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番外編 い 宰相ログワの弁

 我が土の国の国王陛下が、五百年ぶりとなる快挙を成し遂げたのは、暑い盛りを過ぎ、風が涼しく感じられた頃。

 御年、二十四歳の賢王との誉れ高いオウラン・クムヤ・コクロウ陛下が、かの精霊巫女姫で在らせられる、太陽と月の巫女を后に迎えられた。

 太陽と月の巫女であり、贖罪の姫君の二つ名をお持ちになるかの姫君は、御年十八になったばかりの、匂いたつ美貌の持ち主。その神々しいばかりの美しさ、愛らしさには、異議を唱えていた頭でっかちの貴族達も目を見開かんばかり。中には、滂沱の涙を流して姫君の足元に身を投げ出し、罪を悔い改めんとした輩もいた。

 姫は困惑を隠して優しく接してくださり、その優しさもあいまって、人気は急上昇。おふたりの仲も大変よろしく、すわ、来年にはもしやすると、嬰児が…との声もあがった。

 今日もおふたり仲良く、領地の視察…という名目のデートが行われるはずだった。


 あ、申し送れましたが、ワタクシ、オウラン陛下の参謀を勤めております、ログワと申します。

 おふたりのラヴっぷりをお伝えいたします。

 お。陛下です。朝も早よから険しい顔でなにやら書物に眼を通しておられます。

 あ。

 破った…!怖い顔で破り捨てました!見えましたか?

 無言無表情で書類を破り捨てております!ぺいっと後方に放り投げて一言なにやら呟きました。

 「兄上め!」

 あ。あー…どうやら、ハクオウ国のセイラン王からの姫宛の恋文だったようですね。なんか、最近、姫の元に手紙が届かないなーと思っていたら、オウラン陛下の検閲が入っていたわけでありますね!

 次の書類も粉々に破り捨てておりますよ。チラッと見えましたが、水の国の紋章入りの封緘でしたが、よろしいのですか、陛下…?

 結婚しても、ラヴっぷりを大々的に宣伝しても、彼の国の御仁方は諦めるという言葉を知らないかのごとき振る舞いなので、今では、土の国の重鎮もなれてきました。

 だって。

 今日も多分…ああ、ほら、ね…。

 …いるし。


 なぜか、夫のオウラン陛下よりも早く、姫の元に参じて、姫君プロデュースの朝食を召し上がってますものね。

 え。ああ。

 慣れました。慣れますとも。だって…。

 「毎日毎日毎日毎日!よくもそんな時間が取れるものだな、兄上!リシャール!」

 あ。陛下、最近は最早、名前に敬称すら付けなくなりましたね。

 そして、そんな彼らの間に挟まれるかたちで、真ん中でぷるぷるしている奥方様。

 ああ。癒しですね。

 怯えっぷりが可愛らしいです。姫君。

 そんな彼らを見て、考えます。

 この後のスケジュールを確認しておかねばいけませんな。

 陛下が最低限行わねばならない事は…うん、今日は時間が取れそうですね。

 ほぼ、重鎮のみでクリアできる議題ばかりだ。

 この前みたいな大荒れの陛下を伴なっての事務処理ほど命縮めるものはないからねえ。

 さて、と。

 気の荒い獣には、良い香りのする獲物を投げ与えねばなりますまい。

 

 「あ。陛下。先ほど、姫がセイラン様に手を取られて、外遊の約束を取り付けられそうになりまして。その後、リシャール様にも、ごり押しされて困っていらっしゃるようでしたので、オウラン様にお伺いしてからと…御ふたりにはお断りをしたご様子でしたが、念のため、お口添えを」

 「…チヒロ…」

 「うあ、ひゃいっ!」

 ロロロ、ログワさん!と目が仰っておりますが、知らんふりなのでございます。

 セイラン様とリシャール様はそれはもう大人の色気を最大限活用して、姫を落としにかかっているというのに、仕事でかまってやれないオウラン陛下は我慢するしかないのですから。

 なぜなら、腐っても国王だから。

 まあ、相手も国王だし。

 だから。

 「リシャール様が姫のお顔をじっと見詰めていられましてね。男のワタクシですら、ぽおっとなってしまう位の憂いあるお顔で…」

 「ロ、ログワさ…!!!」

 ぐいっと抱え上げられて、肩の上に俵抱きデスカ。陛下。斬新な。ここで、なぜにお姫様抱っこを選ばないのでしょうかねえ。若い若い。

 「陛下。今日は重鎮のみで決済可能な事項ばかりです。ここは、ひとつ、陛下でなければならない仕事を重点的に行ってくださいませ」

 「あとは、任せる。ああ、兄上達にはどこへ行ったかは知らせるなよ。乱入されても困る」

 「御意に」

 乱入、ですか。あのお二人ならなさるでしょうな。

 では、せいぜい妨害工作に励まねば。

 頭の中に城内の地図を引っ張り出す。

 姫へと続く道をどう潰そうか。腕が鳴りますな。

 これは、あれだな。有事における攻防戦の予行演習ですね、きっと。

 知力体力時の運。ついでに巫女姫の微笑がかかっている!

 姫の笑顔が見たいかー!!!オオオーッ!!!って感じで。

 「あ、そうだ。陛下。褒美は姫のお手製のチーズケーキがいいですなあ」

 あんなうまいものがこの世に存在しているのかと、食べた時はこの身が震えたのです。

 『冷酷のログワ』も堕ちたものですな。

 「よし。だが、今日明日は無理だ。許せよ」

 「なんの、もったいないお言葉、ありがたく…」

 ああ。

 早く世継ぎが産まれるといいなあ。

 姫君そっくりの女の子だったら、もっといいなあ。

 癒しが増えると、仕事がはかどりますからねえ…。

 「ロ、ログワさ…た、助け…」

 ああ。姫の声音は鈴のようですなあ。可愛らしく鳴いて、陛下のお耳を喜ばせてくださいね。

 なに。

 邪魔をする気満々のふたりとは、一度真剣に対決したいと思っていたところです。

 土の国の騎士を甘く見られては国の有事。

 さて、参りますかな。

 ああ、久しぶりに、血が騒ぎますぞ!


 

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