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金色の絨毯敷きつめられる頃  作者: 弍口 いく
番外編 鱗粉が煌めくとき
112/148

後編 空を飛ぶって最高!

 知之の死体を始末しながら、俺は茶和さんに尋ねた。

「どうやって殺したんや? 争った形跡はないようやけど」


 茶和さんは死体を溶かしている最中とは思えない平然とした笑みで答えた。

「毒よ」

「そうか、くノ一は毒殺を得意としてる人が多いんやったな」

「相手はわたしが一般人だと思って油断してたのよ」

「でも、それだけの技があったら、本家に認められるし、肩身の狭い思いせんでもエエのに」


 一般人と思われている茶和さんは、見下されていつも嫌な思いをしていた。霧矢はなんで役に立たない一般人を後妻に迎えたのかのかと陰口を叩かれていた。

 くノ一であると知っていた俺は、なぜ隠しているのか不思議だった。


「隠しておきたい理由があったのよ」

「理由?」

「あなたにもそろそろ打ち明けるべきなのかもね、霧矢さんももういないし」

「いないって……」

「おそらく、殺されているわ」

 やはり、俺もそう感じていた。


「だから知之が来たんでしょ、霧矢さんが生きていたなら来させないわ」

「でも、父さんが知之なんかにられるわけ、ない」

「1対1なら、負けやしないわ、でも複数で闇討ちにあったなら」

「いったい、なんで父さんが!」

「わたしのせいかも……、きっと、わたしの正体がバレたのね」

「もしかして、望月と因縁のある一族の忍びなんか?」


 茶和さんはフッと目を伏せた。そのしぐさは艶めかしく、でも憂いを帯びていた。

「わたしは忍者なんかじゃないわ」

「え?」

「わたしは人ではないのよ」

「な、なに……言うてるんや?」


「この世界には人ならざるものが存在するの、わたしは俗にいう妖怪よ」

「こんな時に冗談はやめてぇな」

 茶和さんは妖艶な笑みを浮かべながら、掌を差し出した。


 掌から金色に輝く粉が噴き出した。

「これは毒の鱗粉、わたしは毒蛾なのよ」

 茶和さんの細い腕がいつの間にか羽に変化していた。それは蛾というより、美しい蝶々のようだった。

 鱗粉がキラキラと煌めきながら宙を舞うさまを俺は唖然と見上げた。きっと間抜け面だったろう、だって、急にそんなこと言われても……。


「人は我らを恐れ忌み嫌う、でも、霧矢さんは違った。わたしの正体を知っても愛してくれたのよ、あなたはどう? 正体を知って、わたしが怖い? わたしから去っていくのかしら」


 にわかには信じられないし、どうしていいかわからない。


「あなたは特別よ、1年間一緒に暮らして、わたしの妖力に免疫ができたみたいね」

「妖力に免疫って」

「気を付けていても妖気は漏れる、ほんと言うと霧矢さんは毒気に当てられて体調を崩していたのよ、でも、あなたは平気でしょ、鱗粉には強烈な毒がある、これを浴びると普通の人間は死んでしまうわ、あなたは大丈夫でしょ」

 確かに、なんともないけど……。


「それだけじゃない、あなたも扱えるようになっているのよ、気付いていない?」

「俺に?」

「言ったでしょ、あなたは特別なのよ」



   *   *   *



「そうや、俺のそばには妖怪がいる、そして俺はその影響を受けて、特別な力がそなわったんや、だから、ちょっと試してみたくなったんや」

 もう、隠しておけない、開き直ることにした。綾小路流風の正体は不明のままなのが引っかかるが……。


「けど、効きすぎたみたいや、あんなにあっさり死ぬなんて……、あんな派手なことするつもりはなかったんや」

 初めてだから、毒の調節が出来なかったんだ。


「あなた、彼らを殺したこと、なにも感じないの?」

「イジメられてたのにって言ったのはお前やろ、あんなクズども、死んで当然なんや」

 そうさ、いつか消し去ろうと思ってたけど、少々早くなっただけだ。


「気付いてないのね、妖気に侵されてるのよ」

「違うな、免疫ができたんや、毒も操れるようになったしな」


 綾小路は俺をみくびっているだろう。初めて言葉を交わした屋上で刺客の攻撃を受けた時、足がすくんで動けなかった俺を見てるから……。けど、あの時とは違う、俺は特別な力が具わっていることを知ったから。

 毒の鱗粉が舞う空間の中で、俺は生まれ変わったんだ。


「学校でなにをやらかしたんだ?」

 黙って聞いていた悟志が困惑の声をあげた。

「3人殺した」

「なんてことを!」

 悟志は怒りに満ちた視線を俺に投げた。

 そんな目で見ても怖くないぞ、今の俺には!


