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金色の絨毯敷きつめられる頃  作者: 弍口 いく
第11章 沫雪

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その10

 そこは焦土と化していた。


 なぎ倒された木々は焼けこげて炭となり、まだプスプスと弱々しい煙を上げていた。

 かつては銀杏が立ち並び、秋も深まると黄金の葉を誇らしげに広げていただろう美しい風景は、見る影もなかった。


 焦土の中にただ一つ、形を留めている大樹があった。

 樹齢千年は越えているだろう銀杏が、縦真っ二つに引き裂かれながらも、かろうじて立っていた。

 しかし大銀杏は、千年の寿命を今、終えようとしていた。


 そして周囲には、五人の若い僧侶が倒れていた。

 みな、息絶えていた。


 粗末な着物を羽織った遊女姿の羅刹姫は、愕然とその光景を見た。

(負けるはずないって……言ってたのに!)

 ガックリ膝をつき、両手で顔を覆う。

 そして思い出したように、涙に濡れた顔をあげ、周囲を見渡した。


 悠輪の姿がない。

 あの子は助かったのか? 羅刹姫の胸に希望の光が点った。が、

(悠輪の身体は跡形もなく消滅したんだよ)

 どこからか聞こえた声は仄かな願いを吹き消した。


 この手に抱きしめる亡骸もないなんて……。

 羅刹姫は地面にひれ伏して泣き崩れた。


(でも魂は、黎子を封印するために残ってるんだよ)


 羅刹姫の肩がビクッと動いた。

(魂が健在ならば、解放して、新しい体に宿すことが出来るのでは?)

(それをあの子が望むだろうか? それに封印を解いたら黎子も甦るんだよ)


(そんなことはどうでもいいわ、あの子さえ救えれば)



   *   *   *



「でも、僧侶としての修行を積んで霊力を高めた悠輪が結んだ封印を解くのは簡単じゃなかったんだよ、亡くなった五人の霊力も使っているからなおさらね、だから彼女は人間や妖怪の魂を食って力を蓄えたんだよ。いつか悠輪の魂を解放するためにね」


 心を見透かされた羅刹姫は、超不機嫌そうに顔を背けた。

「あの時の声は、お前だったのか……、また余計なことをベラベラと」


「そうか、解放して甦らせるために、あんな器を作らせたのか」

 珠蓮は華埜子の家族の墓参りで遭遇した出来事を思い出した。

「器?」

偶仙道ぐせんどうって妖怪に器を作らせていたんだ、それが悠輪そっくりだったからノッコは自分の前世を思い出したんだ」

「土人形に悠輪の魂を宿らせようって考えたの? 浅はかなんだよ」

「それは琥珀こはくが破壊した」


「邪魔してくれて……、でも、あれで目が覚めた、あんな土人形じゃ、悠輪の器には相応しくない、やはり生身の身体でなければね」

「人間を器にするってことは、その人の人生を奪うってことなんだよ、悠輪がそうまでして甦りたいと思ってるはずないんだけどね」


「生きたかったはずだ、修行を積んで阿闍梨となり、後世に名を遺す高僧になるはずだったんだ」

「そう思っているのはお前自身なんだよ」


「アンタになにがわかる!!」


 羅刹姫の右目から、ナマズのような異様な生き物が飛び出した。

 向かって来たソレを、紫凰は指から伸び出た妖気の鞭で一刀両断にした。が、割れたナマズ妖怪の体内から粘液が飛び出し、紫凰と珠蓮に飛び散った。


「気持ち悪~い」

 ネバネバの細い糸は羅刹姫の蜘蛛の糸に違いない。それはプスプスと蒸発し、毒ガスを発生させた。いち早く毒性に気付いた紫凰は、カッと目を見開き、妖気の光でそれを弾き飛ばした。


 しかし、羅刹姫の右目からは、2発目、3発目……妖怪が次々飛び出していた。

 体内から放出した数十匹にのぼる雑魚妖怪は、空中を闊歩し、紫凰と珠蓮はたちまち取り囲まれた。

「ほんと、いったい何匹食ったんだ? こんな気持ち悪い雑魚を」


 紫凰は妖気の鞭を振るい、しかし、ネバネバは被らないように避けながら、雑魚妖怪を破壊し続けた。

 鬼に変化した珠蓮も同様、鋭い爪で雑魚を引き裂きながらも、糸に絡まらないように素早く動き続けた。


 羅刹姫から放出された雑魚妖怪共は程なく全滅した。

 スライムになった残骸が周囲にまき散らされたのを見て、羅刹姫は鼻息を荒げながら、飛び出した右眼球を押し込めながら押さえた。


 まだ飛び出そうとする魑魅魍魎が、羅刹姫の顔面で暴れ、美しい顔がブクブクと大きなイボだらけになった。沸騰する溶岩のような頬からは瘴気が湧き出て、縺れた髪からも毒が蒸発していった。

 その醜い姿を見て、紫凰は顔を歪めた。


「その姿、悠輪に見せられるかな」

 紫凰の冷ややかな言葉に、羅刹姫は悔しそうに唇を噛みしめ、両手で自分の肩を抱いて、体内で暴れている妖怪を抑えつけた。

「見せるつもりなんかない」

 羅刹姫の顔が、元の妖艶な美女に戻った。


「あの子の母親は、とっくに死んでるんだから」

 吐き捨てるように言うと同時に、彼女の姿は煙のように消えた。


   つづく


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