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金色の絨毯敷きつめられる頃  作者: 弍口 いく
第12章 召喚

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その11

「なに!」

 真琴たちは驚きながら音がした門の方角に目を向けた。

 続いて、


 バリバリバリ!!

 門扉を砕く轟音が響いたかと思うと、大型トラックのフロントが現れた。

 砕けたフロントガラスの向こう、恐怖に歪んだドライバーの顔が見えたのも一瞬、

 ドッカーーン!

 爆発炎上した炎の中にかき消された。


 熱風に目を細めながらそれを見た真琴たち4人は、なにが起きたのか瞬時に把握した。

「ひえ~~、派手にやってくれるやん」

 澄が声を上げた。

「物理的に護符を破壊したのね、門ごと」

 未空が顔を歪めた。


「仁王様が……」

 真琴は怒りに血管を浮き上がらせながらワナワナと震えた。長年門を護り、侵入者を見張って下さっていた仁王様が炎に包まれたと覚ったからだ。


 揺れる炎の中から、狼族たちが姿を現した時、真琴の怒りは頂点に達していたが、結音が一歩前に出て制した。

「お願い、堪えて」


 狼族の先頭には研斗けんとが不敵な笑みを浮かべていた。まだ若いティーンエージャー、従えている連中も血の気が多そうな若者ばかり、ざっと三十人くらい、人狼も混じっているようだった。


「結音か、俺たちを止めようって言うのか?」

 研斗は立ちはだかる結音に余裕の笑みを浮かべている。

「そっちの人間に助けてもらおうってのか? 狼族も落ちたもんだ」

「この人たちを見て、わからないの? ほんと……身の程知らずね」

 結音も負けじと意地悪な笑みを返した。


「なあ、話しても無駄なんちゃう?」

 結音に阻まれていた真琴はしびれを切らして耳打ちした。

「なんかこの場面、デジャヴるんやけど」

 凌生が寺に押し入った時のことを思い出した。あの時もこんな風に囲まれたが、

「すぐに片付けられるで」


 言うや否や、真琴は変化した。

 金茶色の美しい獣。ピンと立った耳、見開いた瞳は盾に伸び黄金に煌めき、プラチナのような牙に、肉球からはみ出した爪も念入りに砥がれた日本刀の切っ先のように青白い輝きを放った。


「なに!」

 その姿に驚いた研斗は一歩退いたが、

「図体だけデカくても」

 周囲の人狼に目で合図を送ると、人狼たちは怯むことなく真琴に飛び掛かった。

 真琴も爪を振り上げる。


「殺さないで!」

 研斗の命令に逆らえない人狼も冴冬と同じ被害者だとわかっている未空は、真琴の爪の前に飛び出した。

「危ない!」

 澄の叫びと同時に人狼たちが弾き飛ばされた。

 

 この前と同じく、未空は濡れになっていた。

 そして、人狼たちは地面に転がった。

「これもデジャヴやな」

 空中に水の弾を躍らせながら澄が言った。


 水の弾を自在に操る澄を見て、真琴は人間の姿に戻った。

「澄も能力を加減できるようになったんやな」

 珍しく褒められた澄は満足そうに白い歯を見せた。


「なるほど、ただの人間じゃないんだな、でも、人間を当てにして大丈夫か?」

 研斗は臨戦態勢を取りながら顔を歪めた。

 結音としては狼族の内輪もめに巻き込むのは不本意だが、

「この人たちは強いわよ、あなたたちに勝ち目はないわ」


「人間ごときに負けてたまるか! 赤狼の指輪さえ手に入れば!」

「それは無理よ、それに万が一手に入れたとしても、指輪に選ばれなければ凌生のようになるだけよ」

「知ってるさ、青狼の指輪をはめたアイツがどうなったか」

「じゃあ、なぜ!」

「もし俺が指輪に選ばれなかったならそれまで、狼族を束ねる器じゃなかったとあきらめるまでだ」

「そんなことに命を賭けるの?」


「俺たちはもう我慢できないんだ、隠れて暮らす窮屈な生活に……、自由を手に入れるために命を賭ける」

「自由って、どうするつもりなのよ」

「人間を支配する」

「バカなことを」

「俺たちの方が優れた種族なんだ、当然だろ」


「凌生と同じことを言うのね」

「同じじゃない、凌生はバカだ、人間なんかと手を組んだから失敗したんだ。俺たちが人間の口車に乗って来たと思ってるのか? 違うぞ、確かな情報に基づいて来たんだ。凌生のようにはならないさ、俺たちは知ってるからな、人はすぐ裏切る、自分勝手で冷酷な生き物だ、本家の混乱の中、凌生と手を組んだ人間だけが、さっさと逃げただろう」

 夏惟かいのことだと未空は一歩前に出ようとしたが、結音に止められた。


「ま、こちらで落とし前はつけたけどな」

「落とし前って?」

 未空の問いに、不気味な笑みを浮かべなら研斗は爪を出して見せた。

「食ったら腹壊しそうなんで、やめたけどな」

「貴様ぁ!!」

 裏切ったとはいえ一緒に育った兄妹のような存在だった夏惟。殺されたと聞いては心中穏やかではいられない。


 結音の制止を振り切って、飛び掛かろうとした時、

 ゴゴゴォッ! 

 地鳴りと共に、足元が大きく揺れた。


「地震!」

 普通の地震ではない、直感的にそう思った真琴が、澄たちの無事を確認しようと目を向けた瞬間。


 澄と未空の身体が煙のように消えた。


   つづく


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