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金色の絨毯敷きつめられる頃  作者: 弍口 いく
第12章 召喚

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その2

環花わかの行方なんて、あたしは知りません」


 環花が消息を絶って三日、綾小路家本家に東京の分家から大袈裟な捜索隊がやって来た。

 お目付け役だった周平しゅうへいも姿を消したので、二人とも大百足おおむかでに殺害されたのではないかと推測されたが、たった一人の孫娘を簡単にはあきらめられない分家の当主真佐(まさ)が精鋭を送り込んだのだ。


 最後に会ったのが流風るかだったので、高圧的に質問された。

(なにも知らんで通すんや)

 流風はしずくに言われていた通り、知らないで通した。


「図書館前で別れて、その後、どこへ行くか聞かなかったのか」

「はい」

「なぜ一人で行かせたんだ、環花の力では、大百足追うのは危険だとわかっているだろう」

「大百足を追って来たなんて聞いてませんから」

 流風は平然と嘘をついた。



   *   *   *



「周平のことは、誰も聞かへんのやな」

 運転しながら瑞羽みずはは不服そう言った。

 周平と最後に会ったのは瑞羽だったが、捜索隊の質問は環花に関してばかり、もはや周平は護衛の任務を果たせなかった役立たず、捜す必要などないと言わんばかりだった。


 綾小路カースト。

 周平の言葉が思い出された。そしてその意味を痛感した。


「環花って子なら、大百足に食われたのだろ、紫凰しおが言っておったぞ」

 後部座席から、かすみがあっさり言った。

「えーっ! そうなん?」

 知らなかった瑞羽は驚きの声を上げ、一瞬、ハンドルを持つ手がブレた。


 車体が揺れた衝撃に、助手席の流風はヒヤリとした。

「環花が……死んだ……」

 親しくなかったとはいえ、身内の女の子が死んだと知らされた瑞羽のショックは大きかった。


「流風もその場にいたんか?」

「ええ、でもどうしようもなかったし……」

「紫凰がいても助けられなかったなんなら、仕方ないけど」


「雫様がそのことは言ったらダメだって」

「雫おばあちゃんはなんでもお見通しって訳か」

 瑞羽は小さな溜息を漏らした。

「そう言えばおばあちゃん、珍しく出かけはったみたいやけど、どこ行かはったんやろ」


 にわかに言い知れぬ不安が広がった。流風はあの時、雫の様子に違和感を覚えたことを思い出した。すぐに呼び出されたので、雫の元を離れなければならなくなったが、雫は外出する支度をしていたようだった。

「分家からのお客が煩わしくて、逃げはったんかなぁ」


「ほんまのことうたら、流風が責任を取らされかねへんし、黙ってろって言わはったんやろな、それに一緒にいたんが紫凰やったら、余計にややこしいやん」

「確かに……」


「周平もいたんか?」

周兄しゅうにいはいなかったわ」

「どこへ行ったんやろ、環花が死んだこと、知ってるんかな」

「わからないけど……、知らないと思います」

 あの場所は、普通の人間が入れない場所だった。


「まだ環花を捜してるかも知れへんな、よ見つけて、教えてあげな」

「でも、環花の死が知れたら、周兄の責任にされてしまうかも知れないわ」

 視線を落とした流風を見て、瑞羽は彼女も綾小路カーストを実感している一人なのだとわかった。


「頼むで霞、周平の臭いは覚えたか?」

 瑞羽は霞に話を振った。三人は周平の行方を捜すべく、あの日、瑞羽が周平と別れた場所に向かっていた。嗅覚の優れた霞に、車に残っている周平の臭いを辿ってもらおうとしていた。

「わたしは警察犬か」

「あんたが頼りなんやし」

「真琴がおるだろう」

「真琴は別の用があるって、悠輪寺へ行ったわ」


「周平の奴、突然、トイレって叫んで降りたまま戻らへんかったんや」

「瑞羽さんが運転してたの?」

「いいや、途中で交代したし、その時は周平が運転してたけど、なんで?」

 瑞羽の下手な運転に気分が悪くなって逃げたのかと思った流風だったが、違うとなれば、別の目的で下車したのかも知れない。

「いや、別に……」


 そんな話をしている間に、周平と別れた場所に到着した。

「ここで停めたんや」

 瑞羽の運転は相変わらず最悪だったので、停車した時、流風と霞は命拾いしたとばかりに車から転がり出た。


「あれ? こんなとこに教会なんかあったっけ?」

 そこは教会らしき建物の前だった。

「お前の目は節穴か? これは幻影だ」


 霞は怪しく光る瞳で教会を見上げた。


  つづく


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