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第九話:戦いの場所。あるいは、自己紹介。

 気分は、最悪です。

 売られる子牛の気持ちが今ならわかる。

 わたしより数段麗しい、きらきらした方たちに、こうもうっとりと、じっと見詰められる日がこようとは・・・。


 着席を促され、ちょこんと座ると、ようやく彼らが動き、それぞれ席に着いた。

 おもむろに一人が立ち上がり、恭しく腰を折る。

 すると、青銀の長い髪がさらりと肩を流れ落ち、きらきらした川をつくった。

 そのままの体勢で、座る私の目線の高さなので、彼はそのまま顔を上げ、髪と同じ色合いの青銀の瞳にふわりと笑みをのせた。

「まずは、無事の界渡り、おめでとうございます。そして、此度の渡り先に我が風の国・シェンランをお選びくださってありがとうございます。わたしは、シェンランの国王、アレクシス・シェナ・シェンラン。かわいらしい巫女姫様にはどうぞこの後もこの国に滞在していただきたいですね。」

 にっこり笑って美形がそんなことをぺろっと言うもんだから、隣の美丈夫の右眉がぴくりと動いた。

「アレクシス殿は口が軽くて困るな。しかもこんな幼げな巫女姫を篭絡せんとは、男の風上にも置けぬ。巫女姫、笑顔の裏で何を考えているか判らない男ほど、たちの悪い者はいない。どうだ、ここは、ひとつ、見聞を広める為に我国へいらしたら。」

 赤い髪に赤い瞳の美丈夫は、相手をいなしつつ、私にこの国を出ないかと誘いをかけた。・・・この人、波風立てるのがうまい人だな。ほかの人たちの思惑も知れるかもしれないと思って、わたしはにっこり微笑んで見せた。すると私の笑みに満足したのか、周りを見渡し挑戦的に笑うと、彼は言った。

「俺は、火の国・シャザクスの王、シャラ・クロム・シャザクス!炎を治める神官でもある。我がシャザクスの民は太陽と月の巫女姫を歓迎するぞ!」

 「・・・質が悪いのは、アレクシス殿だけではあるまい、シャラ殿。」

 あきれたように声を出したのは、茶色の髪、茶色の瞳の穏やかな雰囲気の人だった。

 私の視線を受けたその人は、にこりと微笑むと席を立った。

「はじめまして。界渡りの姫君。太陽と月の巫女、あなたの光臨を五王国の公子すべてが待っていました。・・・わたしは、土の国・コクロウの王、オウラン・クムヤ・コクロウ。我が国は、土気にあふれた、恵み多き国。太陽と月の巫女を、謹んで招待仕る。」

 にっこり笑ってそう言ってくれたけど、策士のにおいがした。

 なんかにっこり笑顔で、笑顔だけど、笑顔だからこそ!怖い人。

 ざっと、背中に悪寒が走ったのをこの人は見逃さなかったようだ。おや?っという顔をしたかと思うと、彼は、笑った。それはもう、悪魔もはだしで逃げ出すんじゃないかってほど邪悪な笑み。息を呑んでプルプル震えてると、青銀の髪の人・・・アレクシスが戒めてくれた。

「オウラン殿、巫女姫が脅えていらっしゃる。しかし、初対面であなたに脅えるとは、まさしく精霊の巫女姫・・・。」

 ・・・それってつっこみどこですよね?つうか、この人そんなに黒い人なんですね!初対面なので猫かぶっていたわけですね!

「僕の本質に触れて脅えるなんて、やはり太陽と月の巫女ですねえ。おもしろい。巫女とは名ばかりのただの娘なら興味も無かったんですが・・・あなた、僕の国へ来ませんか?あなたの知りたいこと、知りたくないこと、全て教えてあげますよ?」

 ひいい!怖っ!笑顔になればなるほど怖いってどういうこと!しかも知りたくないことまでって・・・ナンダソレエ!

「胡散臭い笑顔でそういわれて頷く馬鹿はいないと思うが・・・。」

 誰だ?私の気持ちを代弁してくれた人!ありがとー!

 ふう、やれやれとでも言いたそうな声だった。思わず涙目でみわたすと、水色の髪に水色の瞳の麗しの姫?あれ?でも、声は男性だった・・・よね?

