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一周年、みなさまに感謝をこめて 3

 「カレーと言う料理です。私の世界では一般的に食べられている料理で、各種薬草を乾燥させた物を粉末にして、調合し、スープに入れてあります。身体を暖め、隅々にまで英気を養うことの出来る、料理なんです」

 そう言って、若い王妃は微笑んだ。

 「おかわりはたくさんありますから、どうぞ、召し上がれ」

 その声に、ログワや侍従長など、王の腹心が我先に食べ始めた。

 にこやかに、なごやかに。

 目線を細め、調合された薬草の種類を聞き、頷いては、王妃に温かな賛辞を贈る。

 「お肉は、ブレンドしたスパイスで漬込んで風味をつけて・・・」

 「ほおお」

 「木の実を炒って、粉にしたモノでコクと甘味を引き出したの!」

 「・・・ほおぉ、木の実・・・を・・・まさか、あ・・・あの木の実を!?」

 にこにこでスプーンを動かしていたログワさんが、ぐりん!と驚愕の顔を向けた。

 そこまで驚く事なのか?・・・事なのか・・・あれ凄く高価だって言ってたものなぁ・・・。

 ログワさんは子供の頃に一度だけ、あの木の実を見ているらしい。

 病気に臥せっていたお祖母さまの為にお爺様が探し出したらしいが・・・。

 あれ一つ買うために荘園一つ手放したって言ってたっけ・・・。

 「うん。命の母って言うんだよね?・・・滋養強壮に良く効くって話だったから・・・」

 ごめんね。と小首を傾げて見せた。

 ログワさんは、なにかの時の緊急用として国で管理すべきだって言い切っていたんだ・・・。


 ・・・アルフィリアと何回も練り直したスパイスブレンド。

 やっぱりあの木の実を使いたくて、ほんの少し粉にしたのを分けてもらった。

 耳掻き一杯くらいなのに、大きな寸胴の中はカルダモンのような清涼感溢れる香りと、木の実特有のねっとりとした質感がでて、天にも昇れそうな気持ちになった。

 オウランの大事なお客様で、いつもお仕事頑張ってくれているみんなの為だもの、と言ったらオウランが頷いてくれて、それも嬉しかった。

 私に出来る事は、ご苦労様って言う事と、こうして・・・元気が出る料理を作ることぐらいだから。

 そう言った私を、ログワさんが目を丸くして見てから、慌ててオウランに目線を合わせた。


 「・・・お前達がどれほど真摯に働いているか、チヒロは知っているんだ。それに俺だって。・・・お前達には長生きしてもらいたいからな」

 口うるさい爺だが、な。

 オウランが、じんわりとした微笑をくれた。・・・なんだぁ同じだ、うれしいなぁ、あ、でも爺なんて思ってないよ!

 

 「・・・美味い!うまいですなぁ!チヒロさま! やや、いかんな、私、少々涙脆くなってしまって・・・」

 ログワさんが顔を真っ赤にしながらスプーンを動かしている。

 「冷酷」と呼ばれたこともある人だって、聞いたことがあったけど、私にとっては、うん、おじいちゃんみたいな人だもの。

 周りにいる人たちもみんな笑顔で、口々に美味しいと言ってくれた。凄く幸せな気分になれた。

 

 ・・・それを遠巻きに見て、汗をかいている者。


 食べるべきか、否か。彼らはそんなジレンマに陥っていた。


 ログワや、筆頭侍従の彼らには、すでに中和剤が処方されていると言う噂だった。


 彼らに釣られて口にすれば・・・悶絶の末、死に至るのは明白。なぜなら潜り込ませた子飼の者が口を揃えていったのだ。王妃が作る料理は毒に違いない、と。

 嗅いだ事の無い香りだった。

 調合された薬草は、リイカの魔女が手をかけたものであった。

 だが、口にしないことで不興を買うのは必死。

 どうすればと考えて、毒消しを飲んで来てはいた。

 だが、毒を調合したものがリイカの魔女では、それも、心もとない。

 毒消しが効かない成分が含まれているかもしれないのだ・・・。

 

 「・・・あの、そんなに辛くはないですよ?」


 にこやかな笑顔。

 だが、その裏で笑っているに違いないんだ。我等を笑いものにするために、呼んだのだから。

 毒を喰らって息絶える様を見たいというのか、なんと恐ろしい女だ。

 命の母を我らの為に使っているなどと、見え透いた嘘をついてまで、我らにこの毒を食わせたいのか!

