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金色の絨毯敷きつめられる頃  作者: 弍口 いく
第11章 沫雪
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その2

「なんだ、ちゃんと五人、揃ってるじゃないの」

 紫凰しおは大銀杏の霊木を背にし、両手を腰に当てて偉そうに立っていた。


 ビスクドールのようなフリフリドレスを着た、クリっとした目が可愛い無邪気な笑みを浮かべる美少女。11、2歳に見えるが、何千年も生きている――自分でも歳は忘れた――大妖怪である。


「誰? あの可愛い子は」

 突然、流風るかと共に現れた紫凰を見て、とおる真琴まことに耳打ちした。


 真琴はこめかみの血管をヒクヒクさせながら、

「伯母ちゃん、なにしに来たんや」

 真琴がそう言うや否や、高速猫パンチが飛来した。が、真琴はのけ反って難なく回避した。


「ちっ」

 それを見て、昨日、まともに食らった流風は悔しそうに舌打ちした。

「はは~ん、伯母ちゃんの猫パンチ、まともに食らったんやな」

 流風の様子を察した真琴は、意地悪な笑みを浮かべた。


「伯母ちゃん言うな!」

 二発目も真琴は軽くかわした。

「伯母ちゃん?」

 と復唱した澄の頬にパンチはヒットした。

 見た目より強烈なパンチに、澄は軽々と吹っ飛んだ。


「紫凰ちゃんは真琴のお父さんのお姉さんや」

 ダウンした澄の顔をしゃがんで覗き込みながら、華埜子かのこが説明した。

「それで猫パンチなのね」

 華埜子の横に立つ理煌りおは涼しい顔で頷いた。


 紫凰は吹っ飛ばした澄に目もくれず、

「久しぶりだね、かすみ

 今日の霞は真っ白いロングのダウンコート姿、20歳くらいに見える楚々とした美女だが、大蛇の妖怪なので冬は苦手で、身を縮めて寒そうにしていた。

「おお、1200年ぶりか」

「よくそんなに眠れたもんだね」

「誰も起こしてくれないから」


「別に用もなかったしね」

 那由他なゆたがすかさず口を挟んだ。

「冷たいのぉ、那由他なんかわたしの存在すら忘れておったしな」

「霞と会ったのはまだ雀の時やったしな」

 などと、妖怪たちは昔話に花を咲かせはじめた。


 一方、とおるに突然呼び出され、有無も言わさず銀杏の森に連れ込まれた未空みくは面食らっていた。

 突然、慈空じくうの生まれ変わりだとか宿命だとか、訳の解らない話をされて困惑していた上、次々に現れる奇妙な者たちを見て、呆気に取られるばかり。もはや、どれが人間で、どれが妖怪かもわからない。


 華埜子は墓参りを済ませた翌日、理煌と琥珀こはく、いったん呪いが解けたもののここへ入る為にまた華埜子に抱き着いてもらって呪いを発動させ美少女となったあらたと共にここへ来た。

 最後に現れたのが、朧蜂おぼろばちの巣から来たと言う流風と紫凰だった。


 華埜子は、この状況に困惑している未空に気付き、

「はじめまして、あたしは堤華埜子」

 愛想よく自己紹介した。


「あたしは上野未空」

 未空はまともそうな少女を見て少し安心したが、

「あんたもお仲間らしいな」

「と言うと?」


「あたしは地の能力を持つ地恵じけいさんの生まれ変わりらしいわ、で、柊理煌ちゃんは火の仁炎さん、そこでダウンしてる湖月こげつ澄くんは水の妙水みょうすいさん、あっちにいる綾小路流風ちゃんは風の智風ちふうさんの生まれ変わりや」

「その話だけど、さっき初めて聞いたのよ、ハイそうですかって納得できる話じゃないでしょ」


「初めてでこの状況はカオスやね」

 理煌はまだ井戸端会議のように話し込んでいる紫凰たちに、冷ややかな視線を流した。

「理煌かてあんな奴らと関わり合いたなかったわ」

「琥珀は面白い連中やと思うけどな」

 琥珀は嬉しそうに言った。

「あなたは?」

「琥珀は元インコの魔鳥や」

 グレーの髪にアイスグレーの瞳、ハーフっぽいが普通の人間に見える彼女も妖怪なのかと驚きながら、未空は新にも疑いの目を向けた。


 それに気付き、

「俺は人間やで、ただ、呪いにかけられてるだけの不運な28歳の平凡な男や」

 超美少女に変身している新は、既に涙声になっている。

「男って? 呪い?」


羅刹姫らせつひめって妖怪に呪いをかけられて、女子に抱き着かれたらその子と同い年の女子に変身してしまうんや、丸一日も」

 大きな目から涙が溢れ出した。

「こんな体やし、彼女も作れへん、結婚も出来ひんのや」

 たちまち号泣に変わった。

「ちなみに、呪い発動中は涙腺が緩むんや」

 華埜子が補足した。


 新の泣き声に気付いた那由他は、

「またぁ、なに泣かしてんの」

「おっとぉ、昔話なんかしてる場合じゃなかったんだよ」

 話が途切れたので、紫凰は雑談をしてる場合ではないことを思い出した。


 パン、パン、パン!

 紫凰は手を叩いてバラバラに話をしているみんなの意識を向けさせた。

「注目~!」


 新の涙も引っ込んで、全員が紫凰に注目した。

「重要なお知らせがあるんだよ」

 紫凰は勿体つけて、咳払いを一つした。


「間もなく邪悪なモノの封印が解かれる」

「なんやて?!」

 那由他が驚きの声をあげた。


「朧蜂の卵を使って封印を解こうとしているモノがいるんだよ」

「誰が、なんのために?」

「それはわからないけど、そいつは禁術を使って大百足おおむかで摩百合まゆりを手先に使っているんだよ」

「禁術?」


 紫凰は、流風が雫に渡された古い文献を掲げた。

「すべてはここに書いてあるんだよ、邪悪なモノの正体もね」


 全員が息を呑んだ。


   つづく


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