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深月織様のイラストに感謝を込めて 2

 土の国の中央神殿の祭儀は、盛大ながら粛々と推し進められた。


 その年の豊作を祈願した盛大なそれ。


 しかもこの年は王妃となった太陽と月の巫女姫が祭祀として執り行うのだ。


 ・・・他国の王族、貴族、民衆まで、期待感に満ちていた。


 「姫様、これはどのように?」

 侍女サンが紐を抱えて右往左往。

 「ん。大丈夫。その紐ちょうだい?」

 白い衣を身にまとい、器用に紐だけで整えていく姿を見て、侍女サンたちがほおっとため息をついた。

 「・・・どしたの?」

 王妃の尋ねに侍女サンたちは我に返った。口々にいいえ!と言いながらも、目線はチヒロの手つきに釘付けだ。目を皿のようにして、ひとコマももらさぬ様に見詰めていた。

 王妃陛下の衣装は見たこともないつくりで、始めはこれが服として機能するのか大いに疑ったものだ。

 だって、布と紐だけなのだ!

 緩んで前が肌蹴てしまったらどうするのかとものすごい形相で可愛らしい王妃に迫ったのは記憶に新しい。そう。もし本当に肌蹴てしまったら・・・!!!

 ・・・わが君に殺される!!!と背筋を冷たいものが走ったものだ。


 しゅ、しゅ、と衣連れの音。

 時折、衣の襟元を直す手馴れた仕草。

 襟を抜き、袖を確かめ、おもむろに。

 緋色の袴(・・・お城のお針子さん力作手作り!)に手を伸ばした。

 両足を入れて友紐で腰高に結わえる。

 視線を流すだけで悟った侍女サンが、すかさず鏡を抱えてやってきた。

 鏡に全身を写す。浴衣と違って着丈分なだけに、着付けは楽だった。

 上半身は白の衣。下半身は眼も覚める様な緋色のハカマ。

 それから薄絹を羽衣のように身に纏わせて。


 黒髪はきっちり結い上げて紙縒りでくくって流してある。

 白い肌に黒い髪。瞳の蜜色に唇の赤。それに映える、紅白の衣装。

 

 チヒロは鏡に映った巫女装束の自分を見て一つ頷いた。


 周りでは侍女サンたちが、魂抜かれたような顔でチヒロに見入っていた。心なしか、顔が赤い気がする。


 「・・・ええと。ヘンなところない?紐が見えてるとか・・・肌が見えてるとか」

 「ございませんわ!」

 「完璧ですわ!王妃様!何て素晴らしい衣装でしょう!」

 「ありがとう。私の国の巫女装束なんだ!」

 「「「お似合いですわ!」」」


 賛辞にえへへと笑い返して、細い金の冠を頭に括りつける。うん。お雛様の宝冠みたいだと言ったら、オヒナサマ?オヒメサマの間違いでは?と言われたけどね。


 この日のために火の国の飾り職人さんに作ってもらった、繊細な細工物は麗しい。


 薄く延ばした金の板をくるりと巻いて筒状にし、上部に細かい切れ目を入れて、くるくると巻くことで鳳凰を形どった宝冠。巻きの先から垂れ下がる細い金糸の先にはさまざまな輝石が輝いている。


 恐ろしく綺麗なそれは、恐ろしく軽い。きっとこの式典が終わったら、火の国の細工職人さんにまた仕事が舞い込むだろう。


 右手に宝錫。金の鈴が沢山付いていて、軽くふるだけで、清んだ音を響かせる。


 錫の下部から五色の布が長く伸びている。それを左手で捧げ持って、準備はおっけ。


 草履は流石に間に合わなかった。赤い鼻緒と言っても誰もぴんと来なかったらしい。


 だから素足だ。足首には細い金環が幾重にも重ねてある。歩むたびにしゃら、と鳴るのが嬉しい。


 さあ、胸を張れ、チヒロ。


 ・・・出番だ。



 *******



 しんと静まる式典の祭儀場。

 厳かな楽が奏でられる。

 弦楽器と笛の音。

 その音に合わせて、しゃら。と音がした。

 かすかな音。

 静々と、娘。しゃらしゃらと、楽。

 そして、りん。と鈴。


 静まり返る祭壇。視線は中央の娘に釘付け。


 楽が奏でられ、その中で娘が踊る。両の手を広げれば、鈴が鳴り、足を運べば金環がさざめく。


 幽玄な舞。しんしんと。

 