「そうさ、この毒で」

 俺は茶和さんに教わったとおりやって見せた。

 手のひらから大量の毒の鱗粉が噴き出した。この至近距離なら避けられないだろ?


「無駄よ、その程度の毒はあたしには通用しないわよ」

 綾小路の慌てることなく無表情のまま、いや、瞳の奥に俺に対する蔑みが浮かんでいるように見えた。

 彼女の髪がフワリと風に靡いた。

 風?


 まるで綾小路の体から発生したような風が小さな竜巻になって彼女と悟志を包んだ。たちまち鱗粉は払いのけられて霧散した。

 なんだんだ! こいつは!


「毒を出せるだと? こんなことまで出来るようになっていたとは、もはや人ではなくなっていたのか! もっと早く手を打つべきだったな」

 悟志の刃が目前に迫った。

 人質を殺すのか?


「そうはさせないわ!」


 茶和さんの声が凛と響いたかと思うと、糸の束が現れて悟志の刃をブロックした。糸はたちまち俺の体を包み込んで、そのまま引きよせられた。


 その先には、煌めく鱗粉をまといながら茶和さんがいた。光の中に立つ優雅な姿は女神のようだった。

 今までは父さんの奥さんとして見ていたから、一人の女性と意識したことはなかった。改めて見るとこれほど美しい人だったとは、いや、人じゃないか。


 妖怪……。

 それでもいい、父さんが人ではないと知りながら心奪われたわけだ。


「なんで来たの? 霧人」

 茶和さんは冷ややかな視線を俺に流した。

「茶和さんが心配で」

「ありがとう、でもね、あたし一人でじゅうぶんよ」

 と言いながら、防護服に身を包んだ悟志に鋭い視線を刺した。


「でも、まだ残っていたのね」

 そう言い終わるや否や、茶和さんは口から糸の束を噴き出した。

 この広間はすでに繭で覆われている、逃げ場はないはすだ。

 でも、

「気を付けて茶和さん、綾小路は妙な術を使うんや!」


 綾小路が悟志の前に立ちはだかると、糸は次々と切断され、細切れになって地面に落ちた。

 まるで彼女の手から見えない刃が繰り出されているようだ。人間業じゃない、もしかしたら彼女も妖怪?


「綾小路? 妖怪ハンターか!」

 茶和さんは綾小路から距離を取った。

 警戒を強めた茶和さんの表情が変化する、それは俺が見たことのない恐ろしい形相だった。こんな目で見られているのに、綾小路は眉ひとつ動かさない、そうとう肝が据わっている。