 どれだけの効能が期待される木の実であるか、知らぬとは言わせない!

 あれが手に入ったなら、他人の為、しかも臣下に与えるなどありえないのだから!

 「・・・口に合わぬと言う気か?」

 王が険呑な眼差しで古参貴族を睨みつけた。

 古参貴族は震え上がった。

 食べたらきっと死に至る。猛毒を仕込まれたに違いないのだから。

 だが、食べなければ不敬罪がまっている。

 長年築き上げられた、輝かしい地位が失われてしまう!


 「そ・・・その、今日はちょっと腹の具合が・・・」

 「そ・・・そうです!実は私も!」

 「・・・じ、持病が・・・」


 そう言って逃げようとしたが、鼻で笑った王が、険呑な眼差しでこちらを見た。

 その冷たい眼差しに、退路は無いと自覚した。

 「・・・ならば、チヒロの作ったカレーを食べてみろ。はじめに言っていただろう?薬になる薬草を使用して作られたものであると。・・・料理長!」

 王の呼びかけに料理長が立ち上がった。

 「今回のスパイスの中に、腹痛、胃痛に効く薬草が使われていたな?」

 「御意に。腹痛、胃痛の特効薬であるイベリールが含まれております」

 「・・・チヒロの国には薬膳料理というものがあるそうだよ」

 なぁ、チヒロ? と王に流し目でみられて、若い王妃は真っ赤になった。

 気を取り直して娘が頷くが・・・まだ顔が赤い。

 微笑ましい光景なのだが、彼らの目には茶番に過ぎない。


 「医食同源。って言います。食は医療と同じだってことなんですけど・・・」

 ・・・あれれ。と首を傾げた王妃だった。


 何かおかしい。

 楽しい食事会のはずなのに、何故この人たちはこんなに緊張した顔をしているのだろう。

 なぜ、このおじさんたちあんなに汗かいて、周りの貴族達をちらちら見ているんだろう・・・?

 しかも何で、こうも私を睨んでいるの・・・。

 私、何かしたのかな。

 (ねぇ、オウラン、このおじさんたちどうしちゃったの?)

 オウランを見上げて、心細げに見つめれば。

 言葉に出さずともオウランはチヒロの心のざわめきを理解してくれたようだ。

 すっと腰を引き寄せてくれた。

 それにほっと息をついた。


 「・・・我が妃チヒロは、精霊の加護あつい太陽と月の巫女。その存在は古来より得難い者と知れている。精霊の恵み忘れ、我が物で振舞った我ら人間が、精霊に見放されずにいるのも、チヒロが精霊との橋渡しをしてくれているからだ。だが、この土の国に、我が妃を差し置いて後宮を開くよう懇願する者が多々いて、わたしは困っている」

 あたりはしんと静まりかえり、誰もがオウランを見つめていた。オウランが続ける。

 「確かにチヒロはこの世界の者ではない。王族としての知識もなければ、淑女としてはまだまだだ。妃教育も平行して行っているが・・・貴公たちにとっては物足りんのだろうな? だが得難い娘だと私は思っている。これ以上妃に相応しい娘はいない、とな」

 ・・・だから、チヒロを排除して自分の娘を差し出そうと画策しても、意味はないぞ、と言ったのだ。私は、チヒロ以外の女を抱く気は無いからな。

 「し・・・しかし! 王妃様は今だ懐妊の兆候すらないではありませんか!」

 「婚姻を結んで半年、別に遅くもあるまい」

 「ですが、万一と言う事もありますぞ! で、ですから!わたしは・・・」

 「・・・くどい」

 後宮を開く気は無い。それに・・・ちゃんと気づいているんだ。侯爵。

 「・・・は、は? 何のことで・・・」

 すい、とアルフィリアが立ち上がった。いつもの黒いローブに身を包み、見えるのは赤く染まった唇だけ。・・・凄く妖しい。

 その指が、茶色い小瓶を掲げて見せた。

 「王妃様の食卓のハチミツです」

 す、と侍女頭がティーカップを差し出し、それにアルフィリアは一滴たらした。

 そのままニコヤカに。侍女頭が差し出した。

 ・・・侯爵に。

 途端に青くなる侯爵。


 「どうぞ」

 「い、いや、その・・・これは、王妃陛下の・・・そう、王妃陛下のお茶であろう! わ、わたくしごときが口をつけていいものではないわ!」

 「構わない。私が許すのだ。飲んでみせよ、ナイハ候、さあ」

 「・・・わ、我が君」

 オウランの、側近の、目線が彼に突き刺さる。

 「・・・飲めぬと言うのなら、理由が知りたい」

 オウランが、そう言って・・・眼光鋭く睨みつけた。

 

