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第七話:過去から今へ

・・・ああ、あつい。

ああ、いたい。

ああ、かなしい。

ああ、うれしい。

ああ、・・・いとしい。


私を苛む熱い枷。

私を壊す熱い杭。

私を蕩かす熱い舌。

私を暴く繊細な指。

私を壊す、いとしいひと。


かなしい、かなしい、かなしい、かなしい。

うれしい、うれしい、うれしい。

もっと、もっと、わたしを欲して。

もっともっと私を欲しがって。

壊して。

暴いて。

わたしが、あなたたちから離れられないように、あなたたちも私から離れていかないで。



ワタシヲ、ヒトリニ、シナイデ。



・・・声が出なかった。

夢だけど、夢じゃない。

濃厚な交わりを夢とはいえ見せ付けられて、胸がざわざわする。

天蓋の布がふわりと動く。精神の高ぶりに風の精霊がざわめいているのがわかる。

じんじんと疼いて仕方が無い。

「あれは、きっと・・・」

前の姫巫女。黒髪を妖艶な肢体に絡ませていた。

そして、恍惚とした顔のまま、彼女の喉に、腕に、足に歯を立てて・・・噛み千切り、あふれる赤い体液を啜っていた男達。

「あれって、吸血鬼のほうがまだマシな気がする・・・。吸血鬼って喉にだけ牙たてるもん。でも、あの姫巫女さま、もしかしなくても、食べられそうな勢いだったなあ・・・」


・・・しかも。

それを喜んでいた。


ひとつになれる、と。

ひとりじゃない、と。


ああ、やっと、わたくしは、このせかいになれる、と。


「・・・こわい、よ。」


いつか、私もそんな気持ちになってしまうのかもしれない。

帰れない現実に疲れて、誰かの腕を取ってしまうかもしれない。

それとも、帰らなくていいと思える人に出会うのか?

そして、食べられてもいいと思えるほどの誰かに出会って、ひとつになってしまいたいと思ってしまう時が、いつか。

 体が震えた。

 

「うう。夢に流されすぎだよ。」

気を取り直すと、ベッドから降りて顔を洗おうと隣室の洗面所に行って・・・侍女サン方に捕まりました(涙)

今日はやれシェンラン風の髪飾りがどうの、紅はトウキザワ産のだ、帯がどーだこーだと、アソバレマシタ。ええ、仕事なんでしょうが気分的に。

 うなだれながらされるがままにしていると(だって選べって言われても知るか!)満足げな顔をした侍女サンが、ほうっとため息をついて、うっとりと私を見つめていった。

「ああ、やはり美しい御髪ですわ。わたくし、姫巫女様の御髪を結える日が来るとは思ってもみませんでした。それも文献上にも無い、完璧な太陽と月の巫女さまの、です。わたくしはなんてしあわせなんでしょう・・・。」

その言葉に次々にほかの侍女サンが同意を示す。

「えと、黒い太陽の巫女さまは何人かこちらに現われたんですよね?太陽と月の巫女も何人かいたんじゃないの?」

私の問いに、侍女サンたちは話し始めた。


「風の国の保護を受けた黒い太陽の巫女様は、46年前のお一人のみです。ほかの国にも姫巫女様はいらっしゃったことがありますが、いずれもその時代におひとりのみですね。」

「すでに100年は前の話になります。巫女様は五王国のひとつの国を選びそこに現われ、五王国のひとつの国を選ばれそこにお住まいになります。」

「巫女様のお住まいになる国はほかの国より敬意をうけ、姫巫女様はその国の王と婚姻を結ぶのが、習いで・・・」

ごおっと風がなった。

侍女サンたちの悲鳴が耳をつくけどかまっていられなかった。

結ってもらった髪が風にあおられ、うねる。

コンインって婚姻よね。それって。

「け・・・・けっこんんんんんっ!!!」



ああ、オヤクソク。


ちなみに、着飾った後は、その五王国の公子様方とお食事なんだそうな。

 それっていわゆる「品定め」ってやつですか。

 だって私が着飾ったところで、「あの」きらきらした人たちと何を話せと・・・?

 しかも、あんな夢見た後にデスカ・・・?



 なんかいろいろ考えなくちゃいけないはずなのに、畳み掛けるようにしてなし崩しに結婚させようって事なのか?どうも、姫巫女はどこの国も欲しい存在らしいし。

 他国への牽制のための政略結婚なんてごめんだわ。

 姫巫女なんて、帰る手段を身に着けるまでの仮のすがたよ。

 だって次の皆既日食には地球に帰るんだから!日本以外の国で数年後には皆既日食があるはずだもん。地球のどこかの国に出れさえすれば、後は日本へ帰るだけ。なんとかなる!


 ゆらゆら揺れていたろうそくの火が、風にあおられたのか、ひときわ大きく炎を揺らし・・・ばちっと音を立てて宙に舞った。

「きゃっ」

「巫女様、気をお静めください。火の精霊が姫様の気に煽られております!」


「・・・え。」


「巫女様」

「気をお静めください!」


侍女サンたちの悲鳴に、我に返り、周りで踊っているような炎たちに意識を集中する。

くるくると、楽しそう。でも・・・。


「やけどしちゃうと危ないから、もどってくれる?」


するとかあっと熱くなった。


「うん。私を焼いたりしないの知ってるわ。でも、ここには、私以外の人がたくさんいるでしょう?その人たちを怖がらせないで。火はやさしいの、そうでしょう?」


 キャンプの時の炎の暖かさが大好きなのよ。


すると赤く青く点滅しながら楽しそうにろうそくに戻っていく。炎たち。


思わずうれしくなってにっこり微笑んで。

「ありがとう」

といったら、(どういたしまして!)と陽気な声が頭に響いた。


火の精霊は、やんちゃないたずら坊主みたいだ。


 


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