表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
金色の絨毯敷きつめられる頃  作者: 弍口 いく
第9章 傀儡
100/148

その9

 堤家先祖代々之墓に、先程の騒ぎで放り出されて少々くたびれてしまった仏花が供えられている。


 線香に火をつけて手を合わせる華埜子。

 後ろに控えていた那由他、理煌、琥珀、まだ呪い発動中の新、珠蓮も手を合わせた。


「最後になるかも知れへんなぁ」

 華埜子の呟きを那由他は聞き逃さなかった。

「なんで?」

 華埜子は哀しそうな笑みを向けた。


「もし五人揃ったら、邪悪なモノを完全に滅するために戦うのが宿命なんやろ? 今度こそ命を賭けて……、生きて帰れへんってことやん」

「えーーっ! 理煌もその中に入ってるじゃないの」

 理煌は思わず叫んだ。


「この年で死ぬなんて納得できないわ、なんで前世の人がしでかしたことの尻拭いしなきゃならないのよ、生まれ変わりったって別人でしょ、そもそも輪廻転生を信じるなら、みんな誰かの生まれ変わりなんでしょ、普通は前世でなにをやったかなんて覚えてないし、今の自分には関係ないじゃない、理煌だって、那由他に会わなかったら知らないままだったしぃ」

 恨めしそうに那由他を見た。


「運のいい奴、悪い奴っているだろ、それがどうして決まるのかわかるか?」

 白々しく知らん顔している那由他に変わって、珠蓮が割り込んだ。

「確かに普通は前世の記憶なんかないし、人としては別人だ、けど、魂は同じなんだよ」

「魂?」


「美しい魂を持って生まれた人は幸せに、汚れた魂は不幸に落ちる、記憶がないからわからないけど、前世での行いはそんなふうに影響するんだ」

「じゃあ、前世で罪を犯した人間は幸せになれないって最初から決まってるの?」

「そうじゃない、生きている間だけは魂を磨ける、良き行いをする即ち徳を積めば魂は浄められて運命を変えることが出来るんだ」


「お坊さんの説教みたいなこと言うのね、その説が正しいかどうかは知らないけど」

 重賢和尚が言うなら説得力あるけど、いくら500年生きている鬼だとしても、見た目が自分と同世代の珠蓮ではイマイチ心に響かないと理煌は思ったが、

「見くびったらアカンで、こう見えても珠蓮は修行を積んできたしな」

 見透かした那由他が言った。


 そして合点がいったとばかりにポンと手を叩いた。

「そうか! 理煌がちょっとも上達せえへんのは、そんな猜疑心を持ってるさかいや、迷いは精進の妨げになるんや」

「ちゃんと訓練して上達したら生き残れるの?」

 まだ食い下がる理煌に、

「その執着が失敗に繋がってんで」

 華埜子は力なく言った。


 そんな華埜子の頭に、珠蓮が手を置き、髪をクシャッと掴んだ。

「お前なぁ、死ぬ気満々やけど、真琴が放っておくと思うか?」

「真琴には内緒に」

「俺も放っとかないぞ」

「蓮……」

 華埜子は潤んだ瞳ですがるように珠蓮を見上げた。


子供ガキの時からお前らを見て来たんだぞ」

 珠蓮は優しく目を細めた。

「心配するな、霞だっているし、自称大妖怪の真琴の親父も協力してくれるさ」


「そうや、それにこの1200年で大銀杏も霊力を蓄えてるし、そもそも悠輪は誰かを犠牲にしようなんて考える人やない、きっと今度は上手く行く」

 那由他が自分にも言い聞かせるように大きく頷きながら言った。



   *   *   *



 綾小路家の書庫。

 書庫と言ってもいわゆる本、書物が並んでいる訳ではない。妖怪に関する資料、特徴や弱点、封じる呪文と滅し方が詳細に書き残されている記録だ。平安時代から妖怪退治を生業としてきた綾小路家の歴史書とも言える。


 本棚が迷路のように並ぶ薄暗い部屋に、小さな明かりが移動している。

 ペンライトを持つ流風の手。

 音もなく奥へ奥へと進んで行く。


「なにしてるんや」

 突然の声に流風はビクッとした。人の気配に気づかなかったことに驚きながら振り返ると、そこにはしずくが立っていた。

 背中が丸くなった小柄な老女の姿が幽霊のように浮かび上がり、あまりの不気味さに流風はライトを落としそうになった。


「浩平は優秀な先生やったようやな、厳重なセキュリティーを破ってここまで来るとは」

 雫は厳かな声を発した。

「立入禁止なんは知ってるな」

「ええ、でも……、霞に関する文献を調べに来た時、違和感を覚えたんです。その時はさして気にもしなかったんですが……」

 奥を見つめる流風、暗くてなにも見えないが、

「日が経つにつれ、駆り立てられるんです、あそこへ行かなきゃって」


「それは智風様の記憶か?」

「雫様もご存知なんですか?」

「鏡はな、なにでも見通せるんや」

「だからあたしを東京から呼び寄せたんですね、そしてここへ来ることもわかってた」

「お前がなにを探してんのかもな……、真実を知ったところで宿命から逃れる訳やないけど、知る権利はあるわなぁ」

 雫は古びた書物を差し出した。


「これは?」

「綾小路家の古い文献や、一族の始まりは陰陽師やったんや」

 暗くて雫の表情はわからなかったが、語気は酷く沈んでいた。

「陰陽師って、安倍晴明みたいな?」

「安倍晴明より時代は遡るけどな……」

 雫は流風に顔を近付けて、囁くように続けた。


「晴明が一条戻り橋の下で鬼をうてた話は知ってるか? 綾小路家の先祖も妖怪を操る術を心得てたんや、それは今も口伝されてて、うちと颯志さじだけが受け継いでるけど、禁とされてる危険な術や」


「一生、使うことはないと思てたんやけど……」

 雫は首をうなだれた。

 流風は一瞬、得意の寝落ちをしたのかと心配して支えようと手を伸ばしたが、雫はすぐにクイッと顔を上げた。

「転生者が五人、現れてしもたら、禁を犯さんならんかも知れん」

 間近で見た雫の顔は柔和で優しかったが、小さな目は悲哀に潤んでいた。


「どういう関係があるんですか?」


「うちも……宿命を背負って生まれた転生者なんや」


   第9章 傀儡 おしまい


第9章 傀儡を最後まで読んでいただきありがとうございます。

物語は核心に入っていきます。次章もよろしくお願いします。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