 青褪めた侯爵はがくりと崩れ落ちた。


 それを見て溜息をついたアルフィリアが、カップを手にし、中身を飲み干した。

 「何を勘違いなさったのでしょう? こんな美味しいお茶なのに」

 ああ、美味しいとため息をついてみせたリイカの魔女。

 そしてオウランは、彼ら青褪めた貴族達を見た。

 「・・・何が入っていると思ったのだ?我が妃のお茶に、我が妃の使うはずの蜂蜜に。・・・さあ、話せ」


 彼らの顔色は最早死人のようだ。


 「・・・調べはついている。我が妃の食卓に毒を混ぜたは貴様らだな?」

 「え」

 どく。・・・どく?


 「大丈夫です、チヒロさま。すぐに気づきましたから」

 アルフィリアが微笑んでそう言った。

 「ワタクシの目は誤魔化せません。・・・と、いいたい所ですが、守護殿が教えてくれました」

 え、毒って。毒?

 本当に?


 目をきょろきょろさせていたら、ログワさんが優雅に口元をナプキンで拭って立ち上がった。

 縋るような眼差しでログワさんを見た・・・けど。

 ログワさんが彼らを見る、その冷めた眼差し。あんな目は、初めて会った日以来だ。

 あれからいつも、目に優しさを滲ませて、見つめてくれていたのに。

 なんだか、背筋が寒くなった。


 「・・・王妃陛下。この「カレー」ですかな、堪能致しました。じつに美味い」

 そう言ってにこやかに笑いかけるログワさんに、かくかくした笑顔しか向けられなかった。

 怖かった。

 ログワさんも、侍従長さんも、懇意にしている貴族のおじ様たちも・・・みんな怖い顔で青い顔をした太った貴族達を睨みつけている。

 いつもなら、彼らはもっと優しい目をしている。

 いつもならもっと、いたずらっ子のような顔をしているのに。


 ログワさんが真っ先に口を開いた。

 オウランの次に高い役職で、しかも公爵だからだろう。

 「・・・さて。恐れ多くも精霊巫女姫に毒を盛るなど、王家に対する反逆罪だな。しかも、だ。王妃陛下が作ってくださった料理に、手を付けることもなく、皿が冷めるままに捨て置くなどと、何たる不敬! 訳を知りたいものだな。それとも・・・巷で噂になっているデマカセに踊らされたか?・・・答えよ。デバオ公爵」

 

 ログワさんのいつもの優しい声じゃなく、糾弾する声が広間に響いた。


 

 *******



 「王妃陛下に毒を盛って、どうなさるおつもりだったのだ?」

 「大方貴公の娘を推挙する手筈だったのだろうがな」

 「浅慮きわまりない」

 「ようやく取り戻した精霊の加護を、断ち切るつもりなのか?! 浅薄!」

 「しかも、腹の立つ事に、王妃様が毒を盛ったなどと夜迷いごとに囚われるなど、呆れてしまうわ。・・・放っておいても自滅するのに、どうして手を汚してまで罪を作らねばならん」

 「疑心暗鬼に駆られ、管理室の金庫の中から毒草を持ち出しただろう?」

 「調理室に入り込んだ曲者、貴様の娘婿だったな」


 ・・・アルフィリアと始終顔を突き合わせてごそごそやっていた件で、毒を作っていると誤解されたらしい。

 あ、蚊取り線香は、いわば弱い毒薬だけどね・・・。

 今回の「私的なぱーてぃ」で、うるさい貴族を潰す為に、王妃が(わたし!)念入りに作り上げた猛毒を使用すると噂されていたんだ。

 ご丁寧に、気に入った貴族の皿には中和剤を入れておく、ってことまで噂されていた。


 ・・・わたしはね。

 美味しいものが食べたいの!

