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金色の絨毯敷きつめられる頃  作者: 弍口 いく
第10章 朧

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その2

 環花わかとの再会で流風るかはドッと疲れた。

 しかし、さっきの違和感はなんだったのだろう? 一年ぶりに会って、お互い多少の変化はあるだろうが、それだけではない気がしたが、何故かは解らずモヤモヤと気持ち悪かった。


 その時、スマホが鳴った。

 周平しゅうへいからの着信だった。

『久しぶりだな流風、元気にしてるか?』

 周平の声は浩平こうへいとよく似ている。懐かしい声に流風は胸が締め付けられた。


 周平は浩平の弟、年が離れていたのでまだ24歳だが、やはり兄弟、声はそっくりだった。しかし、努めて感情を押し殺したトーンから、周平がまだ流風を許していないことが感じ取れた。浩平が妖怪に殺されたのは流風のせいだと思っているのだ。


「ええ、元気よ」

『実は今、京都駅に着いたとこなんだ、面倒な用を仰せつかってな、環花、訪ねて来なかったか?』

「来たわよ、さっき」

『どこにいるんだ?』

「中央図書館だけど、もういないわ、どこかへ行ったわよ」

『くそっ、もう少し早く連絡してれば引き留めておいてもらえたのに』

「あたしの言うことを聞くと思う? 大百足を追っているとか言ってたわよ」

『しょうのない奴だ』

「すごく張り切ってたわよ、邪魔するなって」

『アイツの手に負える奴じゃないんだ、危険だからって止めるのも聞かずに勝手にこっちへ来ちまったんだ』

 面倒な用とは、環花を連れ戻すことなのかと流風は同情した。


『京都へ向かったと聞いて、なおさら闘志を燃やしたんだろうな、お前がいるからな。気付いていると思うけど、お前に相当なライバル心を持ってるし』

 もちろん流風は感じていたが、競争する必要がどこにあるのか理解できなかった。環花は綾小路家直系の血筋、なにもしなくても将来は約束されている。流風のような血縁者でない者は使い捨てにされるだけだ。……そう思っていた、本家へ来るまでは。


『アイツは自分を知らなさ過ぎる、力の差は歴然としてるのに、真佐様の孫っていうプライドだけが高いから厄介だ』

 いきなり電話でこんな愚痴を流風にこぼすなんて、周平も相当手を焼いているようだと気の毒に思った。


『とにかく、また環花と会ったら、なんとか引き留めて俺に知らせてくれ、アイツになにかあったら俺のせいにされちまうからな』

「わかったわ、大変だね周兄しゅうにいも、」


 それにしても大百足の話が本当なら、まったく妖気を感じないのが不自然に思え、流風は眉をひそめた。



   *   *   *



「流風はこっちの水が合ってるようだな」

 電話を切った周平は運転席の瑞羽みずはに言った。

「久しぶりに話したけど、随分丸くなった感じがした」

「あの短い会話でわかるの?」

「当たり前だ、ガキの頃から知ってるんだから」


 綾小路周平はマッチョな体格でスポーツマンタイプの爽やか系好青年、京都に来ると連絡を受けた瑞羽は京都駅まで迎えに来た。

 瑞羽と周平は遠い親戚にあたり、年が近かったので子供の頃、分家へ行った時はよく遊んだ仲だ。


「やっと慣れてきたみたいやわ、友達も出来たし」

「友達? アイツに?」

 周平は目を丸くした。分家にいた頃はほとんど口を開かない暗い少女で、学校でもいつも一人だったと聞いていた。

「流風も変わった子やけど、それに負けへん変な奴が揃ってるしな」


「そうか……、こっちに来て良かったんだな」

颯志さじおじいちゃんもアンタらには悪いと思たはるんや、流風は優秀やしな」

「当たり前だ、浩兄こうにいが仕込んだんだからな」

 投げやりに言った周平の言葉に、瑞羽は引っかかった。


「いい加減に許してあげたら? いいや、許すも許さんも、流風のせいちゃうやん、浩兄が死んだんは……。ああいうことは誰の身にも起きる、あたしかて、いつそうなるかわからんしな」

「わかってるさ」


「なんでこんな家に生まれたんやろな」

 瑞羽は歩道を行きかう人々に視線を流した。

「ほんま……不公平や、親は選べへんしなぁ、けど、親の顔も知らん流風よりはマシやと思うで、ちゃんと育ててもろたんやもん、流風にとって浩兄は親同然やった、一番辛いのは流風(ちゃ)うかな」


「わかってるよ、頭ではわかってるんだ、けど……」

 ハンターだった両親も妖怪に殺され、周平にとって浩平はたった一人の肉親だった。綾小路家の一員と言っても、やはり親戚とは距離感が違う。

 浩平が殺された時も、親戚連中が心無い陰口を叩いていたことを周平は知っていた。心から浩平の死を悼んでくれた人は少なかった。綾小路家の冷たさを周平は思い知らされた。

 それ以来、周平はいつも孤独を感じていた。


「見掛けだけは一人前になっても、中身は変わらずお子ちゃまやなぁ」

「年下のお前に言われたくない」

 子供っぽくむくれる周平を見て、瑞羽は笑みをこぼした。

「時間が解決してくれるやろ、ちょうど良かったやん、離れられて」

「ああ、けどそんな理由で呼び寄せられたんじゃないだろ、俺たちの関係を気遣ってくれたとは思えない」


「鏡に見えたしやで、聞いてなかったん?」

「綾小路カースト下層の俺は、理由なんか聞かされないよ、命令に従うだけさ、上層部のお前とは扱いが違うんだ」

「カーストって……」

「わかってるだろ、平安時代から身分制度は続いてるんだよ、綾小路家は」

 瑞羽は反論できなかった。確かにそう言う嫌いはある。


「鏡……か、鏡のお告げはそんなに重要なのか?」

「当たり前やん、鏡のお告げがあったし、綾小路家は繁栄を続けられてるんやしな、周兄と環花わかが来るのもわかってたで」

「まさか」

「なんか隠してへんか?」

「俺はただ命令で環花を連れ戻しに来ただけだよ」

「ほんとに?」

 瑞羽はからかうように周平の顔を覗き込んだが、瞳の奥の翳りに気付いてドキッとした。


 こんな表情をする人だっただろうか? しずくが告げた通り、彼がなにかを隠してると感じたが、周平の目は拒絶していたので追及できなかった。しばらく合わない間になにがあったのか、なぜこんなに暗い目をする人になってしまったのだろうと、瑞羽は胸が痛んだ。


「雫おばあちゃんを見くびったアカンで、ただの老いぼれと思てるかも知れんけど、霊力は健在やで、ある意味、颯志おじいちゃんより怖い存在やで、なんせ、物心ついた時から、鏡に映る色んなものを見てきた人やしな」

「覚えておく」

 周平はフッと目を伏せた。

 そして、決心を固め、

「ところで……運転代わってくれない?」


 瑞羽の運転が酷いのは折り紙付きだ。周平は今にもゲロしそうなムカつきに耐えながら、やっと言った。


   つづく


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