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第七十話:華の行方・8

R15注意。

直接そんなシーンはありませんが、約一名が暴走中に付き、独白してます。

 「眼が覚めたか!」

 苦虫を噛みしめたような顔で、オウランが言い放った。

 パクパクと口を開くも、声も出ない。オ、オウラン、グーで…グーで殴った…!!!

 「甘露だと?甘露に惑わされているだと、この俺が!兄上が!リシャール殿が!シャラ殿が!アレクシス殿が!我らがそんなものに惑わされると本気で思っているのか!」

 眼差しが射抜く。負けるもんか!

 「お…思ってるよ!だって、ありえないじゃない!いったいどこの王子様が、私なんかに本気になるの!何も持ってないんだよ!生まれも育ちも異世界で、正真正銘、どこの馬の骨かもわかんない女に!どうして、一国の国王様が本気で恋を仕掛けているなんて思うのよ!夢は、覚めるの!いつか、覚めるなら、今のうちに、離れて少しでも、好きなままでいて欲しいじゃない……」

 語尾は、かすれた涙声。

 せっかく、気持ちを整理したのに。

 離れてもずっとみんなを見ていこうって思っていたのに。

 楽しかった事を抱えて、生きていけるはずだったのに!


 なんで、あなたが私を止めるの。


 「……は、はなして」

 縋るように、抱きしめられた。からだの隙間がないくらいに、ぴったり合わさって、身動きが取れない。

 「はなし、て。オウラン」

 「いやだ」

 「はなして!」

 「いやだ!」

 抱きしめられたまま、言い争っていたら、うしろから足音。

 「オウラン。そのままチヒロを離すなよ」

 セイラン様の憤った声、初めて聞いた。なな、何故にこうも怖気が走るのだ!?

 「チヒロ、私は甘露などに惑わされてはいないよ。ただ、純粋に…身も心も欲しいと願うだけだ。身を持って証明したはずなのにね。…ああ、いっそ、閉じ込めてしまおうか…?」

 ひ。

 「姫。どうしたら、あなたに声が届くのです?」

 リシャール様が憂いをこめて呟く。ぞわぞわと背筋を上るのは、なに。

 「あー…。もう。火に油注いでどうすんだよ。チヒロ、言え。はっきり言え!何、簡単な事だ。…お前、俺らが嫌いか?」

 シャラ様の声。どんな顔をしてるのか見えないけど、どうやら、助け舟を出してくれたみたい。

 でも、なんて質問。

 「嫌いなはずないじゃないですか!」

 「良し!では、好きか?」

 「っ!」

 即答したら、畳み掛けてきた。

 好き?

 好きに決まってるじゃないか。

 じゃなきゃなんで、ここまで悩むの。離れがたくて、離れなくちゃいけないと思って、でも、側にいたくて!

 離れたのに、追って来てくれて、それにこんなに喜んでいる自分がいる。なんて、浅ましい。

 雲の上の人が、こんな地上まで降りてきてくれた事が、こんなに嬉しい。

 「言え。好きか?」

 ぎゅっときつく抱きしめられて、囁かれる。オウラン。オウラン。オウラン。

 「……すきだよおお……」

 う。うえええええんんん。

 好きだよ。大好きだよ。

 泣いてすごい顔なはずの私を、躊躇せず抱きしめ続けてくれる、あんたが好き。

 あんたが大好き。

 

 

 解放されるまで、少々時間がかかった。オウランが離してくれなかったから。

 で、でででも。

 解放されたのに、この、足元から忍び寄る寒気は何。

 冷気が静々と漂ってくるのだ。

 主に、セイラン様から。

 こ、怖い。

 「…さて。認識の違いを教えてあげようね、チヒロ。たっぷりと時間をかけて、オシエテアゲルヨ」


 いえ、結構ですって言えたら、どどど、どんなに楽か…!


 「さて、チヒロの言い分をおさらいしてみようか。チヒロは、君の身の内の甘露に我らが惑わされていると、そう、思ったのだね?」

 優しげなお顔で、実際口調は優しいんだけど、何故に、こんなにも威圧感がただ漏れなのでしょうか…。でも質問には答えねば。と、頷いたら、右の眉がぴくんと動いた。微笑が深まる。

 で、でで、でも、眼が!笑っていないヨオナ…。

 「そう…。巫女の甘露は体液だというのは知っているね?汗も涙も、血液も唾液も全てがそうだ。でもね、チヒロ。君を抱きしめている内にそんなものはどうでもよくなってしまうのだよ。君の中にうち込みたい、君を翻弄したい。君とどこまでも遠いところへ逝きたい。君を遠くへ連れていきたい。と願うのみになってしまう」

 な。

 ぼふん!と真っ赤になった私。

 「分かるだろうか、最早君の中の甘露など、ただのエッセンスに過ぎないんだ。それよりも、君を抱きしめて、君を翻弄して、君をうんと気持ちよくさせてあげたくなる。感極まって震えるチヒロはとてもとても、愛らしいんだ。その姿を眼にしただけで、十分充足感が味わえる。満ち足りる事が出来るんだ。甘露ならば、体液を啜らねばなるまい?だが、君を喜ばせる時以外、私が君の体液を欲したことがあったかな?肉を食いちぎった事もないんだよ」


 なんか、すごい事をさらっと、あっさり、言われたようなキガシマス。


 なんか、こう…。

 ぶわっと土下座して!