 そりゃ、摘んでくる草木のほとんどが猛毒の草だったけど、あれだって、匂いのヒントになったんだから、無駄じゃないんだよ。


 美味しいものを一生懸命作って、大好きなみんなと、時には大嫌いな人とでも食卓を囲んで、これ美味しいね、って言い合えればそれで良かったのよ。

 嫌いな人とも腹を割って話が出来れば、気持ちだって通じることもあるでしょう?


 そりゃあね。

 世の中、善意だけ溢れているわけないんだって知っているよ。

 でも、でもね。


 ・・・毒を盛られなきゃいけないほど、悪いことはしてないよ。



 信用されないって結構きつい。

 良かれと思って差し伸べた手を振り払われるのって悲しい。

 しかも、私が毒を作って仕込む女だと、思われていたんだ。


 真っ黒な気持ちに触れれば、傷ついて、苦しくなって。

 

 ・・・泣きたくなるんだよ。


 ・・・アルフィリアと頭領と料理長の三人には、王族に危害を加えそうな貴族を排除するという明確な目的があった。

 摘んできた毒草が厳重に管理された管理室から盗まれたり、調理室に不穏分子が入り込んだりしていたらしい。

 そして実際、日常的に使っていたハチミツの瓶に毒が仕込まれて、みんなの焦りが極まった。


 いつ毒を混入されるのか分からない恐ろしさ。


 調理室で細心の注意で調理しても悪意のある人が毒を混ぜれば、台無しになる。


 毒を中和させる中和剤も、だからこそ、アルフィリアは必死になって製造していたのだ。


 協議の結果、後手にまわって危害を与えられてからでは遅いと、先手を取ることにしたのだという。


 王の私的な誘いを断れば、それは、貴族にとって失脚を意味し、痛手以外の何物でもない。

 表舞台から去りたくなければ、何としても出席し、料理も食べなければならない。

 だから彼らは、毒消しに効くと言う薬を飲んで会食に望んでいたのだ。

 ・・・だが、相手は稀代の毒使いの魔女。

 万全の構えで飲んできた毒消しすら凌駕する毒だろうと思われて。

 もともと、そこまでの度胸がなかった彼らは、結局、誰も料理に手をつけなかった。

 疑心暗鬼に囚われて、手を付けずに冷めていく料理の前で、彼らは、自ずから白状していたのだ。


 「わたしだ」と。

 

 ああ、なんだか身体から力が抜けていく。

 ・・・毒を盛られる程、彼らに、憎まれていたのか。

 ・・・毒を盛ったと思われる程、信用できない女だと思われていたのか。

 そして。

 ・・・一生懸命つくった料理を、人の悪意を暴く為に使われたのか。

 

 「・・・チヒロ。・・・すまない」

 そう言って抱きしめて、慰めてくれるオウランはとても暖かい。大好きな人。

 大好きな・・・でも、それ以上にこの国に必要な人。

 私だけのオウランじゃないのは、知っている。


 これが私が踏み込んだ世界。

 でも。叫んで喚いて、当り散らしたくなった。・・・みっともないからしないけど。


 

 ******



 「・・・なんで、この世界には駆け込み寺がないのかな・・・」

 チヒロ・・・!と、切羽詰った顔で、声で、手を伸ばしてきたオウラン。

 待て、と言われて待つ馬鹿はいない。

 泣き顔を見られたくなくて、守られている事実と、教えてくれなかった事実に板ばさみになった。

 分かっている。苦肉の策だって事くらい。

 分かっている。

 きっと悲しむと知っていて、でも、やらざるを得なかったと言うことを。


 帰る実家はあまりにも遠く、それを心配したのか精霊たちがべったり張り付いているので、帰れそうにもない。・・・まあ、帰る気は無いから安心してね。

 ・・・神社仏閣ないから、駆け込み神殿か・・・?

