所で」

「様子を見て参ります」

 沢本は車から出た。

「何があったのかしら?」


 菫は呑気にそう言ったが、真琴は嫌な予感に鳥肌が立っていた。

 上空をヘリコプターが旋回しているのに気付いた華埜子が、窓から身を乗り出して見上げた。


 程なく新が帰ってきて、

「発掘現場で死亡事故があったそうです」

「死亡事故!」

「警察やマスコミの車両がいっぱいで、車では先へ進めそうにありません」

「なんてこと!」

 菫がたちまち不機嫌になったのは言うまでもない。


 そして……。


「わたくし、帰ります」

 鬼の形相で真琴に視線を突き刺すと、

「あなたは事件を調べて、詳細を報告しなさい」

「えっ?」

「わたくしの土地なんですよ」

 まだあきらめていないのだ。

「さ、早く降りて」


 理不尽な命令に、真琴は憮然としながら下車した。

 仕方なく華埜子も真琴に続いた。

 

「後程お迎えに参りますから」

 新は気を遣って真琴に耳打ちしてから、真琴と華埜子を残して発進した。


「あーあ、行ってしもた」



   *  *   *



「なんであたし等だけで見に行かなアカンねん」

 山道をトボトボ歩きながら真琴がぼやいた。


「あたしらが行ったって、現場には入れへんやろうし、何かわかるとは思えへんけどな、それにあの野次馬」

 事故現場らしき所が見えてきた。

 既にすごい人だかり、きっとこの辺りの住人が全員集合しているのだろう。


「真琴も大変やなぁ、いつも振り回されて」

 華埜子は同情のまなざし。

「慣れてるけど、たまに爆発する」

「菫ちゃんと渡り合うなんて、さすが真琴」

「ま、勝ったことはないけどな」

「やっぱり」


 上空のヘリコプターは警察か報道関係だろう。この騒ぎは尋常じゃない。

「なんか、大変なことになってるなぁ」

「ただの事故やなさそうや」

 真琴は嫌な予感が的中してしまったのかとうんざりした。


「何があったんですか?」

 華埜子が地元民らしいおばさんに声をかけた。

「なんか遺跡の発掘現場で、六人も亡くなったらしいわ」

「六人!」

「なんでまた」

「原因はまだわからんらしいわ、今日、調査に来てた七人中、助かったのは一人だけで、さっき救急車で運ばれていかはったわ」


 華埜子が真琴に目くばせした。

 言いたいことはわかっている、悪い物の怪が出たんじゃないかって……。

 華埜子はもちろん真琴の正体を知っている。


「ほんまに真琴の出番ちゃうか?」

「関わりたないし」

「もう、関わってるやん」

 そう言ったのは那由他だった。

 例によって突然真横に出現した。


「近いし……」

 上体をのけ反らせる真琴に、那由他はわざと顔を近づけ、

「また、アンタの予感、当たってしもたな」

「と、言うと」

 真琴は眉間に皺を寄せた。


「死体を見たらわかる」

「見てきたん?」

 人だかりの向こうにチラッとブルーシートが見えている。

「うん、アンタも見る?」

「どうやって?」

「こうやって」


 急に喧騒が消えた。


 人々の動きが止まり、静の世界になった。

 動いているのは真琴と那由他と華埜子だけ。

「やっぱ、ノッコには通じひんか、なんでやろ?」

「あら、あたしまで止めようとしてたん?」

「死体、見に行くんやで」

「……ここで待ってる」


 蝋人形のように微動だにしない人々の隙間を縫って、真琴と那由他は現場を目指した。

 黄色いテープをくぐり、ブルーシートで覆われた一画へ辿り着いた。


 現場検証の途中らしく、鑑識らしき人達が這いつくばるようにして遺留品を探している。その後方で刑事たちが、険しい顔で待機していた。

 そして、問題の遺体があった。

 まだ発見された時のままの状態で、動かされていなかった。


「これは……」

 真琴は思わず口元を押さえた。

「ノッコ、来なくて正解やろ」


 干からびたミイラだった。


 真琴は一瞬、発掘された古代人の屍かと思ったが、服装が現代人だった。

 表皮は何日も天日干しされた干物状態、体から水分が全部抜けたような、異様な遺体が6体、横たわっていた。


「よっぽどお腹空いてたんやろな」

「何の話や」

「そやし、ここに眠ってた奴や」

 発掘現場に目をやる。

 そこも作業途中で、迷路のように溝が掘り進められていた。


「起こしてしもたんやな」

「どんな奴?」

「見てへんし知らんけど……どこへ行ったんやら」

「気配はないな」


 その時、別の気配を感じて、真琴と那由他は顔を見合わせた。


   つづく


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