「お初にお目にかかります。私は、水の国・シェルグランの王、リシャール・ル・シェルグラン。太陽と月の巫女の光臨が我が治世に叶い,至上の喜びと感じております。」

 わたしよりよほど姫っぽい彼は、優雅に一礼すると、こっちがはだしで逃げ出したくなるような笑顔で、笑った。あまりのきらきら光線で顔がじょじょに真っ赤になるのがわかる。ブラック大魔王(命名)の笑顔には背筋が凍ったのに。するとブラック大魔王がむっとした顔で言った。

「貴殿とて、姫をたらしこもうと必死ではないか」

「おや貴殿、巫女には興味がないと常々言っておいでではなかったかな?甘露に惑わされるなどまっぴらだと。かわいらしい姫君を前にすると、やはり惜しくなったのか?」

 あれ、なんか、険悪な雰囲気になってきた・・・。と、びくびくしだすと、ひときわ渋い良い声がした。これ、この良い声いつかも聞いた・・・。

「見苦しいぞ、貴殿たち。仮にも一国の王たちが揃いも揃って、おかわいそうに、巫女姫殿は心痛めておられるぞ」

 ・・・うわあ、王様だ。威厳も威圧感もたっぷりの、見るからに王様な人。

「代変わりして、すぐの巫女姫招来に、慌てる貴殿たちの気持ちもわからぬでは無いが・・・。

 改めて、お初にお目にかかります。巫女姫殿。黒い太陽の導きで貴女がこの世界へ光臨され、在るべき家族と引き離されたこと申し訳なく思っております。貴女が心安らかに在られるよう、ここにいる我らが尽力いたしますゆえ、どうか、この世界にとどまっていただきたい。貴女は、この世界の希望なのです。精霊の恩恵を受けられる人間が随分減って来だした今、人間と精霊の橋渡しをできるものは限られてきております。我ら王族ですら、髪と瞳に精霊の色を刷くのみ・・・。太陽と月の巫女、貴女を今迎えることができたのは、この地の精霊がまだわれ等を見捨てていないという証なのかもしれませんね」

 そういって王様はやさしく笑ってくれた。

 濃い茶色の短い髪と瞳の王様は、右腕を軽く左肩にあて、一礼すると名乗りを上げた。

「我が名は、セイラン・クムヤ・ハクオウ。木の国・ハクオウの王。巫女姫様には,恙無く暮らしてくださるよう、あらゆる便宜を図りますぞ。もちろん、我国にお越し頂けなくとも、です」

 うわあ、うわあ、うれしいな。なんか、百人の味方ができたみたい!

 にこっと笑ったら、周りのきらきら達も慌てて言い出した。

「もちろん、私も、貴女をお守りいたします」

「巫女姫!俺も国が違っても守ってやるぜ!」

「セイラン兄上、何気に巫女姫口説かないでくれよ・・・」

「天然のタラシですね。守備範囲、広いですね」


 ・・・うーん。まず、一番気になったことをブラック大魔王に聞いてみる。びくびく。


「・・・あの、兄上って・・・」

「ああ、従兄弟なんだよ。僕のかあさまはね、兄上の父上・・・前国王の妹なのさ」


 ・・・うああ、にてない。


「君、今、失礼なこと考えただろう?巫女姫どの・・・。」

 背中をいやな汗がつたったけど、気にするな私!

「チヒロです。チヒロ・オオツキ。それが私の名前です。」

「チヒロ、チヒロね。ふうん。そう呼んで欲しいのかい?」

 その問いには大いに同意した。ぶんぶんと首を縦に振ると、ブラック大魔王・オウランはにいっと笑った。

「じゃあ、・・・」

「・・・\\\\\!!!!!」

 周りの音が消えた。真っ白。頭の中も。


 きさま!とか、なんてことを!とか、ようやく自分の耳が周りの音を拾ってくれるようになったころ、私の奥の奥からふつふつと沸いてくるものがあった。

 それは、怒り。

「わ。」

「わ?」

 誰かがその音を拾ってくれたのか、続けてくれた。

「わたしの、ファーストキスがあああああああああああああああああっっっっ!!!」

 おおおおおっと風の鳴く音がして、あたりが喧騒に包まれる。

 ぎっと睨んだオウラン目掛けて風の塊が向かっていった。




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