 孤児院だけじゃなく、か弱い女性を匿ってくれるシェルターって必要よね。絶対必要だわ。


 そんなことを考えながら、膝を抱えて夜空を見上げた。

 星が瞬きを繰り返す。覚えのない星の配列。それを見て、いい知れぬ寂しさが胸に迫る。

 ・・・ここはやはり異世界で、私は不穏分子で、異物なんだ。と実感する。

 問答無用で排除に掛かった彼らにとって、私はどんなに努力をしても、ただの小娘でしかないのだろう。

 ーーーきっと家畜の方がまだ価値があるのだ。


 頑張っているのに、認めてもらえないのって。・・・苦しいなぁ。



 *********



 そのまま泣き寝入りをしてしまって、部屋に帰るの忘れてしまった。


 朝日のまぶしさに、もそもそと起き出して、城内が騒がしいのに気が付いた。


 オウランの呼ぶ声が聞こえた。

 アルフィリアの泣き声も。

 ログワさんや、頭領や、侍従長のひげのおじ様の声。

 侍女頭さんの声に、侍女サンたちの声もある。

 気のいい貴族のナイスミドルのおじ様の声もあって、何事かと慌ててしまった。


 みんな私の名を呼んで・・・探しているのが分かった。


 「え。あ、あれ?」

 手を差し伸べているのにすり抜けて、誰にも触れない。

 手がすり抜けることに慌てたわたしに気づく人もいない。

 空気になったみたいだ。

 どうして?


 ・・・チヒロ、確かに人間は愚かだが、全てが愚かではない。知っているだろう。

 「・・・うん」

 ・・・ああして・・・お前をずっと探していたのだ。

 「え、まさか夜通し?」

 ・・・まあな。我らが姫を悲しませたのだ、それくらい当たり前だ。ここの空間を切り離して、ニンゲンが近寄れないようにしておいたんだが・・・。

 「・・・な、なんですと!」

 どうりで音も無く、熟睡できた・・・じゃなくて!

 一晩中彼らはここで、叫んでいたと言うのか!

 ・・・で、私は寝ていたのか・・・そんで目覚めても、空気みたいで・・・元に戻れるのかな?

 「みどりちゃん、ここ開けて、元に戻して! みんな、あんなに心配してるの、あ、あやまらなきゃ!」

 ・・・いいのか? 

 「・・・だって心配してくれたの、カレーをあんな風に使われたのは悲しいけど・・・けど・・・きっとみんなだってやりたくなかったと思うの・・・。はうぁっ!うあ、やだっ。こ、これってもしか、朝帰り・・・?」

 それはそれで恐ろしいものが背中をよぎる。

 特にオウランとかオウランとかオウランとか。

 昨日はなんだかんだで、突っ走った挙句、雲隠れまでしたけど、みんなの気持ちは分かってる・・・と思う。

 その、悲しかったけど、悲しかったけど・・・それを言ってもらえなかった自分の存在って何って思ったけど・・・。

 ・・・多分、仕方が無いことなんだろう。


 わたしは元気に泳ぎ回っていた方が良いし、疑心暗鬼になっている人に、毒の話を聞かせれば、それは誤解もするだろう。

 私的なパーティなら、王妃わたしに近付いて、毒だって仕込みやすいってもんだ。


 罠を張るのに、囮に話しては、上手く行くのもいかなくなるだろう。


 だから、仕方が無いのだ。

 

 ・・・精霊が閉ざした空間が開かれて、まず目に入ったのは。


 憔悴したような顔の・・・オウラン。


 眼が合って、見開かれた眼差しがくしゃりと歪んだ。

 それから、手を伸ばして、ぐっと抱き寄せられた。

 大きく溜息を零したオウランの肩から力が抜けていく。

 安堵してくれているんだ。

 いなくなった私を探していたんだろう。髪も服も昨日のままだ。・・・そして、それは他のみんなも。


 「・・・その・・・心配かけてごめんなさい・・・」


 「いい。俺たちも、悪かった。・・・よく戻って来てくれた・・・」


 オウランの言葉に実感がこもっていた。


 精霊に隠されてしまえば見えないのだと言う。

 精霊に隠されてしまえば声すら届かないのだと言う。

 でも、彼らは必死で声を届けてくれたのだ。


 私に届くまで。


 ああ、やっぱり、みんなが好き。

 優しいけど、それだけじゃない彼らが。

 守ろうとしてくれた彼らが好き。


 あ、でもこれだけは言っておかなきゃね!


 「・・・でもね。次は、ないからね!」


 もったいないお化けに言い付けちゃうから。


 

TORさま、とりあえず、入れてみました。

薬師(毒師)、カレースパイス、貴族退治、駆け込み寺。

詰め込みすぎたかな。

でも楽しかったですー!

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