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金色の絨毯敷きつめられる頃  作者: 弍口 いく
第12章 召喚
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その9

 ウエッジウッドのお洒落な花柄のお皿にモンブラン、ティーカップには紅茶が注がれている。

 テーブルに置かれたケーキの箱には、色々な種類のケーキが詰まっていた。

「これ全部食べてエエの?」

 那由他なゆたはフォークを握りしめながら目を輝かせた。


 七瀬家の広いリビング、那由他がモンブランを頬張った向かいでは、掬真きくまが呆れ顔で紅茶を飲んでいた。そして、すみれは、

「これもイイんじゃない?」

 面倒くさそうに突っ立っている珠蓮じゅれんの胸にセーターを当てていた。


「なんでこんな所に連れて来たんだよ、菫の一大事だなんて」

 珠蓮は恨めしそうな目を那由他に流した。

 菫はむくれている珠蓮など気にせず、次のセーターを合わせる。

「あら大事なことよ、蓮の為に買って来たんだから」

 周囲にはシャツ、ブルゾン、ジーンズ等数点と、それを包んでいた包装紙と袋が散乱していた。


「どれでも一緒だろ」

 逃げようとする珠蓮の腕を、菫はガッチリ掴んで離さない。

「蓮は男前なんだから、ファッションに気を遣えば、もっとカッコよくなれるわよ、いつも同じ服ばっかり着てみすぼらしいんだもん」

 菫に真剣な眼差しを向けられると抗えない。


「カッコよくなってどうすんにゃ」

 掬真が不服そうにボソッと呟いた。

 聞き逃さない那由他は意地悪そうな笑みを向けた。

「ヤキモチ~」

「なんでやねん!」

 年甲斐もなく向きになる掬真。


「服なんか合わせてる場合じゃないんだ、邪悪なモノの封印が解けるのも時間の問題、今日、この瞬間かも知れないのに」

「この戦い、アンタには関係ないやろ、自分から巻き込まれんでもエエやん」

 那由他の発言に珠蓮はムッとした。

「さんざん聞かせといて、なにをいまさら」

「確かに話はしたけど、協力してなんてうたことないで」

「水臭いな、長い付き合いなのに」

「長い付き合いか……、500年やもんな」

 那由他はフォークをくわえたまま遠い目をした。


 そんな那由他を見て、菫はふと寂しそうな視線を向けた。

「わたくしたちはせいぜい40年くらいだけど、かけがえのない友に違いないわ」

「ありがとう」


 その時、ゴゴゴォッ! 

 地鳴りと共に、室内が大きく揺れた。

「きゃっ」

 菫がよろめいて膝をついたのを見た掬真は、素早く傍に行って支えた。


 テーブルの紅茶が波を立てて零れ、花瓶が倒れて床で砕けた。

「地震?」

 揺れはすぐにおさまったが、珠蓮は眉をひそめた。


「どうやろ……」

 フォークを置く那由他。

「そろそろ行かな」

「いよいよなのか? 封印が解けるのか?」

 いつになく神妙な面持ちの那由他を見て、珠蓮も身構えた。


 菫は突然、那由他に駆け寄って抱きついた。

 那由他は菫の肩越しに珠蓮を見た。

「あんたが本懐を遂げるとこを見届けられへんのが心残りやけど」

「なにを……」

 その意味がくみ取れずに珠蓮は困惑した。


 掬真はその隙に、珠蓮の額に封印の札を貼った。

 とたん、フリーズする珠蓮。

「なにしやがる!」

 身体は動かせないが、声は出せる。


 かつては優秀なハンターだった掬真、引退してずいぶん経つが、腕は訛っていない。そして、強い霊力を持つ菫が念を込めた札は、珠蓮の身体から自由を奪うのに十分な力を発揮した。


 目だけを動かして那由他を見るが、彼女は黙って目を伏せた。

「鬼ごときの出る幕(ちゃ)うんや、那由他はお前を犬死させたないんや」

 掬真が代わり言った。

「バカにするな! 俺だって戦える」

「こんな札も剥がせんとか? 真琴まことやったら一瞬で吹き飛ばすで」

「アイツは巻き込まれてもいいのかよ、大事な孫を危険に晒しても」

「真琴は強い、それに白哉びゃくや紫凰しおもついてるし」


 那由他は菫の耳元で囁いた。

「珠蓮を頼むわな」

 菫はコクリと頷き、ギュッと抱きしめた。


 那由他はその腕の中で消えた。


   つづく


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