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金色の絨毯敷きつめられる頃  作者: 弍口 いく
第12章 召喚

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その7

 天寧が見せていた幻の教会は消え、そこは更地になっていた。

 駐禁のステッカーが貼られた瑞羽の車に天寧は乗り込んだ。そして瑞羽の体から出て、幽体に戻り、幻の教会入口に立っていた時と同じ、純白のウエディングドレス姿で出てきた。

 瑞羽はシートで気を失っていた。


 更地に入っていく天寧の姿は陽炎のように儚かった。

「このウエディングチャペルで式をあげようって、浩平と話してたのよ、こんな仕事をしててもね、夢はあったのよ、ジューン・ブライドになる」

 遠い目で、教会があるかのように見上げた。

「一人で見学に来た時、吸血鬼の巣になっているとわかってね、ほんとついてない、全滅させたけど逃げ遅れちゃって」

 天寧は吹っ切れたように笑顔を向けた。


「浩平のところへ行くわ」

 流風は浩平の形見の独鈷をポケットから出した。

 それを見てハッとした天寧の瞳が潤んだ。

「迎えに来てくれたのね」


 流風はコクリと頷き、独鈷を天寧の額に当てた。

 天寧の幽体は光の玉になり、ゆらゆらと空に昇った。

 流風は見えなくなるまで見上げていた。


 いつの間にか意識を取り戻した瑞羽も、見送っていた。

「逝ったんやな、天寧さん」

 瑞羽は涙を堪えながら手を合わせた。

「吸血鬼の巣か……正式な狩りじゃなかったし、本家も把握できなかったんやな」

 でも、もし消息を絶ったのが本家の当主、颯志の孫である自分だったら、捜索隊が編成されたのだろうと瑞羽は思った。


「周平の行方も、誰も捜さへんのやろうな」

「憑依されてた時の記憶はあるの?」

「うん、全部見えてた、身体の自由はなかったけどな……けど、あったとしてもどうすることも出来ひんかったと思う、助けられへんかったと思う」

 瑞羽は悔しそうに歯噛みした。


 その時、フロントガラスに貼られた駐禁ステッカーに気付いた。

「マジかぁぁ!」


 ちょうどそこへ霞が現れた。

「後始末はしてきたぞ」

「周平の遺体は?」

 瑞羽が冷ややかな目を向けた。

「ああ、うま」

 流風が慌てて霞の口を押えた。瑞羽もわかっているだろうが、美味かったなんて、瑞羽には聞かせられない。


 霞は流風の手を振り払って、

「わたしにこんなことをするのは、お前くらいだ、毒液でその手を溶かしてやるぞ」

 笑った。

「確かに人間と一緒にいると感覚が鈍るかもな、緩すぎて隙が出来てしまうというか……、けど、お前といるのは面白い」


 その時、地面が激しく揺れた。

「地震!」


 普通の地震ではない、なにか不穏な、背筋に冷たいモノが走るような感覚に、流風が身を縮めた次の瞬間、


 流風は忽然と消えた。


   つづく


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