 黒髪が踊る。ひらひらと。


 繊細な腕が白い肌を垣間見せ、揺れるたび鈴が鳴る。五色の布が遅れてひるがえる。


 くるくると回る。


 しゃんしゃんと鈴。しゃらしゃらと金鎖。


 ひるがえるは黒い髪、流すように月の瞳。・・・囚われた。


 誰かがぽつり、呟いた。


 「・・・見事」


 **********



 腰に手をあて片手にグラス。注がれているのはなみなみと・・・牛乳!


 んっくん。んっくん。んっくん。と飲み干して。


 ぷはあっ!と大きく息をついた。


 「んあああーっ!!!緊張したっ!」

 ほらっ、見て見て、手がまだ震えてるよっ!

 ・・・と、オウランに詰め寄るもなんだか、肩の力が抜け切っているのは気のせいでしょーか。

 だって緊張したんだよ。あんな衆人環視の最中でたった一人で舞踊るんだもん。

 練習したけどさ。練習した成果が必ずしも当たるとは限んないのが、本番の怖さってやつでしょ?

 よく言うじゃないか。あそこには魔物がすんでいる!って・・・。

 オウランはなんだか口を濁した後、はああっとため息をついて、ぶつぶつと呟いている。

 「・・・ああ、そうだ。こいつはこんなヤツだった・・・」

 ・・・うん?


 気を取り直したらしいオウランが瞳の強さも露にぎんっと睨んできた。

 ・・・え。ちょっ、私なんか、したっけ?


 「あの衣装」

 「え、内緒にしてたの、不味かった?私の国の巫女装束なんだよ」

 「・・・似合っていた・・・が、問題はそこじゃない!」

 「え、どこ?」

 

 「扇情的過ぎる」

 「はあ?」

 自慢じゃないけどこの衣装、布地もその量も、いつも来ているドレスに比べて大変な量ですが?

 しかも肌が見えるのは、うなじと首だけ、足だってくるぶしまで隠れているし、腕だってひじまで隠れているじゃない。いつものドレスはさ、レースだなんだで、結構肌の露出も多いし、これと比べても、よっぽど普段の方が・・・せ、扇情的?なはず。

 巫女装束なんだから当たり前なんだけど、これのどこがどうなったら、扇情的になるんだ?

 盛大にはてなマークを飛ばしていたから、オウランのどっかが妙な具合にスイッチが入ったことを見逃してしまった。


 「扇情的だ!チラリと垣間見える白い肌、桃色の素足。かかとの赤さが艶かしくて、つま先の繊細さが劣情をそそる!オマケに、舞いながら腕を上下に振るから・・・ひじの先がどうなっているのかと、周りの男達が目を皿のようにして凝視していた!しかもだ!さっき聞いたんだが・・・」

 そう言ってオウランが私を後ろから抱きしめた。

 慌ててじたばたしていたら。

 オウラン・・・!


 右手を袷から滑り込ませて直に胸を鷲掴んだ。びっくりして声も出ない。


 「な、な、なああああっ!!!」


 真っ赤になってあわあわしていたら、いっそう眉間に皺を寄せて難しい顔で考え込んだ。


 ・・・ってか、人の胸鷲掴んだまま、考え込むなあっ!!!


 「・・・この衣装は今後一切禁止するぞ。閨以外で着ること許さん」


 マテ。

 閨以外。閨以外ってオウラン・・・もしもし?