「ハンターって、海外ドラマじゃあるまいし」

「綾小路家は平安時代から妖怪退治を生業としてきた元は陰陽師の一族よ、多くの妖怪がその手に落ちたわ、妖怪を見つければ容赦なく狩る恐ろしい人間たちよ」

 綾小路は否定も肯定もしない、ただ茶和さんをまっすぐ見ていた、感情の見えない凍てついた瞳で。


「その人を連れて外へ出て」

 綾小路は悟志に言った。

「でも、君一人置いては行けない」

「足手まといよ」


「お前一人でわたしに勝てると思っているのか? 自惚れるにもほどがある、いくら妙な術が使えるからと言って、たかが人間ごときが」

 そうさ、人間が妖怪に勝てるわけない。

 無茶だ。

「綾小路は望月家とは無関係、いくら頼まれたからって、命を懸けるなんてバカげてる」

 望月の腕に覚えのある忍者を全滅させた茶和さんにかなうわけない。


「あなたにはわからないわ」

「なにがや」

「自分だけが特別と勘違いしてる人には」

「なんやて!」

「あなたが殺したクラスメート、彼らも誰かにとっては特別な人だったのよ」

「な……」


「なにゴチャゴチャ言っているのよ」

 俺たちの会話をよそに、茶和さんは両手を広げて羽に変化させた。

 昨日見た美しい蝶のような羽、それを羽ばたかせると、太い針が機関銃のように連射された。

 さっきの攻撃はこれだったのか。

 俺には当たらないようにしてくれていたとは思うけど……。


 茶和さんの攻撃はさっき同様、見えないバリアに弾き飛ばされた。

 しかし、茶和さんは攻撃の手を緩めない。同時に糸を周囲に巡らせ、悟志の退路を断った。

「逃がさないわ、望月の人間は一人も逃さない」


「なぜ? 望月家に恨みでもあるのか!」

 逃げそびれた悟志が悔しそうに言った。


「望月に恨みなどなかった、霧矢さんが殺されるまではね。油断したわ、まさか同族に殺されるとは思ってなかったから、人間って残酷だ、意に沿わないと仲間でも容赦なく消すのよ、彼だけじゃなく霧人も殺そうとしたでしょ」

「お前が霧人まで取り込んでしまったからだ」

「殺す必要はなかった。わたしたちは去ろうと考えていたのだから、霧矢さんと霧人と三人で生きて行こうと思ってた矢先に」


「えらく気に入られたものだ、霧矢も災難だったな」

「愛していたのよ」

「妖怪が愛だと? 笑わせるな」

 悟志は信じないが、俺は茶和さんを信じてる。二人が愛し合っていたのは確かだ。

「お黙り!」

 茶和さんの指先から毒針が放たれた。

 しかし、俺には見えないがバリアのようなものに阻まれて、綾小路と悟志の元へは届かなかった。


「お前は何者だ? ただのハンターではないな、その妙な術……」

「あたしが何者かわからないなんて、あなた低級ね」

「なんだと?」

「大物妖怪は相手の力量は一目で測れるから、無駄な戦いは避けされるって言ってたから」

「誰がそんなことを」

「知り合いの妖怪」


「そうか、お前も妖怪から妖力を分けてもらったのか、どんな奴かは知らないけど」

 それなら納得だ。人間業じゃないもの。

 彼女がどんな妖怪と関わり合っているのかは知らないが、俺と同じだったんだ、だから見抜けたのか。そして、俺が茶和さんの影響を受けて毒を操れるようになったのと同じく、あんな術が使えるようになったのか。


「違うけど」

「えっ?」

「この能力ちからが妖力だと思ってるなんて、やはりあなたは低級ね」

「なんだと!」

「望月を放しなさい、父親の代わりに連れて行こうとしているようだけど」

「違うわ、霧矢には無理だったけど、霧人はこれからあたしと同じ毒蛾になるのよ」


 えっ? 俺が毒蛾になる?

 どういうことだ? と戸惑っている間に目の前が真っ白になった。俺は頭んで糸に覆われ、繭の中に閉じ込められた。


「心配しないで、あなたは繭の中で羽化するのよ、生まれ変わるの」

 茶和さんの声が優しく響いた。

 生まれ変わる、その言葉はとても魅力的だった。

「わたしとくれば望みはすべてかなえてあげられるわよ、だって、あなたは特別なんですもの、人間にしておくのはもったいない、人間なんてつまらない生き物よ、あたしとくればずっと長い寿命と特別な力を手に入れられるわ」


 身体は動かせないけど恐怖感はなかった。それどころかなんか心地良い。全身が温かくなって、力が漲ってくる。

 毒蛾……。

 妖怪になるって、どんなだろう。

 不安より期待が大きい。

 人より優れた強い力を手にすることが出来るんだ。もう誰にもバカにされない。


 残念なのは、その力を綾小路や悟志に披露できないことだ。

 きっと茶和さんは二人とも殺してしまうだろう。


 悟志はともかく、望月に関係ない綾小路は不運だったな。妖怪ハンターと言っても、相手が悪すぎた。望月の人たちを全滅させ、かしらまで歯が立たなかった茶和さんに勝てる訳ない。いくら特殊な術を使えるからったって、茶和さんが本気を出せば、本物の妖怪に勝てる訳ないだろ。


 目の前に亀裂が走った。

 隙間から外が少しだけ見えたが、全貌はわからない。どうなってるんだろう?

