一周年企画 ・・・そうだ。京都○行こう!
原案・マグマフレイムさま。
構想は感想で盛り上がっていた、エルレアの息子設定のエルトキ。最強黒髪男子。です。
捨てがたかったので、こっそりオウランの末子設定のコクランも。
これは、あったかもしれない未来。
そして、あったかもしれない過去。
枝分かれした時空。存在を消された存在。
・・・枝分かれした時空の息子たちと、界渡りをする前の普通の少女の話。
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「いってきます!」
制服のスカートを翻して、少女が鮮やかに駆けて行く。
毎日の習慣では、この先の角を直角に左に曲がり、その先のコンビニで右に曲がる。
それからひたすら前を目指して走り抜ければ・・・学校だ。
なのに、今日は。
コンビニの角を曲がったら、突然生えた腕に、腕をとられてしまった。
あまりの事態に目が点になる。
・・・腕は空から生えていた。・・・と言うか・・・空中に腕があった。
「・・・ホラー・・・」
ぶんぶんと振りほどこうにも、離れない腕。これはあれだ。
「あなたの知らない世界! ・・・知らなくていい物は知りたくありません! ってか、はーなーしーてー!!!」
いやあああ、と半ばパニックに陥りながら必死に腕をふる。
やがて、腕から肩。肩から首。頭と順に空間に出てきた男が(少年だ)チヒロを見て・・・笑った。
「ええと、取りあえず・・・京都にでも行っておこうか?」
「いやあああっ!!!」
「あははー。かあさんはわがままだなあ!」
もう一人の声にぎょっとして、新たに現れたどことなく似た少年二人に肩を掴まれた。
上半身だけ空中から出してきた少年達に拘束されたチヒロの身体が地面とおさらばするのに時間は、そうかからなかった。
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何もない空間でチヒロは頼りになるものはこのカバンだけだと、しがみ付いたまま少年を見上げた。
黒髪に黒の瞳の見慣れた色だが、どうやったらこうも神々しいばかりの顔立ちになるのだろう・・・?肌の色が浅黒い方の少年は、目を合わせたら吸い込まれそうになるくらいの美貌を持っていたし、もう一人の少年は肌の色こそ真珠を溶かしたような色合いだが、顔立ちの秀麗さが、共に際立っていた。
(ハーフなのか、な・・・)
そう思いながら見上げていると、少年がチヒロの目線に目を合わせて微笑んだ。
多分、女の子だったら、気絶しててもおかしくない微笑だ。
でもチヒロにとっては、なんと言うか、温かな親愛の情が溢れ出す笑顔だった。
そう例えるならば。・・・赤ん坊のような無垢な笑顔。
「・・・あなたたち、私を攫ってどうする気?」
チヒロの問いに、浅黒い肌の少年は瞬きをして、また笑った。
黒髪を右手でかき回して、もう一人が呟く。
「・・・うん。まあ、泣き叫ばないで冷静なのは有効な手段だね。かあさん」
「む。そこ! ワタシあなたのお母さんじゃないわ!」
チヒロが反論すると、浅黒い肌の少年が、もう一人の少年の肩に顎を乗せて小首を傾げた。
二人揃うと圧巻の美貌だ。目の保養だ!
「いや。あんたは俺の母さんだ。旧姓を、チヒロ、オオツキ。黒髪に月色の瞳。大好きなものはオツキサマ。得意料理はカレーに、から揚げ、ハンバーグ。デザートはチーズケーキ、ホットケーキも外せないな」
「む。それだけで、母親呼ばわりはいただけないわ」
そう言って、つんと明後日の方に顔を向ければ、苦笑して真珠の肌の少年が続けた。
「ん。まぁ、別に信じようが信じまいが構わないと思っているから。ただ忠告しに来たんだ」
「ちゅうこく?」
「「ああ」」
美貌の少年二人が頷いた。
「・・・この夏休みに、皆既日食のツアーに参加するだろう?」
「・・・止めても行くでしょう? そこでかあさんは界を渡るんだ」
少年が目を覗き込むように腰を折って、チヒロの耳に囁いた。
「・・・界? 界ってなに? それにどうして皆既日食ツアーのこと知ってるの?」
「「昔、かあさんに聞いたんだ。俺たちは、正真正銘、あんたの息子だよ」」
そう囁いた二人がお互いの肩を抱きながら、チヒロに向けて微笑んだ。
・・・ま、そんなわけなので!
