吐け!
奇妙な短編をどうぞ…
俺は苅田啓次郎。刑事だ。
俺は署内で、『吐かせの苅田』と、言われている。それは何故か?それは、俺はどんな犯人も、動機を吐かせたからだ。
例えば、ある放火犯は、田舎からの母の手紙で吐かせ、ある銀行強盗犯は、そいつが幼き頃ずっと聴いていた童謡を歌ってやった。
このように俺は、どんな奴でも、吐かせてきた『吐かせの苅田』だった。奴が来るまでは…。
ある日の事、俺はとある奴の事情聴取を頼まれた。そいつは連続殺人犯。名は桐岡強。早速俺はそいつを吐かせようとした。
「ねぇ、桐岡君、どうして、君はこんな事をしたの?」
「…………」
「はぁ…あのねぇ、早く言わないと、伸びちゃうよ、罪。まぁ、君は約十人以上は殺してるから、死刑は免れないよ」
「…………」
ちょっとしたジョークをいったつもりだが、桐岡は、笑うこともなく黙っていた。
「へへっ、ちょっとつまらないか。実はね、俺、署内で、ダジャレの苅田って言われてんだ。俺のジョークは笑い過ぎて、呼吸困難になるかもよ〜?」
勿論、俺がそんなことを言われているのは嘘。しかし、俺は今まで、こんな事をして、動機を吐かせたのだ。
「じゃあ言うぞ〜。せーの、布団がふっと」
「うるせぇよ!何なんだよそのギャグ、全然面白くねぇよオッサン!」
やっと、桐岡が口を開いた。俺はチャンスだと思い、こちらも話しかけた。
「やっと口が開いたねぇ、桐岡君。じゃあ、何でこんな事をしたの?」
「ちっ…」
桐岡は舌打ちをしただけで、何も話さなかった。
「うむ…君が黙るなら、こちらも何か手を打つよ」
「あっそう」
「…そうだ。君は小さい頃、何か聴いてた?童謡とか」
「……かあさんの歌……」
「かあさんの歌ねぇ…よし、俺が、一肌脱いで歌ってやる!」
「そうですか」
桐岡は、少し不機嫌そうに相槌をした。
「じゃあ、合いの手入れろよ!いくぞ!…かあさんが夜なべをして手袋あんでくれたぁ〜」
「……………」
桐岡は少し呆れたように拍手をしただけで何も言わなかった。
「うむ…何も言わないなら…おい、菊野。あれ、出せ」
「はい」
俺が、部下の菊野にそう言うと、ポケットから封筒が一枚出てきた。
「どうぞ」
「おう」
「なんだよ、それ?」
「これはお前の田舎の母親からの手紙だ」
「えっ」
勿論、これは、田舎の母親からの手紙では無い。しかし、俺は動機を吐かせる為には、手段を選ばないのだ。
「じゃあ、読むぞ。ごほん。『強へ、都会の生活はどうですか?ちゃんとご飯は食べてますか?会社には行けてますか?私は少し心配です。お父さんも心配して、少ししか眠れていません。せめて、手紙を送って私達を心配させないでください。 麻美』。な、お前の父さん母さんは、お前の事を心配してる。さっさと、吐いたらどうだ」
桐岡の口が動く。
(クク、やっぱり俺は、他のへっぽこ刑事とは違う!)
俺はそう思い、優越感に浸っていたその時、桐岡は急に笑いだした。
「フッ、フフフフフフフフフフフフ、アッハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハァ、ハァ、ハァ、ハァ…全く面白いなぁ」
「な、何が、面白い!」
「あ〜あ、アンタは馬鹿だ。大馬鹿だ」
「な、何だと!」
「俺にはなぁ、両親は居ないんだよ」
「なっ…」
俺は驚いた。桐岡に両親が居ないと言う事に。桐岡は続ける。
「俺の親父は、俺が、産まれたと知ると、お袋の所を出ていった。そして、お袋は、当時生後一ヶ月の俺を児童養護施設に送ったんだよ。まぁ、かあさんの歌は施設の人が、歌ったがね」
「あ、あぁ…」
「あと、動機は金が欲しかったんだ。それでいいんだなぁ、大馬鹿の阿呆のオッサン」
俺はその言葉を聞いた瞬間、堪忍袋の緒が切れた。
「貴様ぁ!」
俺は桐岡の首を絞めた。
「な、何してんだ…オッサン…」
「ちょっと苅田さん!落ち着いて…」
「うるせぇ!コイツにはなぁ…少し厳しめのムチを与えないといけないからなぁ!」
俺は桐岡の首を絞め続けた。そして、数分後、俺は桐岡の首から手を離してやった。
「あぁ…」
「へっ!最近の若者は嘘を付きたがる馬鹿が沢山居るからなあ…たまにはこうして、少しヤキを入れてやらないとな」
「…止まってます…」
「あぁ!何がだよ!」
「し、心臓が止まってます」
「え…」
俺は殺したのだ。たかが動機を割らせる為だけに人を殺したのだ。
「ぼ、僕…誰か呼んできます!」
「お、おい!やめろ!」
その瞬間、人を殺したショックなのか、俺は意識を失った。
「う、う〜む、はっ!ココは…」
俺はいつの間にか留置所にいた。俺はなぜ、ココにいるかわからなかった。すると、向こうの扉から、一人、警察官がやって来た。
「お、おい!ココだ!助けてくれ!」
するとそいつは俺の頼みを聞いてくれたのか、柵を開けてくれた。
「全く、すまないね。にしても、なぜココに?」
「付いて来い」
「なっ…貴様、俺は刑事だぞ、お前の様な雑魚風情が私に楯突くなど言語道だ…」
「いいから、付いて来い」
俺はそいつの圧に押され、仕方無くそいつについていった。
数分後。
「おい、着いたぞ」
「お、おい。ここって…」
俺は、取り調べ室についていた。
「入れ」
「………」
「入れよ!」
「ちっ!わかったよ」
俺は扉を開く。そこには厳しそうな顔の男が、一人いた。
「どうも、刑事の戸塚章平だ。座ってくれ」
俺は言われるがままに、席に座った。
「お前は何故、首を絞めた?」
「は?」
その瞬間、そいつは机を叩き、俺の胸ぐらを掴んだ。
「言えってんだよ、バカヤロー!」
「ひ、ひぃ…」
そいつの圧に俺はビビってしまった。
「まぁ、いい。まだ時間はたっぷりある。さぁ、聞こうかね、貴様の罪の理由を」
俺は思った。(まさか、俺が吐く側になるなんて思いもしなかったなぁ…)
警察署の取り調べ室は戸塚の雷の様な声で響いた。
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