第七十六話;蜜の姫 6
我に返って尋ねた事は、ここどこ?と、何でこんな薄物を!っだったけど。
オウランは、抱きしめたその手を放さないまま、話してくれた。
私が真っ暗なところに居た頃の話。
真っ暗な、冷たい、寒いところで、自分の肩を抱いてうずくまっていた私の話を。
「あのときのチヒロは、妖艶だった」
へー。
「どう魅せれば男が靡くか、分かりきった風情で」
ほー。
「薄絹一枚、羽織っただけの危うい姿で腹の上に跨られて」
ま…跨ってって。いや、いや、まて。
「こう、しなだれかかって、口づけを迫られて…」
してない、してないよ!
「俺の胸や腹を、こう、撫で回して…」
してないから!覚えがないから!
「…心底、気色悪かった」
「オウラン!言って良いことと悪いことが…って、え?気色悪かった…?」
「ああ。心底、気色悪かった。眼を覗き込んでも空洞で、どこを見ているかぜんぜん分からなくて」
淡々とオウランが振り返って話す言葉は、一見すると、知らない女と楽しんでいたふうに取れるけど、出てくる単語は、気色悪いとかだった。
嫌悪を催すようなさわり方したんだ、私って…。と落ち込むと「馬鹿」と言われて抱きしめられた。
「お前に会いたかった。お前の瞳に自分が映るのを見たかった。まがい物なんかじゃない、お前に求めて欲しかったんだ」
「オウラン」
なんだろう。
すごく、うれしい。
唇がふってくる。嬉しくて眼を閉じると、そっと、重なる。
ここにいていいんだね。
あなたの側にいられて、しあわせ。
「オウラ、ン。すき…」
唇が合わさるか、と言う時。声。
「…これは、そう、だな。説明してくれるとありがたい」
「ええ。チヒロが元に戻ったようなので、不問に、と言いたい所ですが、なぜ、チヒロはそんなあられもない姿で、なぜ、オウラン殿の寝室に?」
オウランの部屋のベット上の攻防戦を、何時から見られていたのか。
足元から静々と、冷気がただよってくる。
恐る恐る扉を見れば、そこにはやはり、セイラン様とリシャール様の玲瓏なおすがたが…!(ひぃーっ!)
蛇に睨まれた蛙の気分を味わっていると、ぐっと力を込めて抱き寄せられた。
オウランの胸に顔を押しつける形で、モガモガしていたら、復活の毒舌魔王様が敵、に向かって挑発的行動にでた。
「見れば分かるでしょう。チヒロの中の闇を祓ったんです。「愛」の力でね」
うわっ!くさっ!と真っ赤になって慄いていたら、セイラン様がにっこりと。そりゃもう、にっこりと笑って爆弾を落とした。
「愛、ね。…未熟者の好む言葉だ」
「どうせ、たまたま成功したか、そうでなければ、チヒロ自身の力でしょう」
あ。リシャール様も何気に鬼だ。
「ふふ。選ばれたのが僕だからって、妬くのも大概にしてくださいね」
あ。僕になったー。策士モード・オン。
「先は長い。今の気持ちに変化がないとは言えないだろう?」
「オウラン殿の横暴さに姫が愛想を尽かさないとも限りませんからね」
「貴殿ら…諦めないおつもりか?」
ふたりの台詞にオウランが歯軋りするように、声を絞り出した。それに。
「「なぜ、私が諦めねばならない?」」
と、あっさりと試合続行を告げた二人。まじですか…?
そしたら、うぐ。と、更に力いっぱい、オウランに抱き潰された私。
つぶれる!なんか、もろもろ、潰されてるから!乙女としては避けて通りたいものが口からでちゃうってば!!!
そんな感じでじたばたしていたら、セイラン様の声が耳に届いた。うあ。背中、撫で上げられる感じがするうっ!
「私の魅力を出し惜しみせず、最大限の求愛行動に走らせて貰うからね。…覚悟なさい。チヒロ」
こ…腰、砕けそうです。ヤバイです。その声!