「「・・・さあ、京都に行こう!」」
「いや、だから行かないって!」
身を捩るも、あっけなく拘束されて、浅黒い方が切り開いた真っ黒な空間の中に。
ぺいっと放り込まれてしまった・・・。
「・・・き!・・・」
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「・・・やぁぁ、あああああああっっ!!! ・・・うそおおおお!」
暗闇からぺいっと放り出されたら、うっそうとした木々の緑に押しつぶされそうになった。
空気が違う。神々しいばかりの静謐な空間。
ざわめかしい人界とは一線をかした、神在りの土地。
「・・・俺、やっぱりここが好き」
浅黒い肌の少年が呟けば。
「そうだね。俺もここの空気が好き」
真珠の肌の少年も頷く。
しみじみと言葉を交わす美形二人と、腰を抜かしたように力の入らないチヒロの姿があった。
「・・・マジですか。本当に京都・・・?」
・・・薫る風すら、雅だ。
ここだけは日常の時間と切り離されているのではないかとすら思える。
連綿と続く、歴史と風雅の土地。
「目の前、永観寺だぜ。見返り阿弥陀如来、見ていこう!」
「いいねぇ!おれ、あの姿好きなんだー。なんていうか、瞳が暖かい感じ?」
「「そうそう!」」
「わあ!」
・・・と、いう事で、おのぼりさんよろしく、あちこち見て周ることになった。
浅黒い肌の少年・・・エルトキは、慣れた風情で案内してくれた。
真珠の肌の少年・・・コクランも、慣れているのか説明が詳しい。
王道の神社仏閣。十二神将は外せないね!と言い合いながら、西へ東へ。
沈む夕日を眺めつつ、葛きり食べて、冷やしアメ食べて、まどろんで・・・はうっと我に返ったチヒロだった。いや、遅い。
「「ん? どした、かあさん」」
何度チヒロだ、と言っても、直してくれない少年達に、もう、チヒロでなくて母さんで良いよ・・・とやや諦めて許可をした。その少年の呼びかけに青い顔を向けて呆然と呟く。楽しんでいて忘れていたけど、今日は。
「・・・が・・・学校・・・無断欠席・・・テストなのに・・・」
忘れてた・・・。
京都で盛り上がって観光している場合じゃ、ない!
チヒロ、どうする! 追試か? 明日挽回できるかな?
・・・それより、家に連絡いってないだろうか?
確かに家は出たのに、京都なんかに来ちゃってて・・・、はぅ!これ、これ、い・・・家出・・・?
軽くパニくっている模様のチヒロを眼を細めて見ている二人の少年・・・。
「んーでも、このまま夏休みに突入して、行くんだろう、皆既日食?」
「え、いくわよ!世紀の一瞬、見逃してたまるもんですか!」
「・・・うん。止めてもいくんだよね?」
少しだけ嬉しそうに、でも悲しそうに微笑んだ、エルトキ。
「・・・止めても結局は行くんだよね・・・」
嬉しそうに悲しそうに囁いた、コクラン。
「・・・ねえ、かあさん。これから物凄く大変なことになるんだ。それってテストどころじゃないくらいにね」
エルトキが囁くようにつぶやいた。小さな、声。
「絶望しないでね。絶望は思考を停止させる。どんな事があっても前を見て」
下を向いたまま、コクランが、続ける。
「この時空の母さんが誰を選ぶのか、分からないけど、覚えていて。俺はあなたの息子だという事を」
顔を上げて、真っ直ぐに切り込んできた黒い瞳。
真剣なその眼差しに、チヒロは身動きできなくなった。
ただ、言い知れぬざわめきが胸に渦巻く。
・・・戯言だ。と頭の隅で声がする。けれど同時に。
この子たちの言っている言葉は本物だ。と実感した。
本気で異変が起こると言ってくれているのだ。
逃げられない事態だから覚悟して、と言っているんだ・・・。
「・・・あなたが呼ばれるのは意味があるんだよ。悲しみの連鎖を断ち切るために呼ばれてしまうんだ。何度こうして干渉したか分からないのに、必ずあなたは界を渡ってしまう。止めたくて止めようとするのに。どうしても止められないんだ」
「俺たちの持てる力を駆使しても、あなたを守る事は出来ない。界渡りを阻止する事が出来ないんだ」
悲しみの声で、疲れた顔で、そう呟いた少年がとても大人びて見えた。
何度も、と彼らは言った。
待ち受ける未来は決して明るいものではないのだろう。
だから、未来の息子が助けようと、こうして来てくれたのか・・・?
