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金色の絨毯敷きつめられる頃  作者: 弍口 いく
第11章 沫雪
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その11

 周囲の霧が晴れ、現世うつしよの風景に戻った。

「あらら……」

 紫凰と珠蓮はもう日が暮れていて、誰もいない公園にいた。

 雪は止んでいたが、空気は冷たく、キーンと張りつめていた。


「逃げたのか……」

「これ以上戦って、せっかく溜め込んだ小妖怪を放出したくなかったなかっただけだよ」

 紫凰は大きな吐息を一つ漏らした。


「1200年待ち続けてやっと転生者が現れた。邪悪なモノを今度こそ完全に滅するため、一度、封印は解かれることになるだろう。目的は違うにしても、そのチャンスに賭けてるから、今は無駄に妖力を使いたくないんだろうね」


「それにしても、どれだけの妖怪を取り込んだのやら、そうとう無理して蓄えたようだけど、あのままじゃ……限界だね」

「黎子の二の舞か」


「羅刹姫は黎子よりずっと精神的に強いから、そう簡単に呑まれないだろうけど、緊張の糸が切れた時が怖いんだよ、さっきみたいにコントロールできなくなったら」

 紫凰はフッと目を伏せた。

「ほんと、あの時、食ってやった方が良かったのかもね」

 そうすれば、こんな苦しみを味わうことはなかった。


「けど、信じられないな、あの女に人間の心がまだ残ってるなんて」

 珠蓮はやり切れない思いで紫凰を見た。

「なぜ、みんなに言わなかったんだ?」

「みんな、黎子と面識はないけど、羅刹姫とは関わり合いがあるだろ」

 紫凰は意味ありげな視線を流した。

「今、蓮が感じているのはなに?」

「それは……」

 そう言われて珠蓮は複雑な気持ちを認識する。


「同情、哀れみ、……みんな優しいからね、そんな感情は戦いに支障をきたすんだよ、羅刹姫は必ず関わって来るからね」

「雑念は命に係わるって訳か」

「誰も死んでほしくないんだよ」


「あーっ!!」

 珠蓮がなにか思い出したように、いきなり大声を上げた。

「なんなのよ?」

 耳元の爆音に顔を歪める紫凰。


「ノッコの友達の命が危ないからって頼まれてた見張り! 羅刹姫の奴、あの子のところへ戻ったんじゃ」

 慌てる珠蓮とは対照的に、紫凰は落ち着き払って腰に手を当てた。

「それはないんだよ」

「でも、簡単に獲物をあきらめる奴じゃな……」

 最後まで言い終わらないうち、のんびり歩いている真琴、華埜子、那由他を見つける。


「蓮!」

 向こうも気付いたようで、華埜子が眉を吊り上げながら駆け寄った。

「どこ行ってたん、戸部さん放り出して」

「それは……羅刹姫を追って」

「バカな鬼は、まんまと誘き出されたんだよ」

 言いよどむ珠蓮に変わって紫凰が補足した。


「もーっ、当てにならへんなぁ、危なかってんで」

「羅刹姫が戻ったのか?」

「いいや、摩百合が現れたんや、真琴がいたし即退散したけどな」

 那由他は紫凰の横にピッタリついて、表情を窺おうとした。


「羅刹姫と摩百合が組むやて、あり得へんけどなぁ」

「今回はあり得るんだよ」

 近い那由他を気にする様子もなく、紫凰は淡々と言った。

「じゃあ、また狙われるかも知れないじゃないか、で、あの子は?」

 珠蓮は慌てたが、


「大丈夫、もう霊力は無くなったみたいやし」

「霊力が無くなった?」

「狙われる危険物は、愛犬が虹の橋に持って行ったみたいやねん」

「虹の橋?」

 華埜子の話が理解できない珠蓮は首を傾げた。


「それより蓮はまた羅刹姫に逃げられたみたいやな」

 那由他は珠蓮の疑問を無視して、意地悪い目を向けた。

「知ってるだろ、アイツの逃げ足の速さは」

 バツ悪そうに珠蓮は目を逸らした。

「伯母さんもいたのに?」

 真琴の発言に、

「伯母さん言うな」

 キリキリと歯を噛みしめながら苦笑する紫凰。


「アイツ、めちゃ力つけてるんだ、紫凰も手こずるくらい」

「お前が足手纏いになったからだよ」

 紫凰は不服そうにそっぽを向いた。


「けど、性悪女が二人つるんでるとなると、なんかヤバいんちゃう?」

 那由他は嫌な予感に眉を寄せた。

「それに黒幕もいるんだよ」

「黒幕?」


「何者かはわからないけど、よからぬことを企んでるのは確かなんだよ」


   つづく


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