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番外編 ち 桃の節句に先駆けて。

 今日、先生から宿題を出された。

 題名は「ぼくの、わたしのかぞく」だ。

 ・・・陳腐だ。

 かなり嫌だったけど、できないと思われるのも癪なので、書いてやることにした。

 級友から浮いている僕が他の家庭と変わらず子供らしくあるはずだという願望。理想に当てはめたいといったところか?

 もしくは、あれか。

 ロイヤルファミリーの日常を垣間見る千載一遇のチャンスってことか・・・?


 「僕の家族。

     コウラン・クムヤ・コクロウ」と書いたところで固まったぞ。

 あと、どう続ければいい?僕の父上は腹黒で、母上は天然とでも書けばいいのか・・・?

 悩んだところで、父の腹黒も母の天然も治らんな。

 とりあえず、下書きしてみるか・・・?

 

 


 僕の家族は、父と母と、僕と弟と、妹の五人。

 父は、この国の国王だ。母はこの国の王妃で在り、中央神殿の祭祀であり、精霊巫女姫と呼ばれている。

 父は・・・。(やばい事を考えている時の父の顔を思い出し、気が遠くなった)

 父は・・・。(黒い事が丸わかりの胡散臭い笑顔で、周りの奴らを煙に巻いていたのを思い出して、寒くなった)

 ・・・父は。・・・うん。愛妻家だ。(これで行こう)

 この上ないくらいの愛妻家だ。

 木の国のセイラン王や、水の国のリシャール王、風の国のアレクシス王、火の国のシャラ王がやってくると、母上を神殿の奥に隠してしまうくらいの。

 なんであんなに警戒するのか、わからない、とログワ(父の側近)に尋ねると、ログワは決まってこう言う。

 「王は、妃殿下をそれはそれは、愛しておられますからなぁ・・・。攫われやしないかと、戦々恐々なのですよ」

 ・・・と、言うのだけれど、一国の、それも王妃を(しかも、三人の子持ちだぞ!いや、母上は子持ちとは言えども、可愛ら・・・いや、美しいがな!どこに出しても自慢の母上だぞ!)攫うわけがないだろうが!しかも、あの、セイラン王だぞ!不敬にも、程がある!と、怒ったら・・・。

 ログワが僕を見てこう言った。

 「セイラン殿、周りから固めて行くおつもりなのですな!」

 皇子殿下!ほだされてはなりませんぞ!我等一丸となって妃殿下をお守りせねば!と、言い置いて僕を残して神殿に走っていった。

 ・・・なんなのだ。

 ・・・まあ、父と、側近のログワはいつもこんな感じだ。

 ・・・だが、どこまで書いていいのだろう・・・。



 母上は。可愛ら・・・美しく聡明な「淑女」だ。(時折ドレスの裾が邪魔だといって裾を抱えて、城内を走り回るのはやめて欲しいが)

 知恵と機転に溢れていて、母上の作り出すものに不味いものはひとつもない。

 技術省は母上の声を形にする場所になっていて、各国からの技術者も積極的に受け入れているおかげで土の国の技術は世界トップレベルだ。

 いろんな機械も、食材も、加工品も。土の国の懐を潤す最高のものだが、ここ6~7年あまりで、土の国が開発したものすべてが、母上の知識からなるものだということは、余り知られていない。

 母上の功労は、甘味を見出したことだといわれている。

 それまでは駆除の対象だった、殺人蟻の巣からあれほどの甘露が発見できたのも、どこの国の森にも自生するギギの幹から甘露が取れるということを見つけ出したのも母上だ。

 物語の記述にもある『精霊巫女姫はその腕より甘露を醸し出す』とはよく言った物だと思う。

 だが、母上の見出した技術はそれだけじゃないんだ。もっとすごいのがあるんだぞ!

 書きたいけど書けない。だって国家機密だから!

 まあ、気になったら、いい成績を残して、城の技術省に入省することだ。

 うん、こうして見ると、母上の事はたくさん書けそうだ!


 次は弟だな。僕の弟は、スイラン・クムヤ・コクロウという。

 スイとは年が二つ違うけど、喧嘩はしない。喧嘩をすると母上が泣くからな!

 お兄ちゃんは弟や妹を守るのが当たり前だからな!

