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金色の絨毯敷きつめられる頃  作者: 弍口 いく
第11章 沫雪

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その12

 凍てつく夜、星々はいっそう輝きを増していた。

 闇に包まれた木々の間に、かすみの白い着物がポワッと白くにじむ光を放っていた。都会の灯りも喧騒もない静寂は心を落ち着かせる。枝葉の間から見える美しい夜空を仰ぎ、ほっこりしていた霞だったが……。


「よくここがわかったな」

 跪いて頭を下げている乃武のぶに気付いて見下ろした。

「霞様の臭いは覚えております」


 大神おおかみ乃武は落ち着いた物腰の見た目は三十前後男性。長く狼族本家の守りについている重鎮。しかし長老の青狼せいろうが隠居し、この前のゴタゴタで多くの仲間を失った今は事実上のリーダーだ。

「お前がわざわざ出向くとは、青狼はくたばったか?」

「まだ息災です」

「それは良かった、で?」


「お耳に入れておいた方が良いと、青狼様が」

 微風が木々を揺らし、葉が擦れ合う音が不気味に響いた。

「裏切り者は凌生りょうせいだけではありませんでした。東方の一族が本家から離脱しました、今はこちらも体制を立て直すので精一杯で……」

「わたしに手を貸せとでも言うのか? 青狼と旧知の仲と言えども、そこまで面倒見切れんぞ」


「それはごもっともです、一族の不始末ですから、ただ、離脱した輩は赤狼せきろう様の指輪を狙っております」

「それは邪悪なモノの封印に使われているのだろ、狼ごときに手が出せるものではないぞ」

「はい、狼族だけでは」

「と言うと?」

「黒幕がいます、奴らを焚きつけた者が」

「黒幕?」

「そして、恐らく、その者は封印を破る力をもっております」

 霞は眉間に皺を寄せた。



   *   *   *



「せっかくあたしが鬼を誘き出してやったのに、しくじるなんて情けない」

 アジトにしている安ホテルに戻った羅刹姫は、先に戻っていた摩百合に軽蔑の眼差しを向けた。


「仕方ないだろ、化け猫がいたんだから、あの娘、紫凰の身内みたいだ」

 ふてくされてそっぽを向く摩百合。

「ああ、真琴か」

「知ってるんならわかるだろ、それにアンタだって紫凰が出てきたから逃げて来たんだろ、人のこと言えるか?」

「アイツと一戦交えたら、せっかく蓄えた妖力をたくさん使うことになるからね、今は無駄な力は使いたくないんだ」


「面白そうな話をしてるじゃないか」

 突然、話に割り込んだのは綾小路あやこうじ周平しゅうへいだった。

「化け猫だって?」


 周平に禁術で支配されている摩百合は、偉そうな態度を取られても歯向かえない。そして、支配されていないとは言え、摩百合と争わされては困る羅刹姫も、不遜な態度の人間にムッとしても見過ごすしかなかった。


「ただの化け猫じゃないよ、あの時もいたんだから……いや、三千年以上生きてるって話だよ、帝猫ていびょうの姉弟、恐ろしい奴らさ」

「で、真琴と言ったか? それはまさか七瀬真琴じゃないだろうね」

「そうだだよ、弟の方、白哉びゃくやの娘さ、人間との間に生まれた半妖、だけどその母親ってのが強い霊力の持ち主だったらしく、半妖とは思えない強さなんだ、関わりたくはないけど、どうやら避けられないようだね」

 羅刹姫が説明した。


「真琴が半妖だったとは……」

 険しい表情で腕を組む周平。

「妖怪退治を生業としている綾小路家の身内に妖怪が……? それをひた隠しにしているとは、つくづく信用できない奴らだな」


「しかし厄介だな、そんな大妖怪が絡んでるとなると、計画通りに行かないかも知れないし」

 摩百合は投げやりに言った。

「猫族だけじゃないよ、霞や妙な火の鳥も……それに最近、狼族とも関わったみたいだしね」

 と羅刹姫。

「いくらあたしたちが力をつけたと言っても、それだけを相手にするのはきついかもね」


 周平は余裕の笑みを浮かべながら、

「弱気だな、摩百合は」

「アンタは実際に戦ってないから」

「言い忘れてたけど、東方の狼族を引き入れたぞ、程なく合流する予定だ。封印に使われている赤狼の指輪を取り戻したいらしい」

「狼なんて雑魚、役に立たないだろ」

「数は揃ってる、お前たちの餌にはなるだろ」

「そう言うことか」


「どっちにしても急いだほうがいいよ、向こうは転生者が五人揃ったようだけど、まだ能力を十分に使いこなせないみたいだ、奴らがしゃしゃり出て来ないうちに」

 羅刹姫の言葉を聞いて、周平は懐から朧蜂の卵を出した。

「そうだな、この卵も孵化してしまったら使い物にならないしな」


「転生者たちが黎子を完全に滅する前に、こちらが封印を解いて、黎子を復活させなければ」


(禁術で、復活した黎子を体内に取り込めば、神にも近い力が手に入る)

 周平は心の中でほくそ笑んだ。


(黎子を禁術で取り込もうとしているようだが、甘い! 自滅するだけだ。そうなればあたしにかけた禁術は解ける)

 摩百合は周平を横目に口角を少し上げた。


(黎子はどうでもいい、転生者たちが滅してしまうならそれでもいいが、悠輪の魂を成仏させてしまう前に新たな器で甦らせる)

 羅刹姫は1200年待ち続けた思いが成就する時が近いと胸躍らせた。


 封印を解くことでは一致しているものの、その後の目論見は三者三様だった。


   第11章 沫雪 おしまい


第11章 沫雪を最後まで読んでいただきありがとうございます。

終盤にさしかかっていますので、最後までお付き合いいただけると嬉しいです。

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