「私の最愛の貴女に、余すところなく私を知って欲しいのです。オウランより、セイランより、他の誰よりも、あなたを愛しています、姫…」
リシャール様の、憂い溢れる美声。い、いけません!なんか、伏して謝り倒したくなるんですっ!
と、背筋に何かが走り抜けました。これは、なに。
こ、こわいです。ふたりとも。本気で言っているのが分かるだけに、余計に。
ああ、でもっっ!!!
ふ。ふふふ…。と、笑う声が聞こえるんだよ。
オドロオドロシク、声が聞こえるんだよおおおおおおおおっ(泣)!!!
主に私を抱きしめて放さない、その人から、き…聞こえるんですっ!!!
「…間違えてもらっては困る。チヒロが選んだのは僕だ。決して放さない、離れないと誓ったのも僕だ…。そしてチヒロ…忘れるな。お前は、「俺」のものだ」
今後、兄上とリシャール殿の側に不用意に寄っていったらオシオキだ。誓えるな?
との言葉に、がくがくがくと大きく首を振って肯定したワタクシでした。
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…丘の上に立ちどこまでも遠くを見渡す。丘の下に水の国の下位神殿。その隣に孤児院。
水の国の孤児院の子供達は、お菓子職人や、木製玩具職人、乳製品製作者としての確固たる地位を築いていた。私の持てる知識を伝えた彼らは、なくてはならない人物と目され、就職も望むところに行ける事となった。神殿の神官さんたちは子供達の個性を生かして、その子に一番有った職種を授けていた。精進すればひとり立ちすら可能な彼ら。その技術は各国の商人も注目の的だった。
「安心できたか?」
オウランが隣に立ち囁く。今回の就職は、各国の王様達も率先して行ってくれたので、子供達の将来は折り紙つきの安定だ。
うん。と頷いてオウランを見る。
半年の間、土の国にいくのを遅らせたのは、孤児院の年長さんの就職先が心配だったから。
残る子が今度は主力選手となって、技術の伝達に勤め、新しく入ってくる子達に教えていく。
「えっと。長らくお待たせして、すいませんでした」
オウランを前にして、ぺこりと頭を下げる。半年も待たせてしまったのは、わがままだと知っていた。でも、彼ら、彼女達の行く末が心配だったのも本当。
「気にするな。この半年の間に、国内も制定できたし、お前を迎えるにあたってうるさい各国王を牽制するにもいい時間だった。なにより、お前の心構えも整ったようだし?」
そう言って、色っぽい流し目をくれる、オウラン。
いや、赤くなんかなりませんよ!な、なってないってば!
顔が熱いのは気のせいなんだからね!
…うう。なんか、もろもろ、負けてる気がするのはナゼ…。
…分かってるの。惚れた弱みで三割り増しで色っぽいのよ。うん。毒舌なんかもたまにうっとりと聞き入ってる自分がいるって現実に、後ではっとなるんだよ。
オウランの嬉しそうな顔を見て、顔を赤くしたり青くしたりしていると、オウランがそっと、右手を差し出してきた。
その掌に、そっと手を重ねる。その手を引き寄せて、オウランが手の甲に唇を落とす。
じんわりと、熱。
身体の奥が、きゅんと鳴いた。
手に口付けたそのままに、目線だけ上げて私の眼を捕らえる。
惹かれてやまない茶色の眼。
「いくぞ。オクガタサマ」
「う。は、はい。ふ…フツツカモノデスガ、ヨロシクオネガイシマス。え、えと。我が、君…」
オウランが、意表を突かれた顔をして、それから。
茶色の瞳が優しく弧を描いた。
ああ。
あなたが、大好き。
はい。ここまで、お付き合いくださいました皆々様に、まずは感謝を。
一応、完結。それでもこの後、番外編をちょこちょこと小出しいたします。
別なオハナシも温まってきていますし、年が明けたらもう一本出せかると思います。
拙い文章、拙いストーリーにもめげずにお付き合い下さいましたみなさま。
メリクリスマス。そして、良いお年を。