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金色の絨毯敷きつめられる頃  作者: 弍口 いく
第11章 沫雪

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その9

 漆黒の闇に沫雪あわゆきが舞っている寒い夜。

 土塀にもたれかかりながらヨロヨロと歩いている遊女の姿がある。


 寒さをしのげるとは思えないみすぼらしい着物、裸足の指は凍傷で赤く腫れている。咳き込むたびに吐き出される息は白く、当てた掌は血で染まっていた。


 近くで赤ん坊の泣き声が聞こえ、立ち止まる。

 どこから聞こえているのか耳を澄まし、闇の中を見つめた。


 ちょうど寺の門が開き、赤ん坊の泣き声に気付いた僧が出てきたところを見かける。寺の門前に、雑巾のような布に包まれた赤ん坊が置かれているのを見つけた僧侶は、激しく泣いているその子を抱き上げた。

「酷いことをするもんや、凍え死んでしまうで」

 僧侶はぼやきながら寺の中に引き返した。


 遊女は閉じる門に手を伸ばすが、もちろん届かなない。

「あ……」

 遊女は発しそうになった声を飲み込んだ。


 無情に閉じられた門。

 赤ん坊の泣き声は聞こえなくなり、静寂と沫雪が彼女を包んだ。


 力なく跪く。

 そのままうつ伏せに倒れた。

 流れた涙と吐いた血が地面に染みていった。



   *   *   *



「1200年前のあの日も寒い日だった、雪が降ってたね」

 羅刹姫が人間の魂を捕らえる為につくった白い空間で、紫凰は真っ直ぐ彼女を見つめていた。


「見ちゃったんだよ、偶然……でもないか、当時あたしは強い霊力を持つ人間を捜してたんだよ、食うためにね。それがお前だったんだよ、みすぼらしい遊女だったけど、間違いなく類稀たぐいまれな霊力を秘めていたからね」

「みすぼらしい……か、確かにね」


「あの子を寺の前に捨てたのは、お前じゃなかった」


 羅刹姫はフッと寂しそうに目を伏せた。

「病気と栄養不良で乳も出ないあたしには育てられないと思った仲間の遊女が、あたしが寝てる間に取り上げた。確かに、あのままだったら二人とも死んでた。だから、あの子のためにはあれでよかったんだ、わかってたんだけど」


 羅刹姫の形相が忿怒の鬼女に急変した。

「あたしを狙っていたのなら、なぜあの時、食わなかった! そうすれば!」

 怒りに震えて言葉に詰まった。


「なんの話だ、あの子って誰のことだ?」

 二人の話についていけない珠蓮が尋ねた。

「珠蓮には関係ないんだよ」

「おいっ、聞かせといて今更!」


 紫凰は仕方ないなと言わんばかりに大きな溜息をついた。

「この女はね、妖怪になる前は人間だったんだよ、子供を愛する普通の母親だったんだ」

「そんな昔のこと、忘れたよ」

 羅刹姫は吐き捨てるように言ったが、紫凰はかまわず続けた。


「手放したとは言え、我が子の成長を見たかったんだよ、だから死んでも死にきれなかったんだよ。その強い執念と霊力が融合して、近くにいた魑魅魍魎を取り込んで、妖怪として生まれ変わったんだよ」


 睨みつけている羅刹姫を見据えながら、

「最初は自分がどうなったのか理解してなかったんだろう、急に病が治った、神様はいるもんだなんて思ったのかもね、そうして自分が妖怪になったと気付かずに、我が子の成長を見守っていた、立派な青年になるまで」

「気付かないって……、ありえないだろ」

「珠蓮だって、鬼になりたての頃は制御できなくて、記憶飛んでたでしょ?」

「それは……」


「下等な鬼と一緒にするな、あたしは望んで妖怪になったんだ」

「そうだね、でもそれは立派な僧侶になった我が子を見守るためだったんだろ、あの時までは」

「そう……、あの子があんなことにならなければ」


「なにがあったんだ?」

「僧侶となった青年は母と同じく強い霊力を持っていたんだよ、そして邪悪なモノと戦うことになってしまった」

「それって……」


「羅刹姫は、悠輪ゆうりんの母親なんだよ」


   つづく


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