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金色の絨毯敷きつめられる頃  作者: 弍口 いく
第11章 沫雪
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その8

 女の体は巨大な百足むかでの胴体に変化し、口が顔より大きく裂けて、鮫のような歯を露にしながら、美絢を頭からひとかぶりにしようと襲いかかった。


「摩百合!」

 その姿に見覚えがある那由他が叫んだ。

 華埜子も真琴も異様な姿を目にしたが、間に合わないと息を呑んだ。


 その時、どこからかボーダーコリーが現れて、摩百合に飛びかかった。

「ギャ!!」

 犬は摩百合の耳に噛みついた。


 摩百合は狙いを外して、口から地面に激突した。

 その衝撃で、美絢は弾き飛ばされた。


 まだ食らいついている犬を振り払おうと、摩百合は頭を激しく振った。

 その勢いで、犬は摩百合の耳を噛み千切って飛ばされた。

「ギャアァァ!!」

 さらに大きな苦痛の悲鳴を上げる摩百合の耳だった場所から、どす黒い血が噴き出した。


 摩百合は着地した犬に血走った目で歯をむき出した。

 が、その時、刺すような殺気を感じて硬直した。

 横目でそちらを確認する。

 盾に伸びた金色の猫目を輝かせながら臨戦態勢を取る真琴の姿を見つけた。


「ちっ!」

 摩百合は悔しそうに顔を歪めた。

 せめて獲物だけでもゲットしようと、倒れた美絢に目をやるが、そこには既に那由他がいた。美絢を護るように立ちはだかっている。

「くそっ!」


 真琴が一歩踏み出そうとした時、摩百合は地面に潜って消えた。


「大丈夫!」

 華埜子は倒れた美絢に駆け寄って抱き起した。

「あ、あれは……なに?」

 摩百合が地面に潜るのを見ていた美絢は、蒼白になりながら震える唇で言った。

「……」

 華埜子は答えに困って口籠った。


「この子がたすけてくれたんや」

 真琴が話を逸らした。

 さっきのボーダーコリーが尻尾を振りながらお座りしていた。

「あ……」

 美絢の目から涙が溢れ出した。

「ゴマちゃん……」

 手を伸ばすとゴマと呼ばれたボーダーコリーは鼻を擦り付けて来た。

 美絢はゴマちゃんを抱きしめた。


「あの子は……」

 華埜子にはわかった、その犬がこの世のモノではないと。

「飼い主が心配で、成仏出来ひんかったんやな」

 華埜子の目からも涙が零れた。


 真琴と那由他は、少々引き気味で、

「けど、どうする? 摩百合のこととか説明すんの面倒くさいで」

「摩百合のとこは記憶消しとこか」

「愛犬の幽霊との再会だけで、綺麗にまとめられるか?」

「あたしを誰やと思てるねん」


 やがて、ゴマちゃんの姿が薄れはじめた。

「ゴマちゃん……」

 抱きしめていた美絢の手から、感覚が無くなってきた。

「いやや……」

 ゴマちゃんは鼻を鳴らしながら美絢を見上げた。


「いつまでも虹の橋で待ってるし、悲しまんといてってうてる」

 華埜子がゴマちゃんの気持ちを代弁した。

「虹の橋?」

「聞いたことない? ペットが飼主より先に亡くなったら、天国の前にある虹の橋で、飼い主が来るまで待ってるんやで、そこには同じような動物がいっぱいいるし、寂しないねんで」


「そうして飼い主が死んで通りかかった時、一緒に天国の門をくぐるんやで」

「そんな話があるん?」

「ネットで見た」

「ゴマちゃん、待っててくれるんや」

「て、言うても、ちゃんと天寿を全うしな天国へは行けへんねんで」

 華埜子は釘を刺した。


 もう透明になっているゴマちゃんは、最期に美絢の頬を舐めた。

 そして、光の玉となり、昇天して行った。


「ゴマちゃん……」

 両手を天に向かって伸ばしながら、美絢は愛犬を見送った。


   つづく


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