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金色の絨毯敷きつめられる頃  作者: 弍口 いく
第12章 召喚

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その3

 よく見ると不自然だった。

 教会らしき建物だけが薄い靄に包まれて異質な感じがした。


「ほな、あれはあやかしか?」

 入口に人影があった。靄に溶け込むような純白のドレスを着た20歳くらいの女性が立っている

「幽霊じゃない?」

 瑞羽の問いに流風が答えた。


 女性もこちらに気付いたようで、虚ろな目を上げて視線を向けた。その顔を見た時、流風はなにかを感じたが、

「危ない!」

 霞は叫ぶと同時に、光の玉となって宙に舞い上がった。

 流風は霞の声に反応し、反射的に横っ飛びに転がった。


 瑞羽だけが遅れを取って、その場で動けなくなった。

 流風は屈みながら体制を整えて瑞羽を見上げた。


 フリーズした瑞羽の瞳孔が大きく開いた。

 そして次に、口角を上げて不敵な笑みを浮かべた。

「この身体、とても波長が合うようだわ」

 瑞羽は自分の体を見下ろしながら、両手を広げたり、ジャンプしてみたりしてはしゃいだ。


 流風はその奇行に目を丸くした。

「憑依されたな」

 人間の姿に戻って降り立った霞は渋い顔をした。

「フィーリングピッタリだわ」

 瑞羽に取りついた幽霊は嬉しそうだ。


「瑞羽をどうするつもりなのだ」

「この子、瑞羽って言うの? どこかで聞いたような……」

 憑依した幽霊はなにか考えるように宙を見たが、すぐに頭を横に振った。そして、無邪気な笑みを向けた。

「ちょっと借りるだけよ、そんなに怖い顔しなくても大丈夫よ」

「お前は何者だ?」

 不審の目を向ける霞に、

「あたしは……、えっとぉ」

 瑞羽は首を捻った。


「地縛霊になって長いから、生前の記憶がどんどん消えているのよ、早く成仏しなきゃ悪霊になっちゃうんだけど、やり残したことがあるみたいで、成仏できないのよ」

「忘れているのなら、どうしようもないぞ」

「そうでもないのよ、ついこの間、見覚えのある人に会ったのよ、むこうは気付かず行っちゃったんだけど、もう一度、あの人に会えば思い出せると思うのよ、でも追いかけようにも、地縛霊はここから離れられないから、憑依できる人間を捜してたところへ」

「ピッタリの瑞羽が現れたって訳か」


 幽霊と普通に話をしている霞に呆れながらも、流風は黙って聞いていた。

 ポケットには独鈷どっこがある、あれで憑依を解いて強制的に浄霊出来るのではないかと、機会をうかがっていた。


「捜すとは、どうやってだ?」

 霞はため息交じりだが、瑞羽は意気揚々としている。

「この身体の人、霊感が強いみたいなの、だから捜せると思う、あなたたちも普通の人間じゃないみたいだし、協力してくれれば早く済むと思うんだけど」

「あつかましい幽霊だな」

「この身体、無傷で返すから、お願い!」


 瑞羽は突然跪いて、額を地面に擦り付けた。

 先程までとは打って変わって、その肩は小刻みに震え、

「自分が何者で、地縛霊になってまでこの世に残した未練はなんなのか、知りたいのよ」

 絞り出すように言った。


「仕方ないのぉ、土下座までされたら」

 霞は偉そうに腰に手を当てながら大きな溜息をついた。

 流風はポケットの中で握っていた独鈷を手放した。ここで瑞羽の体から無理やり引き剥がしたら、悪霊になってしまうと感じて思い直したのだ。


「では、早く済ませよう」


   つづく


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