 それより、羽化は完了したんだろうか、もう外に出られるのか? その時、俺はどうなってるんだろう。

 心臓がドクドク音を立てる。

 期待の高鳴り、希望の鼓動。

 いよいよなんだ!


 ん?

 その時、俺の耳を掠めたのは、

「逃げて……」

 茶和さんの声? なぜか弱々しい、消えりそうな声だ。

 逃げろって、どういうこと?


 亀裂が大きくなって外の様子が見えた時、最初に俺の目に入ったのは、ズタボロに裂けた羽根だった。

 まさか!

 俺は慌てて亀裂に手を入れ、大きく開いた。

 ベリベリッと音を立て、繭が裂けると、俺は勢いあまって外へと飛び出した。


「茶和さん!!」

 そこに彼女の姿はなかった。

 羽根をもがれた昆虫の頭と胴体が、無残に転がっているだけだった。


 そんな……。

 やられたのか? 俺が繭の中にいた僅かな間に……?

 綾小路に?


 望月家の忍びはヤワじゃない、腕に覚えのある一流の者揃いだ、それを短時間で全滅させた茶和さんのが、綾小路にはやられたというのか?

 確かに妙な術を使いこなせるようだけど、本気で殺しにかかった妖怪に太刀打ちできるほどの力を持っていたのか? 妖怪ハンターって……。


 綾小路は感情が読み取れない無表情でそこに立っていた。

 この上なく冷ややかな眼が俺を捕らえる。

 そんな、憐れんだ目で見るなよ!

 俺は生まれ変わったんだ、昨日までのは俺とは違うんだ。

 茶和さんの仇は俺が!


 と決心したものの、綾小路の足元に纏わりついているつむじ風に気付いた時、身体がフリーズした。

 彼女も妖怪並みの力を持っているんだ、風を操る妖怪? かまいたちとか?

 あの風で茶和さんをズタズタに切り裂いたのか?

 毒の鱗粉も、毒針も、糸の束も、あの風の前に蹴散らされたのか?


 茶和さんの最期の言葉、ここはひとまず逃げた方がいいのだろうか?

 でも、逃げるったって、どうやって?

 身体が動かない。

 綾小路の方も躊躇っているように見える。

 冷たい眼の中にほんの少しだが迷いが垣間見えた。

 彼女にも甘さがあるのか、クラスメートの俺にとどめを刺すことに踏み切れないでいる。


 その時、綾小路の体がガクッと傾いた。

 糸が足に絡んだからだ。

 すでに息絶えていると思っていた毒蛾の口から放たれた最期の一撃に、綾小路は不覚を取って膝をついた。


 今だ!


 俺は両手を広げた。

 本能的にしたことだったが、茶和さんのように俺の手は羽に変化し、同時に足が床から離れた。茶和さんが最期の力を振り絞ってつくってくれたチャンスを逃す訳にはいかない。


 俺は天井を突き破って、空へ飛び出した。

 すごいパワーだ。簡単に屋根をぶち破ったんだから。


 俺が出てきた穴から、見上げる綾小路の姿がたちまち小さくなってゆく。

 追っては来れないだろう。

 相変わらずの無表情、もっと悔しそうな顔をしろよ。


 俺は高く、高く舞い上がり、穴の開いた母屋を見下ろした。

 もう、綾小路の表情は見えない。

 それほど高く上がった。


 茶和さんがくれた命、俺は生き延びて、必ず戻って来る。

 力をつけて、きっと敵を討つと約束する。

 それまで待っていろよ、綾小路!





 さて……、これからどうするかな。


 もう、普通の生活には戻れない。

 俺は妖怪になったんだから。

 妖怪ってどんな生活をしてるんだろう?

 なにを食べてるんだろう?