 ごめんなさい!ごめんなさい!ごめんなさい!と謝ってしまいたくなるのは、私の気のせいじゃ、ないよね…。


 「あー…。セイラン殿。少し考えて発言してくれ。チヒロが可哀想だ…ついでに俺も居たたまれなくなる」

 疲れたように助け舟二号を出してくれたシャラ様。アリガトウゴザイマス。

 でも。

 敵はまだいた。

 「私だってそうです。あなたを喜ばせる為以外に、あなたの蜜を啜った事はありませんよ。全て、チヒロが心地よく、その身を明け渡す気になって欲しいから、嬲るのです。けして、あなたの蜜を求めての行動ではありません。甘露を得る為だけにあなたを抱いているのなら、今頃あなた、骨すら在りませんよ?」

 顔色変えないで言い切った、リシャール様。


 合掌して、礼拝したくなる。

 ・・・女神様、ごめんなさいいいい!


 「分かるか、チヒロ。今までお前が無事に居ることが、我らが甘露のみを求めているわけではない、証拠だ。実際、血肉を啜られて、崩御した巫女姫も過去にいた位だからな。まあ、それを思えば、お前が不安になるのも分かるが…」

 オウランが真顔で呟いた。

 え。と思った。

 血肉を啜られて、崩御?それって、死んだってことよね?

 ちくり。と胸の奥が痛んだ。……イイナ。ウラヤマシイナ。血も肉も意識さえ全て、あなたと、ひとつに、なれ・た・ら……。

 シアワセ。


 「チヒロ?」

 オウランの声に我に返る。ああ、まただ。意識が白くなるんだ。おかしいの。不安に瞳が揺れてしまうの。

 それでも口を開こうとしたら、セイラン様が爆弾を落とした。

 「理解できたかな?もし、それでもダメだと言うのなら、方法を変えようね?一晩愛し合っても分かってもらえなかったんだから、今度は、三日三晩、愛し合おうか?」

 にっこり微笑んでさらっと口にした内容は。とんでもなかった。



 ひぃ……。

 三日。三日って…しかも三晩って!

 しゃ、シャラ様。たすけて!

 あ、アレクシス様。たすけてええええええっ!

 必死でアイコンタクトをとっていたら、やれやれと言いたそうな顔の、ふたり…シャラ様とアレクシス様が助け舟三号を出してくれた。

 「それには及ばんよ。なあ?分かったよな、チヒロ」

 「それには及ぶまいよ。チヒロも分かっただろう?」

 その言葉にがくがくがくと頷いた。

 魂に刻んじゃったよ。

 怒ったセイラン様は怖いって。

 リシャール様を怒らせるといけないって。

 オウランは怒ると手が付けられないし。アレクシス様とシャラ様は心強い味方だけど!

 …そんでもって、やっぱり私は彼らから離れられないんだって。

 理解、した。

 

 「あ、お茶が冷めちゃいました。淹れなおしてきます」

 ポットを手に歩こうとした時、神殿の方へ誰かが急いで駆け上がってくるのが見えた。

 なんだか、すごく慌てている。

 誰かな?っと首を傾げていたら、いつかの、刻印奴隷のおじさんだった。

 「おおい、君!神官さんはいるかい?」

 「はい。いらっしゃいます。慌てて、どうなさったんですか?」

 「お城からの御触れで、刻印奴隷が解放される事になったそうなんだ!それで、君にも知らせてあげようと思って…」

 おじさんは、紙切れを手に話し続ける。

 「見てくれ!ここに、長い抑制と弾圧の時代は過ぎ去ったとある。各地の、人狩りや人攫いの被害者の名誉を回復する、と。刻印は人を縛るものに在らず。刻印が成されていても、それがその者を縛る理由にはならないと!」

 おじさんの顔は晴れやかで、明るいものだった。

 「嘘みたいだ。ずっと家畜のように扱われていたのに、俺の子供は明日から学校へ行くんだよ。信じられるかい?ああ、でも、心配なんだ。だから神殿へお願いをしに来たんだよ。ここの孤児院の子供達と最近仲良しだからさ、学校で虐められないように、見ていて欲しくて…」

 「よかったですね。私も一緒に子供達にお願いしましょうか」

 「そうしてくれるかい?あの子達は、君の言う事は聞いてくれるから、そうしてくれるとありがたい。…ああ、でも、太陽と月の巫女姫様の犠牲のおかげだと思えば、複雑だよ。尊い巫女姫様に刻印が成されたから、奴隷制度が廃止になったと言うし…痛かったはずなんだ。あんな思いは女の子にはさせたくないよ。いや、女の子だけじゃなく、もうあんな思いをする人が居なくなるといい」

 「…痛いのは嫌ですもんね」

 「そうだね…」

 顔をつき合わせてしみじみと話す。

 でも、晴れやかなその顔が嬉しかった。自分の受けた刻印が無駄じゃない気がするのだ。

 あの痛みも、苦しみも、こうして報われる事があるのなら。

 それは、無駄な事ではなかったのかもしれない。

 風に吹かれるまま、穏やかに笑っていたら、いつの間にか、おじさんの目が私の髪の毛に釘付けになっていた。

 「…え、あれ?え、ええ?えええー!!」

 「あー…。ええと、まあ、そう言う事で」

 

 そう言う事なのです。

 

セイラン様。いや、もうなんも言うまい。

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