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金色の絨毯敷きつめられる頃  作者: 弍口 いく
第12章 召喚

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その4

 幽霊に憑依された瑞羽に続いて歩きながら、流風はスマホ画面をスクロールしていた。

「あった、これだわ」

「なんだ?」


 流風は霞に画面を向けた。

 そこには6年前、教会が焼失した事件記事があった。

「やっぱり教会はあったのよ、正確にはウエディングチャペルだけどね、ほら、不審火で焼失したって、犠牲者の名前が出てたら、この幽霊が誰なのかわかると思ったんだけど」

「死傷者は出てないな、お前、火事で死んだのではないのか」

「そうなのかしら? なんで死んだんだろ」


 流風が突然、霞の服を引っ張った。

「なんだ?」

 立ち止まって凝視する流風の視線の先を見た霞は片眉を上げた。

「これは……」


 そこはビジネスホテルだった。

 一般の人にはなんの変哲もないホテルにみえるだろうが、その建物は普通ではなかった。流風や霞には、建物全体を包むように張り巡らされた蜘蛛の糸が見えた。


「ここだわ、この中にあの人がいるわ!」

 糸に気付いているのかはわからないが、瑞羽に憑依した幽霊はホテルに向かって駆けだした。


 入口のドアが開くと、エントランスホールにも糸が張り巡らされていた。照明に反射してキラキラ光る糸は、異様な妖気とは裏腹、美しい芸術作品の中に迷い込んだような錯覚に陥らせた。


 フロントは静まり返っていた。

 受付嬢が二人立っていたが、目は虚ろで生気がない。二人とも蜘蛛の糸に絡まれていた。

見覚えのある糸、触れてはいけない糸だとわかった流風は、

「待って!」

 入ろうとする幽霊瑞羽の腕を掴んで止めた。


「ほんとに、こんな所にいるの?」

「間違いないわ」

「でも、ここは……」

 流風は臨戦態勢で囲を見渡した。


「さすが流風、見えてるようだな」

 奥の階段から下りてきた周平を見て、流風は驚いた。

 なぜ彼がいるのか解らなかったが、見下ろす目には敵意がこもっていた。


 不敵な笑みを浮かべながら、刺すような目で流風を、そして涼しい顔をして立っている霞を見た。

「綾小路家の縁者が妖怪とつるんでるなんて、驚きだよ」

 なぜ周平が羅刹姫らせつひめの蜘蛛の巣の中にいる? 囚われているようではない、どうなっているんだ? 流風は困惑して眉をひそめた。


 次の瞬間、

 周平の背後から、目にも止まらぬスピードで伸びた鋭い尾節が、霞の胸に突き刺さった。


「うっ!」

 予期せぬ攻撃をかわせなかった霞は吹っ飛び、床に叩きつけられた。

「霞!」

 流風は駆け寄ろうとしたが思い止まって、瑞羽の襟ぐりを鷲掴みにして、柱の陰に引きずり込んだ。


 周平の後ろから、大百足おおむかでの妖怪、摩百合まゆりが姿を現した。

 霞を貫いた尾節を引っ込めながら、満足そうな笑みを浮かべている。

「不意打ちとは、卑怯者だな」

 周平の冷ややかな言葉に、

「先手必勝と言って、まともに戦ったら勝ち目はないわよ」

 倒れている霞を蔑んだ目で見下ろした。

「大物だけど、人間と関わり合って鈍ったのかしら、あたしの妖気に気付かなかったなんて」


「なぜ周兄が、大百足と一緒にいるの?」

 流風は馴れ馴れしく話をする二人を慄然と見た。

環花わかを殺したのは、そいつなのよ!」

「知ってるさ、環花に妖怪を体内に取り込む禁術を教えたのは俺だからな」

「なんですって!」


 流風は雫の言葉を思い出してハッとした。

(用心しいや、この文献、いつかは解らんけど誰かが触った形跡があるんや、厳重に保管してあって、うちと颯志しか手に出来ひんもんやのに、アンタが忍び込む前に見た者がいるんや、綾小路の中に)


「周兄がなぜ……」


   つづく


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