 一人でどう生きて行ったらいいのかわからない不安はある。

 でも、自由だ。

 学校へなんか行かなくていいだろ、そして、どこへでもひとっ飛びなんだ。


 気持ちいい、空を飛ぶって、こんなに開放感があって最高の気分になれるんだ。

 そりゃそうだろ、空を飛べる人間なんていないんだから……、そうだった、俺はもう人間じゃないんだ。


 でもいいや、未練はないし。

 鳥みたいに飛んでるんだぞ。

 鳩の群れが俺の下を飛んでいる。

 が……。


 急に落ちていく。

 一羽、二羽、三羽と……そうか、俺が毒の鱗粉をまき散らしているんだ。無意識だったが、羽ばたくたび、キラキラと鱗粉が宙を舞っている。

 じゃあ、この下にいる人間にも影響を及ぼしてしまうのか? 殺してしまうんだろうか。


 まあ、いいか。


 その時、前方から白い小鳥が向かってくるのが見えた。

 インコか?

 野生じゃないよな、ペットが鳥かごから逃げて来たんだろうか? はじめて大空に飛び出したのに不運だったな、こんなところで俺とすれ違うなんて、毒でやられてしまうのに。


 が、突然、そのインコが爆発した。

「えっ?」

 次に現れたインコは一回り大きくなっっていた、もはやインコではなく、火の鳥だった。


「なに? 火の鳥なんて存在するのか?」

 思わず独り言を漏らしてしまった俺の目前に、火の鳥が迫った。


 そして、

 燃え滾るくちばしが、俺の羽を貫いた。


 なんで!


 考える間もなく、炎が燃え広がり、羽を焼き尽くした。

 なんで!

 なんでこんなことに!


 落ちて行く、その間にも炎は俺の体に引火した。

 わあっ!!!


 熱い! 熱い! 熱い!


 なんでこんな目に遭わなければならないのか、わからないまま、俺の体は……燃え……尽きた……。




   ――― ――― ――― ――― ―――




エピローグ


 昼下がりの公園。

 幼い子供たちが砂場で遊び、近くで若い母親たちがとりとめのないお喋りに夢中になっている。


 地上に降り立った琥珀こはくは、着地すると同時にセキセイインコから人間の姿に変化へんげした。グレーの髪にアイスグレーの瞳でハーフっぽいハッキリした顔立ち、ラフな服装の14、5歳に見える少女。


「不用心だな、誰かに見られたらどうするのだ?」

 ベンチに座っていたかすみが怪訝そうに琥珀を見た。真っ白な着物姿の20歳前後にみえる美しい女性だが、

「人は我ら妖怪を恐れるからな、目立たぬように注意しなければな」


「霞のほうが断然目立ってるやん、白い着物って……、棺桶から出てきた幽霊みたいやで」

「そうなのか? それでさっき子供が逃げて行ったのか」

「怖がらせてどうすんねん、妖怪ハンターに退治されるで」

「ハンターは自分の力量を知っておる、わたしのような大物には手出しせんわ、今は人に害を与えておらんしな」

 と言った時、琥珀の頭に光る鱗粉が付いているのに気付く。


「お前、なにか付いておるぞ、キラキラしておる」

「あ、毒蛾の鱗粉やな」

「毒蛾?」

「なんか邪気の塊が呑気に飛んでたし、撃墜してきたんや」

 琥珀は頭の粉をはらった。


「毒の鱗粉をまき散らしながら飛んでた低級や、公園には小さい子供もいるんやし、危ないやろ」

 琥珀は自慢げに言った。

「お前が幼い子供を気遣うとはな」


「この間、友達になった女の子がまたお喋りに来るかも知れんし」

「不用意に人間と話をしたのか?」

「子供は無邪気でイイで、インコ姿のあたしが喋っても不審がらへんし」

「では、白蛇姿のわたしとも喋ってくれるかな」

「それはアカンやろ、怖がるで」


「インコは得だな、人に好かれる、蛇はなぜか嫌われる」

 霞は口をへの字にした。

「あ、そうや、インコに戻らな」

 琥珀はインコの姿に戻った。

「あの子が来たとき、気付いてもらえへんしな」


 白いセキセイインコ、羽に黒いハート模様が浮かんでいる。


   番外編 鱗粉が煌めくとき おしまい


番外編 鱗粉が煌めくとき を最後まで読んでいただきありがとうございます。

次章は本編に戻ります、終盤に差し掛かっていますので、よろしくお願いします。

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