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金色の絨毯敷きつめられる頃  作者: 弍口 いく
第12章 召喚

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その6

 摩百合の体がグロテスクな肉塊になっていくのを茫然自失で見ていた周平だったが、ハッと我に返り、逃げようとした。

 !!


 しかし、踏み出した膝がガクッと崩れた。

 続いて、胃からなにかがこみ上げ、口腔内を満たした。

「うっ!」

 たまらず吐き出した大量の血を見て、周平は慄然とした。

 自分は攻撃を受けていないはずだ。いつの間にこんなダメージを?

 顔面蒼白で冷や汗をかきながら、口元を押さえてうずくまった。


「周兄……もしかして禁術で摩百合を従えてたの?」

 周平の異変を見ながら、流風が震える声で言った。

「いけないか?」

 苦しい息の下から、周平は恨めしそうに目を上げた。

「あの文献……、ちゃんと読まなかったの?」

 読んだから妖怪を従える禁術をマスターできたんだ。なにを言っているんだ流風は……。もう声は出なかった。


「最後まで読んでないのね」

 確かに、急いでいたので最後のページまで写メ出来てなかったかも知れないが、それがなんだ?


「妖怪を従えるってことは、妖力で繋がるってこと、繋がったまま妖怪が傷を負えば」

 このダメージはそう言うことか……。

 周平はもやは原形をとどめていない肉塊に目をやった。

 じゃあ、死んだら?


 いや、まだだ!

 もう一つの禁術、妖怪を体内に取り込めば、命をつなぎとめることが出来るかも知れない。周平は力を振り絞って、胸ポケットから朧蜂の卵を出した。握りこぶしくらいの大きさの卵を手の中に包んだつもりだったが、指に力が入らずに転がり落ちた。


朧蜂おぼろばちの卵! 周兄が盗ませたの」

 見覚えのある卵を流風は拾い上げたが、

「よこせ!」

 周平は血だらけの口から声を絞り出した。


「こんな偽物、役には立たんぞ」

 流風が拾った卵を霞は横取りした。

「偽物?」

 霞は卵を無造作に放り捨てた。


 転がる卵を見て、周平は唇を噛んだ。

 羅刹姫らせつひめに謀られたと察した。いつの間にか偽物とすり替えられたのだと……。

 最後の望みを絶たれた周平は床に突っ伏した。


「周兄!」

 流風は駆け寄ったが、周平は全身の力が抜けてグッタリしていた。

 そして、半開きのままの目から、光が失せた。


「自業自得だな」

 霞が冷ややかに見下した。

「摩百合や羅刹姫なんかと組んで、なにをしようとしていたかは知らんが、こうなっては元も子もない」


 書庫に忍び込んで文献を見て、禁術を手に入れた周平、環花を騙して禁術を使わせたあげく、死に追いやった。

 そして摩百合や羅刹姫と繋がり、なにをしようとしていたのだろう?

 もう、聞き出すことは出来ない。


「周平は理不尽な扱いに耐えられず、綾小路家に恨みを抱くようになってたのよ、そして呪縛から逃れたかったのよ」

 黙って成り行きを見ていた天寧が言った。

「瑞羽ちゃんがそう言ってる」

「瑞羽さんが?」

「身体はあたしが使わせてもらっているけど、彼女の意識はあるのよ」


「天寧さん、浩兄のことは……」

「これで納得できたわ、なぜ捜しに来てくれなかったのか、来れなかったのね」

 天寧は寂しそうな笑みを浮かべた。

「あなたのせいだなんて思っていないわよ、浩平は……、そんな恨みがあったなら、あっさり成仏できないわよ」


 その時、ハラリと糸がほどけて落ちてきた。

 エントランスに張り巡らされていた糸が、次々と落ちている。

「どうやら、羅刹姫が二人の死を察知したようだな、もうここを護る必要がなくなったんだ、人間たちが覚醒するぞ」

 フロント嬢に絡まっていた糸も解けようとしてる。


 流風は摩百合の残骸と、周平の遺体に目をやり、舌打ちした。

「マズいわね」

「摩百合の方は放っておいても大丈夫だろう、たかが百足だ、サイズが規格外なだけで、そっちの男は任せろ、お前たちは先に戻っておれ」

 舌なめずりする霞を見て、流風は背筋に冷たいものを感じたが、ここは任せるしかない。


 流風は天寧の手を取った。

 にこやかに見送る霞を残して、二人はホテルから出た。


   つづく


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