 スイと、僕はたまに母上の実家に遊びに行く。

 そこには、じいじとばあばがいて、あっちはどうだと聞いてくる。

 母上は一緒に行かない。

 理由を聞いた事がある。

 父上は、母上の実家とこの世界は違う場所に存在し、母上が界の要としてこの世界に楔を打っているのだといった。だから、母上がもし実家に帰ってしまったら、行き来ができなくなるし、最悪、母上が界の狭間で迷ってこの世界に戻れなくなるって言ったんだ。

 内緒だけどその話で僕とスイは泣いた。だって、母上が帰ってこれなくなったら!そんな恐ろしい事考えるのも嫌だ!

 僕が生まれたり、スイが生まれた頃はじいじやばあばがこっちに来てくれたんだけど、最近はそれも随分難しくなった。

 精霊の存在を信じる人が少ない世界なので、何回も界を渡っていると、狭間に囚われて動けなくなるらしい。

 僕とスイは生まれながらに強い精霊の加護があるから、自分を維持するのが楽にできる。

 だって僕は僕だ。

 スイだってスイだ。

 だから、母上がじいじやばあばに会えないのは悲しいけど、その代わり僕らがあっちに行って、じいじとばあばにうんと甘えてあげるんだ。

 そうすれば、もう寂しくないってじいじとばあばが笑ってくれる。

 そして、家に帰って、スイと先を争ってそんな話を聞かせてあげると、母上は嬉しそうに笑って、それからそのお顔をくしゃくしゃにして泣くんだ。

 そんなときは父上の出番だ。

 優しいってこういうことを言うんだろうって思う。

 あの真っ黒な・・・いや、厳格な父上がこの時ばかりはとても優しい雰囲気になる。母上の頬をそっとすくい上げて、目を合わせて、頬に口付けるんだ。その時の母上のお顔は、安心しきって、子供心にも可愛・・・美しい。母上を慰める事ができるのは、悔しいけど、父上だけだ。

 僕も男だからわかるんだ。

 母上の里帰りをしたい気持ちがよく分かるけど、父上は母上を離したくはないんだ。

 僕やスイもそう。

 界を渡ってあちらに行って、もし、戻れなくなったら?

 あちらの世界にも、希薄だけど精霊の主の息吹を感じる。あれに母上が囚われてしまったら?

 だから、僕とスイは、謝罪もこめて界を渡る。

 じいじとばあばに声にならないごめんなさいを伝えるために。


 ごめんね。僕は僕達は(この世界は)、母上を離さない。


 ・・・すこし、しんみりしてしまったな!

 スイのことを書こうと思ったのに、いつの間にか、じいじとばあば、それから母上の話になってしまったぞ。ここはもう少し考えないといけないな!


 そして、最後に妹だな!

 妹は可愛い!

 妹は美人だ!

 妹は天使だ!

 妹は・・・うるさいな。なんだ?ああ、先生か。え、名前?

 教えられるか!名前を呼ばれれば、知っている奴だと思って妹が攫われちゃうだろう!

 だから、だめだめ!

 僕とスイが立派な王国の騎士になって、妹を任せても良いと思える奴を、見出すまでは!

 まあ、僕とスイのあとには、あの父上が控えているんだからな!ログワもやる気(殺気)満々だぞ!

 並大抵の奴じゃ、僕の妹の声すら聞けないさ!

 ・・・先生、どこかの国の間者じゃないだろうね?そんなに妹の事を根掘り葉掘り聞くなんて!

 じゃ、仕方が無い。年だけな!

 僕の妹姫は、もうじき三歳だよ。

 そう、彼女の誕生日まで、あと二日だね。

 明後日、母上の言う「桃の節句(?)」が彼女の誕生日だよ。


 

 *************************



 後日。

 王立学園の掲示板に張り出された作文。

 大きな花丸の書かれたそれは。

 「僕の家族。        コウラン・クムヤ・コクロウ

 僕の家族は父と母と僕と弟と妹の五人家族です。

 僕達家族は仲良しです。母を中心に、父も僕も、弟も妹も仲良しです。

 僕の父の仕事は、国を守り栄えさせ、人々が安心して住める国を作る事です。

 母の仕事は、民を支え、癒し、守りぬくことです。

 僕はそんなふたりの支えになりたいと思っています。

 父と母と弟妹を守れるような、強く聡明な存在になりたいです。

 国が誇れる人間となって、この国(世界)にやって来た母が悲しまないように・・・。」


 


 

次世代です。

こんな感じでちびに語らせてみたら、まー早い早い。悩んでたのが、あっという間の二時間だった。あと、ちなみに。

コウランは六歳。スイランは四歳。んで、末の姫はもうじき三歳。

父母はバカップル。各国王の中でも、木と水は諦めてない模様・・・。

風と火は、早々に次代を育み、末姫を息子にと狙ってます。


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