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金色の絨毯敷きつめられる頃  作者: 弍口 いく
第10章 朧
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その7

 倒れた環花わかの体は黒い瘴気しょうきに包まれたて見えなくなった。


 流風るかはポケットから独鈷を出した。

 それを見た紫凰しおは嫌悪感を露にのけ反った。

「物騒なモノ出さないでほしいんだけど」

「これで妖怪を追い出せば」

「手遅れだよ、もう体内から食われてるんだからね」

「なんでそんなことになったのよ」

大百足おおむかでの力の方が勝ったってことだよ」

「そんな……」


 やがて、環花を包んでいた真っ黒な瘴気が薄れた。

 そこに立ち上がったのは環花ではなく、まったく別の生き物だった。

 顔は妖艶な女性、上半身は豊満な胸の女体で下半身はグロテスクな百足の妖怪。不気味に舌なめずりしながら、切れ長の目をこちらに向けた。


「久しぶりね、紫凰、二百年ぶりくらいかしら?」

「お前は、大百足の摩百合まゆりか?」

 摩百合は長い黒髪をかきあげた。

 二人の視線が交差したところに火花が散った。


「あんた……相変わらず人の子を食ってるんだね」

「当たり前でしょ、今回はまあまあだったわね、憎っくき綾小路家の血統だけあって、少しは霊力を持っていたしね」


「環花を返せ!」

 環花は嫌いだった、しかし幼い頃から生活を共にしてきたのだ情はある。嫌な奴だからと言って、自分が取り込んで利用しようと思っていた妖怪に、逆に食われるなんて、あまりにも憐れだ。

 流風は怒りに任せて風刃を繰り出した。


 摩百合の足が数本吹っ飛んだ。

 が、すぐに新しい足が生えてきた。

「いきなりとは、お行儀悪いわね」

 不敵な笑みを浮かべる摩百合の体から黒い瘴気が沸き上がった。

「お仕置きしなきゃね」

 百足の胴体が巨大化した。


「させないんだよ」

 紫凰の瞳が縦に長く伸び、赤紫の瞳が煌めいた。

 次の瞬間、全身が黒光りする毛に覆われながら巨大化し、変化へんげした。

 ピンと立った耳、牙はプラチナの輝き、肉球からはみ出した爪も念入りに砥がれた日本刀の切っ先のように青白い輝きを放っていた。


 真琴と色違いか……黒も美しい。

 流風は状況を忘れて見惚れてしまった。


 大百足の妖気と、化け猫の妖気がぶつかり合って弾けた。

 その衝撃波は周囲に広がり、武装兵もろとも、守られていたはずの朧も飛ばされ、卵の入ったおくるみも手から離れた。

 おくるみがひっくり返って卵が宙を舞った。

「あっ!!」

 朧は必死で手を伸ばすが届かない。


「ちっ!」

 目の端にそれが入った紫凰は、長い尻尾で空中の卵をからめ取った。

 しかし、同時に摩百合も尾節を伸ばして卵を一個弾いた。


「いっただきぃ~」

 尾節に弾かれた卵は、大きく開けた摩百合の口へ一直線。

「これを食らって妖力を増せば、紫凰なんか敵じゃないわ」

 阻止しようと前足を伸ばすが、とうてい届かない紫凰は悔しそうに牙を剥き出した。


 が……、

 卵が口に入る直前、摩百合の表情が凍り付いた。

 目は急に輝きを失い、虚ろなになった。

 そして、口を閉じ、両手で卵をキャッチした。

「わたしの使命は卵を手に入れること、あの方の為に……」

 そんな摩百合の様子に驚き、紫凰は眉をひそめた。


 摩百合は卵を豊満な胸の谷間に押し込むと、全身から黒い瘴気を放出した。

 紫凰は退き、朧を守るように盾になった。

 流風は独鈷を翳して結界を張った。


 瘴気は朧蜂の巣全体を覆いつくしたが、程なく収まった時、摩百合の姿は消えていた。そして、毒に当てられた武装兵たちが倒れていた。


「どこへ逃げたって無駄なんだよ、お前の臭いは覚えたからね」

 追おうとする紫凰の耳を、朧は引っ張って止めた。

「子供たちを助けてくださいな」

「我らは大丈夫です朧様、それより卵は」

 力を振り絞って立ち上がろうとする兵士に、朧はドレスの裾を持ち上げて包んだ卵を見せた。

「大丈夫ですよ、ほら、6個も無事なのですから」


 紫凰は人間の姿に戻ってうなだれた。

「用心棒失格だね」

「そんなことありません、最小限の被害で食い止められたのだから」

 朧は微笑みながら卵を一個差し出した。

「それは受け取れないよ、しくじったんだからね、あたしが貰うのは、摩百合が持ち去った一つだよ」


「そう言えば、何故すぐに食べなったのかしら、一呑みにすれば妖力がさらに増して、紫凰に対抗できたかも知れなかったのに」

 悪気はなかっただろうが朧の言葉に紫凰はムッとした。

「それでもあたしが勝ってたけどね」 


 流風はまだ独鈷を握りしめたまま、憮然と立ち尽くしていた。

「そんなものは早くしまいなさいよ、あたしたちには毒なんだからね」

「環花は!」

 紫凰に声をかけられて我に返った流風は、環花の姿を捜して周囲を見渡したが、

「あきらめるしかないんだよ、体も魂も食われて既に消化されてるし」

 紫凰はそっけなく言った。

「そんな……」


「身から出た錆なんだよ、禁術を使ったんだから」

「でも、どうやってそんな術を!」


 紫凰は再び、流風から綾小路家の文献を取り上げた。

「これに書いてあると思うんだよ」


   つづく


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