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金色の絨毯敷きつめられる頃  作者: 弍口 いく
第11章 沫雪
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その3

「いい加減、機嫌直してぇなぁ、謝ってるやん」

 仏頂面の真琴を、華埜子は困り顔で覗き込んだ。

「別に、ノッコに腹立ててるんちゃうし」


 紫凰しおの話は衝撃的だった。


 邪悪なモノの正体が、年端のいかない少女黎子(くろこ)だったこと。そして彼女もまた犠牲者だったことと、彼女を再び利用する為に、封印を解こうとしている輩がいること……。


 宿命などまだ受け入れられないのに、運命の日は迫っていると知らされ、どうしていいかわからない五人と、1200年前の悲劇を見ている那由他なゆたかすみは、悪夢が甦って動揺する。


 話は終わったが、今、することもないので解散となった。紫凰たち妖怪はそのまま銀杏の森で昔話を続け、超不機嫌になった真琴にはとおるも近付けずに、華埜子は一人で帰ろうとした真琴の後を追った。


 真琴のショックは、そして不機嫌になった訳は、華埜子が転生者の一人だとわかったことだった。


 那由他から何度も聞かされてきた一連の話、物心ついた時から傍にいる那由他だから、出来ることは協力しようと思っていたし、実際してきたつもりだった。

 でも、どこか遠い物語って感覚だった。

 それが唯一の親友と呼べる華埜子が当事者と知り、一気に身近な問題に格上げされた。


 華埜子が、死んでしまうかも知れない。

 そんな考えが浮かんだだけで、全身鳥肌がたった。


「酷いわ那由他の奴、最初から気ぃ付いてたんやったら、もっとうてくれたらエエのに」

 真琴は立ち止まり、荒い鼻息を吹き出した。


「この時代に五人現れへんことを願ってくれてたんや、一人二人現れても、揃わへんかったら来世へ持ち越しやろ」

 華埜子は那由他を庇ったが、

「悠長やな、五人揃わへんかっても、封印が破られるかも知れんのにな」

「確かに……」

 真琴の言葉に納得した。そうなのだ、封印を破ろうとしている奴には、五人揃おうが揃うまいが関係ない。


「それにしても紫凰の奴、最初から全部知ってたのに、黙ってたなんて!」

「でも……、聞いてたところで状況は変わらんけどな」

 華埜子は淋しそうに目を伏せた。

「あたしたちの宿命は、邪悪なモノを完全に滅することなんやし」

「なんか、すっかり受け入れているんやな、死ぬかも知れんのに」


「しゃーないやん、でも、真琴も力になってくれるやろ」

「あたしも綾小路家の親戚やしな、それに黎子の魂も、悠輪の魂も救ってあげたいとも思うし」

 むくれながら言う真琴の横顔を見て、華埜子は笑みを漏らした。


「あれ?」

 その時、前方の騒ぎに気付く。

 パトカーや救急車を取り巻くように野次馬が集まっている。


「事故かな?」

 真琴は表情を険しくして、

「ただの事故(ちゃ)うみたいや、この臭い」

 猫の嗅覚を持っている真琴は、人間の血の臭いの他に、カラスやネズミの血の臭いが混じっているのを不審に思った。


「あれ、戸部さん違う?」

 華埜子は野次馬の後方に戸部美絢とべみひろの姿を見つけた。

「誰?」

「一年の時、同じクラスやったやん」

「ああ、そう言えば……、大人しい子で喋ったことなかったような……」

 真琴が記憶をたどっている間に、華埜子はそちらに向かっていた。


「なぁ、なにがあったん?」

 華埜子は親しげに話しかけたが、美絢の様子がおかしいことに気付いた。

 目は宙を彷徨い、なにも見ていない、心ここにあらずと言った感じだ。

「そんなに酷い事故やったん?」

 もしかしたら事故をまともに目撃してしまい、ショックを受けているのかと思ったが、

「えっ?」

 華埜子の声に我に返った美絢は、驚きの目を向けた。


「事故?」

 その時、初めて周囲の騒ぎに気付いたようだった。

「見てたんちゃうの?」

「あ、あたし……」

「どうしたん? 具合悪いん?」

 心配そうに美絢を覗き込んだ華埜子はハッと顔色を変えた。


「これは……」

 美絢のうなじから、一本の糸が出ているのに気付き、背筋が瞬間冷凍した。


   つづく


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