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金色の絨毯敷きつめられる頃  作者: 弍口 いく
第10章 朧

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その4

 いつの間にか図書館内は真っ白な霧に包まれていた。

 息苦しくないので煙ではなさそうだ。


 それにしても、周囲の人々は立ち込めた霧に気付いていない? 見えていないようだ。これは怪異で普通の人に見えないと言うことか……? 流風が警戒しながら周囲を見渡していると、


「侵入者だ!」

 突然の大声に振り返った時、流風は既に十人程の女性武装集団に囲まれていた。

 肌の露出が多い原始人みたいな服装、みんなプロポーション抜群、鍛え抜かれた肉体美で、武装と言っても槍を手にしている程度だが、殺気をギラつかせながら流風に切っ先を向けていた。


「どうやって入り込んだんだ!」

「卵は渡さんぞ!」


 なんのことかわからないが、危機に直面しているのは確かだ。しかし、館内にいる他の人々の様子に変わりはない、霧と同様、見えているのは自分だけなのだ。でも、ここで乱闘したら、あの人たちにも影響を及ぼすかもしれない、と、流風は躊躇した。


 だが、迷っている暇はなかった。攻撃は一斉に始まり、煌めく槍頭が目前に迫る。流風は反射的に掌から風の能力を繰り出した。

 風刃は柄を切断して吹っ飛ばした。

「なに!」

 武装集団はたじろいで距離を取った。

 その時、


「迷い込んじゃったみたいだね」

 凛と響く声がした。

 振り向くと少女が立っていた。ビスクドールのようなフリフリドレスを着た、クリっとした目が可愛い無邪気な笑みを浮かべる美少女。11、2歳に見える童顔には合わぬ巨乳でエロい体つき、腰に手を当て偉そうに立っていた。


 少女は肩にかかる縦ロールの黒髪を揺らしながら流風に歩み寄った。

「怖がらなくてもいいよ」

 流風は警戒しながら距離を取ろうとした。

 武装兵の一人が槍を突き出して威嚇したが、少女はキッと目力でそれを制した。


「この子は人間だよ、卵を食べたりしないわ」

「まさか、人間が入れる場所じゃありませんよ」

「普通じゃないんだよ、この子は」

「あたしを知ってるの?」

「ええ、綾小路流風ちゃん」

 意味ありげに目を細めた。


「あたしの名前は紫凰しお

「小さじ一杯?」

「そう、舐めるとしょっぱい、って違うんだよぉ~、紫に鳳凰の凰と書いて紫凰って読むんだよ、高貴な名前でしょ」


「で、何者なの?」

「わからないの?」

 紫凰の瞳が縦に長く伸び、赤紫の瞳が煌めいた。

 色こそ違うが、それは真琴と同じ目だった。


「人間風に言うと、真琴は姪なんだよ、弟白哉(びゃくや)の娘だからね」

「じゃあ、化け猫か」

 いきなりパンチが流風の額にヒットした。不覚にも超高速の猫パンチを避けられなかったが、爪は出していなかった。

「目上の者に対する礼儀を知らないのかな? 猫族って言ってほしいんだよ、由緒正しい帝猫ていびょうの血筋なんだからね」


「紫凰様のお知り合いですか?」

 武装兵の一人が、まだ警戒しながら紫凰に訊ねた。

「姪の友達なんだよ」

「でも、人間なんでしょ?」

「この子は強い霊力を持ってるんだよ、智風ちふうっていう坊主の生まれ変わりだからね、ただ、ちゃんと制御できないから迷い込んじゃったんだよ、許してあげて」


「智風様の生まれ変わりですの?」

 そこへ新たに現れたのは、真っ白いシンプルなドレス姿の美しい女性だった。陶器のような白い肌、眉毛と長いまつげまで金色、腰まで伸ばした金髪が神々しく輝いていた。


 彼女は瞳を輝かせながら、真っ直ぐ流風に近付いた。彼女が大事そうに抱えるおくるみの中には、握り拳くらいの大きさの卵が七つ入っていた。

「撫でてくださいな」

「え……?」

「智風様の霊力に浄めていただけたら、きっと丈夫な子が孵りますから」

「あなたも智風を知ってるの?」

「はい、よく存じております」

 若く見えても妖怪、1200年以上生きているんだ、と驚きながらも、流風は言われるまま卵に手を当てた。


「産卵の日に再会できるなんて、なんたる幸運でしょう」

「なんの卵なの?」

「わたくしの卵に決まってるじゃありませんか」

 キョトンとする流風に紫凰が説明した。


「今日、おぼろが産んだんだよ、その卵は栄養満点、妖力を格段に増強させるから、妖怪たちがこぞって狙うんだよ、あたしは卵が孵化するまで守る為に来たんだよ」

「紫凰は用心棒なのですよ」

 二人は顔を見合わせて微笑み合った。


 まだ状況が理解できない流風は首を捻った。


   つづく


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