番外編 へ ばれんたいん以前。
性描写あり
ばれんたいん。
甘い甘いチョコの誘惑。
恋人と過ごす素敵なひと時・・・。
けど、甘いもの自体がないこの世界!
チヒロは焦っていた。
「ない!うそ・・・」
ハチミツの在庫がきれたのだ!!!
「・・・ぴ、ぴんち・・・」
オウランにはバレンタインの概容はもう話している。今更作れなかったじゃ済まされない!
「確か、ほかの国でも取り始めたって言うし、捜せばあるかも・・・」
ああ、でもニコヤカな黒い顔とか。憂いをこめて企んでる麗しの顔とか。
相談したらナニ請求されるかわからない。
「・・・シャ・・・シャラ様か、アレクシス様に相談しよう・・・そうしよう」
うんうんと頷いて。
お馬鹿だって学習くらいするんだいっ!
「悲しいね。ここに我等がいるのに」
「つれないです、姫・・・。何でも叶えて差し上げますのに」
「ふぎゃっ!」
ハチミツのつぼを抱えて飛び上がったチヒロに、うるるとした眼差しを寄せて、美人が迫る。
そうはさせじとうさぎが逃げる!捕まったら!やばいのだー!
が。
あっさり捕まって。(おい)
る~るる~と泣きながら、抱えられ・・・訳を話せと迫られた。(おおーい)
顔が近い!
顔が近いんだよおおお!
皆様、ご自分の麗しいお顔がどれほどの破壊力をもっているのかしらないんですかあっ!!
「「ほお。なるほど。バレンタインね・・・」」
妖しく光る眼差しの前に、チヒロは尻でずりずりと下がる。
耳元で囁くなあっ!腰を撫でるなあっ!
胸のうちで唱える呪文は、私はオウランの物!
あ。なんか、セイラン様とリシャール様の纏う雰囲気が変化した。
温度下がったよ。確実に一度くらい。
なんだろう、この威圧感。ふたりの眼差しはすでに獲物をロックオンしたハンターの目です!
距離を、取らねば。
すかさず捕捉されて喰われる!いや違った、捕まる・・・!
だが、敵もさるもの。
あっさりと。望みの品を差し出して。こう言った。
「さて、私の子を孕むか、魚醤の製造法を教えるか、ですね」
・・・なんだその二者択一っ!!!
固まって、ふたりの王様を見上げていたから後ろの魔王様に気付くのが遅かった。
がしっと肩をつかまれて、ひいっと背筋があわ立った。ぞくぞくする。
「誰が孕ませるかっ!!魚醤も門外不出だ!情報が欲しいならそれなりの国定資産よこしやがれ!!」
ね、オウラン。気のせいじゃなかったら、最近口が悪くなってるよおな・・・。
「残念。時間切れか」
セイラン様がそう言って、私に向かって微笑んだ。
リシャール様がうるうるの眼差しで切なげに見つめてくる。
う、ごめんなさい。赤くなってましたあっ!