そんなSFじみた事さえ信じてしまいそうになってしまう。
・・・いや、信じても良いのだ、と思ったのだ。
「・・・私の息子なんでしょ?止めたら生まれなくなっちゃうんじゃないの?」
「・・・そうだ、ね。界を渡らずにいられたら、俺の存在も消えてしまうだろうなー。それもあるからこうして何度も足を運ぶのかもね」
「京都、好き?」
「好き!」
にっこりと明るい笑顔。
本当に子供らしい笑顔だった。
「あと、好きなものは?」
「東京タワー!かっこいいね! 遊園地! じぇっとこーすたーっておもしろい! 水族館に動物園。植物園も面白かった。後は・・・父さんと、かあさんの笑顔。母さんの作る手料理。父さんの剣、かあさんの奉納の舞・・・」
鈴の音。ひるがえる五色の色布。
かあさんが作ったチーズで焼いたピザ・・・。
少年たちは次々とあげていく。
「俺も京都好き! この静かな空間と、ゆっくりした時間が好き。かあさんの作る料理も、お菓子も、全部全部、好きだ」
ふたりの黒い瞳がチヒロを見つめた。
「妄執に囚われて、嘆くかあさんを見たくないんだ。歴代の王と巫女姫の長い悲しみの連鎖を断ち切りたい。・・・だから、こうして界を渡っている。過去に干渉するのはいけない事なんだけど」
エルトキが呟いた。
「トキと、界を渡りながら、救える魂は救って来たんだけどね。何で巫女姫は喰われたがるのか、わかんないよ」
コクランが溜息つくように囁いた。言葉の端っこに聞き捨てならない単語があった。
「・・・喰われたがる巫女姫って・・・なに」
「「んー、歴代の巫女姫?」」
つまりもうじきかあさんも、加わるんだよ。
「喰われないように、用心してね。かさあん。いやな目にあったら、一発殴っておいたほうがいいよ」
「今回のかあさんは、誰を選ぶのかなー? やっぱり俺の父さんかなー・・・?なんだかんだ言っても仲良いからなー」
エルトキと、コクランが小首を傾げてそんなことを言い始めた。
「かあさん!エルレアはね、意地悪だけど、本当はすっごく優しいんだぞ!!! 息子が言うのもなんだけど、あの人の悪いところは、言葉の足りなさと要領の悪さだ! 初め嫌な奴だけど、付き合えばいい奴だから!」
判りずらい性格なのが難点なんだよ! と、力説するエルトキ。
「父は若くて思慮が足りないところがあるけど、かあさんを一番愛しているからね! 愛が深すぎて、ウザがられているくらいなんだけど・・・。軟禁も監禁も、愛ゆえだし。妹なんか、すでに軟禁生活?」
愛情過多の過保護な夫らしい。それを微笑ましいと勘違いしている息子、コクランが痛い。
・・・大丈夫なのか、ワタシ・・・。
ちょっと明日の自分を可哀想に思ったチヒロだった。
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「・・・じゃあ、あっちに渡ったら、くれぐれも王様達に気をつけてね」
「優しい顔で付け込んでくるからね。しっかり肘鉄食らわすんだよ?」
真剣にそんなことを言ってよこす、未来の息子(多分)たちに、微笑を向けた。
「隙を見せないように、がんばるわ」
ぐっと拳を握り締めて、頷いたチヒロだったが、かばんの中は京都土産がいっぱいだ。
頑張れば頑張るほど、から回りする、彼らの母。
でもその一生懸命なところが好きなのだ。
だからこうして、父王以外に喰われないように釘さして回るのだ。
うかつな母は、今回も界渡りの反動でこの記憶を失うだろうけど。
願わずにいられないんだ。
父を愛して救ってくれと。
願わずにいられないんだ。
父だけでなく全てを救ってくれないか、と。
強大な力を得てしまった僕たちは。
時すら凌駕する力を持ってしまった僕たちは。
「いくか、トキ」
「いくか、コク」
こうして、時の流れに身をおいて。父と母に干渉する以外、術はない。
「次のかあさんも、うっかりさんかなー?」
「次のかあさんも、うっかりさんだろうよ」
「「父さんも、大変だ・・・」」
願わくば。
彼と、彼女が、幸せでありますように。
そしていつか。
あなたの息子として、名乗りを上げて、共に同じ時間を生きて行きたい。
マグマフレイム様、楽しい設定ありがとうございます。しかし、お心に添ったものが描けずに申し訳ありません。大体ハーレムどこ行った!?って感じになりましたよ・・・。