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金色の絨毯敷きつめられる頃  作者: 弍口 いく
第12章 召喚

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その5

 瑞羽に憑依した幽霊は周平を見つめ、

「浩平……」

 愕然と呟いた。


「えっ?」

 なぜ、その名前を? 流風は耳を疑った。


 瑞羽に憑依した幽霊は、流風の手を振りほどき柱の影から出て、周平と摩百合の前に歩み出た。

「思い出した、あたしはあなたに会いたかったのよ、最期にちゃんとお別れを言いたかった」


 周平は瑞羽が幽霊に憑依されているとは知らない。しかし、目の前にいる瑞羽の姿をした者が、瑞羽でないことはわかった。

「お前は……誰だ?」

「あたしよ、天寧あまねよ」

 その名前には流風も覚えがあった。会ったこともある。しかし流風が幽霊の顔を見たのは一瞬、すぐ瑞羽に憑依したので、その時は思い出せなかったが、

「天寧さんだったの……」


「どう言うことなんだ?」

 周平も一時状況を忘れて困惑した。

「瑞羽さんは憑依されているのよ、天寧さんの幽霊に」


 宮城天寧は浩平の恋人だった。

 彼女も優秀なハンターだったが、六年前、忽然と姿を消した。妖怪に遭遇して殺害されたと推測されたが、遺体も出なかったので行方不明扱いになっている。

 ちょうど浩平が砂利鼠じゃりねずみに殺されたのと同じ頃だったので、浩平が死んだことは知らないだろう。


 そして、今、浩平の弟である周平を、浩平と間違えている。


「あたしは流風よ、覚えてないの?」

「流風? まさかぁ、流風はまだ子供……」

 天寧は流風の顔をマジマジと見て、ハッとした。

「……そうか、そんなに年月が経っていたのね」

 天寧は周平に向き直った。

「じゃあ」


「俺は周平だ」

「弟? 浩平じゃない……」

「兄貴はとうに死んでるよ」

「周兄!」

 流風は思わず叫んだ。知らずに待ち続けた天寧に、心の準備も与えないまま知らせるのは酷だ。しかし、遅かった。


 その時、流風は全てが理解できたような気がした。

 ウエディングチャペルの火災は妖怪がらみ、普通の炎ではなかったから、天寧の体は骨さえ残らず焼き尽くされたのだろう。

 天寧が成仏できなかった、いや、しなかったのは、浩平が自分の魂を見つけてくれると信じていたからだろう。


 死んだことを誰にも知られず、誰にも捜されなかった天寧。でも、もし浩平が生きていたなら、必ず天寧を捜しただろうと流風は思った。そして、真相を突き止めただろうと……。

 6年も、来るはずのない浩平を待っていた天寧が、あまりに可哀そうで、流風は目頭が熱くなった。


 そして、浩平が来ないと知った彼女は……。

 瑞羽に憑依した天寧は、潤んだ瞳を流風に向けた。

「あたしのせいなの……、浩兄はあたしを助けるために犠牲になったの」

「そうさ、こんなガキを押し付けられたせいで兄貴は死んだんだ」

 周平は吐き捨てるように言った。


「ゴチャゴチャとなんの話してんのよ」

 痺れを切らした摩百合が口を挟んだ。

「さっさと片付けてしまおうよ」


「片付くのは、お前の方だ」

 地獄から漏れたようなドスのきいた声がした。

 振り返ると、霞がゆっくりと立ち上がるところだった。腹部には血糊がべったり、振り乱した長い髪の先にも血が滴っている。

 髪の隙間から垣間見えた瞳が怪しく煌めいた。


「ひっ!」

 惨憺たる般若の形相の霞を見て、摩百合が息を呑んだ次の瞬間、研ぎ澄まされた日本刀のような尻尾が、摩百合の脳天に炸裂した。スイカ割りさながら、砕けた頭蓋骨から脳ミソが飛び出した。

 続いて二刀めは水平に振られ、胴体を上下に分離した。三刀めは肩口から斜めに下ろされ、心臓を真っ二つにした。


 すべてが数秒で終わり、隣に立っていた周平は、シャワーのように血を浴びながら愕然とした。


「わたしに血を流させるなんて、許せん!」

 怒り収まらぬ霞は、転がった頭部を思い切り踏み潰した。

 妖気を集中させた霞の足は、摩百合の骨を粉砕し、中身をミンチにした。


「やりすぎ……」

 グロテスクな光景を見て、流風は胃液が逆流しそうになった。

「思い知らせてやるのだ」

 霞は続けて胴体の方も踏みつけた。

「もう痛みなんか感じないと思うけど……」


 蛇妖怪の執念、怖っ! っと流風は身震いした。


   つづく


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