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番外編 に たとえばこんな展開は。・・・有りそうで怖い。

 「・・・ああそうだ。そろそろ打って出るから」

 そう囁かれて、怖気が走った。

 振り返り睨みつけた先に、セイラン兄上。

 にこにこと、いっそさわやかな微笑なのになぜこうも、怖気が走るのだ?

 「・・・どんな手をお考えですか。チヒロは渡しませんと・・・」

 「ふふ・・・」

 ああ。あざとい手を使う気だ。昔、家庭教師の元を抜け出した時のような、容赦のない手を考えているな。

 ちなみに、家庭教師は朝に食べた食事の中に下剤が山盛りはいっていてその日一日、トイレから出てこれなかったそうだ・・・。

 何か、する気だ。

 チヒロを隠さねばなるまいな。

 オウランは、表面上は穏やかに、挨拶すると、踵を返しチヒロを探した。

 が、いない。

 どこにもいないのだ。

 待て。落ち着け、俺。

 脳裏に浮かぶは、さわやかな黒い笑顔の・・・セイラン兄上。

 まさか。と思って、いやいやと首を振った。

 やる。兄上なら確実にやる。

 チヒロみたいな隙なんかいくらでもゴロゴロしてるうっかりさんが、あの兄上に叶うはずなど、ないのだから。

 「・・・チヒロ・・・どこに行った・・・?」


 ログワと近衛兵を呼び出してチヒロの向かいそうなところを、しらみつぶしに捜していく。


 ・・・しかしだ、一国の王妃を捜しているはずなのに、漂うこの脱力感はなんなのだ?娘を捜すと言うより、野生動物の探索にしか思えんぞ。


 山の中。

 ・・・まあ、あれだ。探究心の固まりだしな。

 温泉の発見はすばらしかった。

 新種の野菜と言って、見たこともない野菜を掘り出してきたときも驚いた。その美味さにも。・・・たしか、「大根」と言っていたな・・・。

 技術省の研究室。

 ・・・うん。まあ、いろんな機械は役に立っているな・・・。

 特にチーズを作るための温度管理と衛生面にこだわった製造機械は他国も輸出を!と叫ぶ代物だ。

 そしてバターを作るための攪拌機!あれはすごい。

 更に、アイスクリーム製造機!出来上がったアイスは蕩けるほどの美味だった。ま、俺のチヒロが一番美味だが。

 城の厨房。

 ・・・いないな。ここで何か作っていると思っていたのに。

 ふたりの私室。

 ・・・ここにも、いない・・・。

 流石に少し焦ってきた。

 チヒロにせがまれて城の中に作り上げた、温泉。

 宝石もドレスもねだらないチヒロが、唯一ねだったそれ。その浴室の中にもいなかった。

 焦りは、もはや恐れになっていた。

 「く、そ!やられた・・・!すでに兄上の手に・・・!」

 いても立っても居られず、兄上の使っていた部屋に入れば、はたしてそこに・・・。


 手紙があった。


 「花嫁は返してもらうよ」


 だれが、だれの、花嫁だと!

 怒りが身を包みこむ。まなじりがきつくしなり、彼方を睨みつける。

 低く呟いた声は、傍らに控えていたログワを寒々とさせた。

 「兄上め!」

 

 木の国、ハクオウ。

 セイラン・クムヤ・ハクオウ王は、眠るチヒロを抱いたまま入国を果たした。

 唇の端に、隠せぬ笑みがこぼれる。

 愛しい娘が腕の中に納まっていて、目障りな輩が不在で。

 娘の柔らかなからだと芳しい香りが、直接脳髄を刺激するのだ。

 このまま奪ってしまうのは余りにも容易い。

 けれども。

 「このまま、私のものにしたいのは山々なのだが・・・」

 そう言ってチヒロを抱いたまま微笑んだセイラン王に、頭をたれて心酔しきった顔でハビシャムが頷いた。

 「我が君の求婚に応じぬ娘などこの世にはおりますまい。我が君。心置きなく娘とお過ごしくださいませ!」

 「そう、だね。どう追い詰めようかな・・・」

 ふふふ。と微笑むその姿。

 麗しいのに。

 精悍で鷹揚とした、大人の色気がただ漏れなのに。

 なぜ、こうも、背中が薄ら寒くなるのだろう・・・?

 (いや!気のせいだ!)とハビシャムは見ないふりをした。

 セイラン様の未知なる一面を開発してしまった娘に、全面的にゆだねて、結果が出るのをまとう。

 そう。

 娘の腹の中に、オウラン殿の種が息づいていない、今が格好の機会なのだから!

 後はうるさい輩を黙らせるくらいに、あまくあまく、娘を篭絡して見せましょう!我が君!

 幸い、この間新種の野菜を発見しましたし。

 娘がかねてより捜していた、サトウキビ、なる代物に代わるものかもしれないと、研究者の中で大騒ぎにもなりました代物。

 さあ。

 目先のえさは、存分につるして差し上げますので、我が君には精一杯励んでもらわねば・・・。

 「・・・ん、う」

 「ああ、目を覚ましそうだ。ハビシャム、甘露水をここに」

 「御意」

 恭しく差し出した甘露水の入ったグラス。冷たく冷やしてのど越しもさわやかなそれを、我が君が口に含む。

 そして、うっすらと開いた娘の唇にそっと重ね合わせ、口に含んだ水を流し込んだ。

 ああ。我が君。娘まだ意識ないんですが・・・。

 いや、無粋だな。お二人のみにしておこう・・・。

 そっと部屋を辞したハビシャムのうしろでは、激しくなりつつある口づけの、濃厚さをうかがわせる水音が響いていた。

 それから暫くして、悲鳴が響く。

 うむ。目を覚ましたようだな・・・。しかし、娘、本当に無防備だな・・・。オウラン王の苦労が眼に浮かんだぞ。

 「お早う、チヒロ。良い朝だよ?」

 ああ、我が君の、ここまで弾んだ良い声が聞けるなど!このハビシャム、思ってもいませんでした!

 さ。娘が帰還を叫ぶ前に。

 新種の野菜を揃い踏みにして、御前に持ってこさせねば!

 娘のあくなき探究心に火をつけるのだ。

 ここから離れられないと、思わせるほどに。

 なに、土の国への書状はきっちりしたためて送っておいて差し上げます。ですから、心置きなく研究なさってください。

 ・・・そう、後はゆっくりと、我が君が娘を篭絡してくれるだろうから。

 

 さあ。木の国は貴女を決して離しませんぞ。

 覚悟なされよ。奥方様。

 

 

ふふ。やっぱり実力行使に走るセイラン様。やりそうだ。すごくやりそうだ。


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