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金色の絨毯敷きつめられる頃  作者: 弍口 いく
第11章 沫雪
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その7

「今日は何事もなかったな」

 授業が終わって帰り支度をしながら、華埜子はホッとして言ったが、真琴が浮かない表情をしているのに気付く。


「どうかした?」

「うん……、蓮の臭いが消えたんや」

「臭い?」

 真琴は綺麗な顔に不似合いに鼻を大きく広げた。

「鬼の悪臭」

「悪臭って……」


「午前中は臭ってたして、どっかに潜んでるんやろうなって思てたけど、午後からは」

「蓮がどっか行ったってこと? 羅刹姫が現れたんやろか」

「わからんけど」


 真琴はふと、窓から外を見下ろした。

 ちょうど美絢が校門に向かう姿を見つける。

「アレって、戸部(ちゃ)う?」

 華埜子も見下ろす。

「早っ」


 華埜子は素早く鞄を手にして、

「急ごっ」

「なんでや」

「蓮がいーひんのやろ、あたしらが守ったげな」

 使命感に燃えて教室を飛び出す華埜子を見て、真琴は大きな溜息をついた。





「戸部さんの家って、こっちの方やったかなぁ」

 美絢の姿を見失った華埜子は、追って来た真琴にすがるような目を向けた。

「戸部の臭いなんか、覚えてへんで」

「なんでぇ」

 華埜子は頬を膨らませた。


よ見つけな、羅刹姫の他にも狙ってる妖怪がいるかも知れんやん、霞さんかて、あきらめてへんかも知れんし」

「霞やったら、山に帰ったで」

 突然、二人の間に那由他が割り込んだ。

「近っ!」

 いつものようにのけ反る真琴と、気にせず愛想を向ける華埜子。


「拗ねてたで、せっかく助けたったのにって」

「だって霞さん、戸部さんを食べるって言うし」

「妙な霊力を持ってる子か」

「元クラスメートやもん」

「友達でもないねんけどな」

 真琴が付け加えた。


「で、その子をいつまで見張るつもりなん?」

 那由他は呆れ顔で言った。

「え?」

「ずーっと見張ってる訳にはいかへんやろ」

「それは……」

 華埜子は急に歩く速度を落とした。


「霊力の強い人間が妖怪に食われる、それは事故みたいなもんやで、避けようがないし、そうなってもノッコのせいちゃうしな、あらがえるとしたら自分自身や」

 那由他はいつになくマジな顔で言った。

「けど戸部さんは自分の力に気付いてへんねんで」

「気付いてへんかっても自己防衛できたやん、ノッコは」

「あたし?」


「確かに……あたしみたいな半妖と関わって、危ない目にもうたけど、いつも切り抜けてきたやん」

 真琴が口を挟んだ。

「あたしには真琴や那由ちゃんがいてくれたし、そやし、今度はあたしが戸部さんの力になってあげたいねん」

 しゃーないなぁと言わんばかりに真琴と那由他は顔を見合わせた。


 その時、前方を歩いている戸部の後姿に気付く華埜子。

「戸部さん!」

 声をかけながら、追いつこうとするが、美絢の横に立っていた女性の方が先に気付いて振り向いた。

 美しいが悪辣な顔、人の姿はしていても人ではないと華埜子は直感した。


 美絢が危ない! 

 全速で駆け寄ろうとしたが、邪気が華埜子の足を止めた。


 女の脇腹から百足の足が何本も飛び出すと同時に、胴体がググッと伸びて3倍の長さになって美絢の頭上に覆いかぶさった。


   つづく


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