オウランの眼差しが怖いです・・・。
尖った眼差しでセイラン様とリシャール様を見送ったオウランが、ぎっと私を見た。
ぎりりと歯軋るような、燃え滾る眼差し。
体の奥がぞくりとした。
胸がじんじんと高鳴る。頬が高潮してしまう。
ああ、求めて。
私を欲しいと言って。もっともっと、欲しがって。
「・・・チヒロ・・・」
「・・・あ・・・」
噛み付くような口づけが降る。何度も何度も息ができなくなるくらいに求められ、翻弄されて。
合わせた唇の間から声が。オウランの声が私を縛る。
「・・・お前は俺のものだ・・・チヒロ・・・忘れるな・・・」
貴方が私を縛るから、私はここに残るのよ。
貴方がここに、居るから。私の居場所はここ。
口づけがいっそうの激しさを増していく。その合間に声。貴方の声。
だから私は、答えるの。
「・・・ん・・・は、い・・・我が君・・・」
ああ。
ぐっと抱きしめられて、息ができない。
そのまま抱き上げられて運ばれる。土の国の王城ではいつもの事だと、みんなが見て見ぬふりをしてくれるけど、やっぱり恥ずかしい。
「あの・・・降ろしてクダサイ。自分で歩く・・・」
「ダメだ。目を離すと碌なことがないからな」
なんて言ったってチヒロは俺のものなんだからな。
俺以外の顔や声に反応されちゃ叶わんのだ。
兄上やリシャール殿の目の前で真っ赤になっていたな。あんな可愛らしい顔を晒すなんて・・・。腹が立った。・・・だから・・・オシオキだ。
うっとりとオウランの言葉に酔っていたからはじめなんて言ったのかわかんなかった。はい?ってな感じだ。
「は?う?お、オシオキって、こ、ここ、こんな、真昼間からあっ!!!」
「明るいから、チヒロの可愛らしいところが全部良く見えるだろうな」
「いやあっ!そそそ。そんな・・・」
くくく。と笑った旦那様の顔は、魔王様もはだしで逃げ出すくらい黒かった。
逃げようと思って身を捩っても、敵はがっちり抱きこんでいるので動けない。
その上、大好きなあの顔で、不意ににやりと笑ったのだ!
「アキラメロ。オクガタサマ・・・」
ああ、見とれてる場合じゃないのに!(私のばかー!)
オウランが、私を見て優しく微笑むから、体が固まって動けないっ!!!
ぱたん。と。
扉が閉まる音がして、それから、頭はまったく言う事を聞かない。
だって、私は私だけど、ここからは、あなたのものだもの。
オウランの茶色の瞳が近付いて、口づけのために眼を閉じた。
肩を掴まれ、乱暴にドレスを引きちぎられても、怖くない。
貴方が思うようにしても、嫌じゃない。
精一杯貴方を迎えるときは・・・幸せ。
口づけて。口づけを返す。頬を合わせて、吐息を感じる。
顔中に口づけが降ってくる。優しい雨のようで、それがとても大好き。
貴方が、高まっていくのを感じるのは・・・最高。
胸を合わせ、両手を合わせて。
口づけを与え、幸福を与え、分かち合う。
きつく抱きしめられて。
共に旅立つその瞬間は。
ああ。
あなたでなければ。
部屋に入り乱暴にその身を横たえた。ドレスを脱がせる時間も惜しくて、肩口を掴んで引き裂いた。
君が怯えるかと思ったのに。
口づけたら口づけ返し、眼を見つめたら、信頼しきった眼差しをよこしてくれた。
この胸に抱いているのに。
君は君を抱く俺を、柔らかく抱きとめてくれる。
真っ赤に染まる顔を愛で。一つ一つ、刺激を与える。
羞恥に持たず震える君を翻弄して。
それでも、チヒロは、俺にその手を伸ばす。
君とどこまでも深く。
繋がっていよう。
繋がっていこう。
ああ。
きみでなければ。
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「ふ、ん。ばれんたいん用のハチミツが無くなってしまった、と・・・」
チヒロを抱きしめたまま、事の次第を聞きだしていた。
快楽にとろけたチヒロは、うわごとのようになんでも話してくれる。従順で結構。
ぐっと身を引き寄せると可愛らしく身を捩って答えてくれる。
「ふふ・・・バレンタインとは、好きな人に甘いチョコを送って告白する、・・・だったね?」
こくこくと頷く。声も出せないほど心地良いの?かわいいな。
「では、こうしようか、チヒロ。チョコの代わりに、バレンタイン当日、一日中、一緒にいよう。ずっとずっとこうして、いたいな・・・」
「・・・ん、はい・・・」
「ふふ。今返事したよね?チヒロ。気のせいじゃないよね?」
チヒロが何度も頷いた。
・・・よし。
バレンタイン当日が、楽しみだ。朝から晩までずっとだなんて、最高じゃないか!
兄上とリシャール殿への牽制もこめて、今年こそ。
「はやく、芽生えておいで」
そう言って、俺は、チヒロのなだらかな腹に口づけを落とした。