 神聖な巫女装束に悶えてる場合じゃないでしょおおっ!!!


 「何故に・・・?」


 「・・・今回とくと思い知った。チラリズムは男の理性を吹き飛ばすものだと!」

 真剣な顔で寝ぼけた事を・・・。

 「見えそうで見えない。見えないからこそ、想像を掻き立てられる!俺がお前を脳内でどうしようがお前は俺のものだから好い!・・・だが・・・想像の中とはいえ、お前を組み敷いてその衣を脱がせて良い男は、俺だけだ!!!」

 他の男どものぎらついた眼差しにお前が晒されているのを見るのは嫌なんだ!

 きっと脳内であんな事や、こんなこと!

 あまつさえ、こおおんな事まで!されているかもしれないんだぞっ!!!

 しかも、なんだこの衣!

 すぐに手が入るじゃないか!触ってくれって誘ってるようなもんじゃないかっ!!!

 こうして・・・。


 オウランが袂に手を合わせて、ぐっと開いて見せれば、当然の如く、胸元が大きく肌蹴てしまった。


 「きゃっ!」


 「ほら。こんなに無防備だ・・・」


 肌蹴た胸元に唇を寄せて、オウランが低く呟いた。


 ・・・えー・・・と。

 みどりちゃん、お願い。オウランふん縛って、転がしといてくれる?

 


 「チヒロ!こら、放せ!守護殿!!!」


 「オウランの馬鹿!」


 そのままあとも見ないで走って行った。後ろからオウランの声が追いかけてくるけど、立ち止まったりするもんか!


 木の下で、隠れて座っていた。


 この中庭に訪れる人はいない。木に向けてぶつぶつと独り言を呟いた。


 「・・・オウランの馬鹿」

 が主。だって頑張ったのに。

 初めての試みが認めてもらえないのは仕方がないことだけど、オウランのために頑張ったのに、さ。

 あああ、わかってしまった。

 認めてもらいたかったんだ。

 オウランに良くやったって言ってもらいたかったんだ。

 それが、袂に手を突っ込まれて胸を掴まれちゃあ叶わない。

 土の国の王妃として、巫女姫として、オウランの隣にいて良いんだよって、明確な答えが欲しいんだ。


 貴方の側にいたいから。


 でも、頑張っても空回りはするんだ。

 今日はきっとそんなタイミングの日。

 「・・・うん。でも頑張るんだ」

 今日より、明日、明日よりあさって。

 一日一日、あなたが好きになっていく、貴方の側を離れたくないって思うから、頑張れる。


 「・・・チヒロ」

 オウランの声がした。

 探して見つけてくれたんだ。・・・ちょっと悔しいけど嬉しい。・・・本当はうんと嬉しい。

 でも少しだけ意地悪をしよう。

 「・・・ちゃんと言って」

 呟いたら、ああ、と声がした。

 似合わなかったのかな。あれは不味かったのかな。ダメなのかな、ねえ。

 ちゃんと言って。

 でないと分からない。

 式典は成功だったのよね?

 私はちゃんと役目を終えたのよね?


 「似合っていた。式典も滞りなく終了できた。チヒロのお陰で土の国の面目は保たれた。あの衣装も・・・とても、よく似合っていた。・・・だが、似合いすぎるから、封印だ」


 ぷぷぷと笑う。


 「似合っているのに、封印?」

 「似合いすぎるから、封印。俺の前でだけ着ていれば良い・・・。ちゃんと脱がしてやるから」

 「着付けてくれないの?」

 「練習する。それよりも脱がす方に集中したい」


 赤い衣の海の中で、一糸纏わず、自由になって。


 ・・・愛し合おう。


 チヒロがそっと目を閉じて、オウランが唇を重ねた。


 愛してる。


皆様の深読みには脱帽いたしました。

すかさず巫女装束でコスプレエッチですね。この後は後ほど・・・でも裏行き決定ですなー。

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