第六話:過去話
・・・諍いがあった。
始まりはほんの些細な行き違い。
やがて其れは国同士の諍いを引き起こす。
人が人を呪い、国が国を呪い、些細な行き違いは少しづつ、少しづつ大きくなっていった。
山野に火が放たれ、川に毒が注がれ、動物たちは逃げ惑い、地に臥した。
人もまた、己の成した事の大きさに恐れ、嘆き、地に伏し祈った。
しかし、諍いは治まらない。
国同士の諍いは、加速度をまし、破滅へ進んでいた。
そのとき。
ひとりの娘が黒い太陽の導きによりこの世界へ降り立った。
夜の髪を持つ黒い瞳の娘は、風の国の王とともに世界の安定を図った。
諍いに疲れた、水の国がまず剣を降ろした。
戦いに明け暮れていた火の国の王が凪の風に呑まれ、勢いを鎮めた。
火の国の勢いに押されていた木の国が、ようやくの青空に一息をつき。
地に沈み、情勢を見ていた土の国がかたく覆った岩を動かした。
ここに、五王国を巻き込んでの戦が終結する。
・・・娘は。
宵闇のつややかな長い髪を持ち、黒く輝く美しい瞳を持った、うつくしい娘だった。
人の諍いに嘆きを極めた精霊たちの声が、娘を呼んだのか、彼女には強い精霊の力が備わっていた。
火も、風も、木や、水や、土までもが彼女の為に動いた。
そして、人も。
彼女の存在無くては、戦の終結は無かっただろう。
・・・やがて、五王国の公子たちが、そろって彼女に求婚する。
娘をめぐり、また諍いが繰り返されるかと思われたが、五王国のそれぞれの公子は、娘の嘆く姿にそれぞれ剣を収めることとなる。
・・・彼女が愛した人が誰なのかは、今はもうわからない。彼女は、誰の手も取らず、誰の元にも行かず、一番の加護があった風の神殿に身を寄せることとなる。
五王国の公子は、それぞれの有する力が一番強い月に風の神殿に赴き、黒い太陽の姫巫女と呼ばれるようになった娘を守った。
・・・やがて、彼らは知る。
彼女の祝福は、この世界の隅々まで行き渡っているが、なかでも彼女自身にかけられた祝福はこの世のものとも思えぬほどの甘美であると。
すなわち、涙。
すなわち、唾液。
すなわち、血液。
・・・そして、体液に至るまで。