第五話:衝撃!
「まずは、料理を作ってくださった方に感謝を。」
「チヒロさま。やはりおくちにはあわなかったようですね・・・」
・・・やはり、ですかー。
「だだ漏れ」
「すいません。・・・えーと、やはりって事は、前の巫女さまも?」
「衰弱した体に一番の食材である、トカの実を、それはもうすごい勢いで拒否なさったそうです。」
「・・・トカの実って?ここにあります?」
ずらり並ぶ美味しそうな(見た目と香りのみで、もろ劇薬)料理の数々を指し示すと、カーシャは一皿を持ち上げて示した。
「・・・こちらの、見たことのないソースがかかっておりますが、これですわ。」
見た目ソーセージはなんかの実だったのですか・・・。っていうか、獣臭しかしないし、最早、獣味の木の実っていったい・・・。どんな栄養素を取ったらこんな味の木の実ができるのさ。光合成してるのか?それとも食虫植物みたいに獣を取り込んで、と・・・とかしちゃってたり・・・。
「・・・ううう。すいませーん。私でも無理です。栄養価が高いって言われても、ちょっと無理でしょう。醤油かけて胡椒で味を調えてやっとのどをとおるくらいなんだもの。しかも見た目と味の落差がすごいです。たとえばこれなんて・・・私の世界ではパン、ブレッドとも言いますが、主に主食として食べる穀物を使った物にそっくりです。(まさか斧で勝ち割らなきゃいけない物にはみえませんよ)味もぜんぜん違います。」
「チヒロさまのおられた世界はいろいろな食べ物があるのですね」
カーシャの不思議そうな瞳に、私はようやく気がついた。
「・・・前の巫女さまは、食の改善はなさらなかったのですか?塩や砂糖ぐらいはここでも手に入るでしょう?」
「・・・前の巫女さまの導き人は、男性で、戦士でした。46年前は今ほどこの世界は平和ではなかったのです。食べ物よりもまず生きることを強要されて、ようやく落ち着いたころには、黒い太陽の巫女姫としての責務がおありで。晩年はもう一度、ちょこれと、と、かるめる、が食べたいと仰っていたそうです。・・・わたしは、巫女様がお亡くなりになられた年に風の長を継いだので、実際にはお話をしたことがないのです。遠くから、お姿を拝見するのみで、そんなご苦労をされていたことを知ったのも、この風の神殿へ上ってからのことでした。」
「ちょこれとは、チョコレート。かるめる、はキャラメルかな・・・?どちらも甘くて美味しいお菓子ですよ。でもそれに近い物もないってことですね・・・?晩年の言葉で残ってるくらいなんだから。ま、まさか、砂糖も、ない?塩は?・・・お菓子ってないんですか?甘くて幸せになれる午後のひと時!」
生山葵の青唐辛子ソースがけより衝撃の事実。
私の落ちたこの世界には、スイーツの類がないらしい・・・。
「甘いもの・ですか?え、ええと、その・・・」
なぜか歯切れの悪いカーシャに、私は畳み掛けた。
「あるんですか!」
「あの、この世界には、『甘露』と呼ばれるものがあります。『甘露』とは、その、巫女姫様の体液を指します。それはそれは、甘く一度口にすると忘れられないほどの美味だそうで、巫女姫様の信頼する一部の者しか受け取ることのできない、至上にして至高の稀なる雫であると・・・。
「・・・ちょっとまった。巫女姫様?って私のことでしたっけ・・・」
「はい」
ぐおううおおおおん
風が、突風となってあたりを吹きまわり、黒髪が竜のようにうねった。
世界は、世界は、何を思って私をここへ叩き込んだのさ!
私がスイーツってなんなのさ!