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第四十八話:前夜祭

 戴冠式は、盛大なものになりそうだった。だって、前夜祭でこの人だもん。

 萎えそうな気力を振り絞って、その場に立ち続ける。

 優雅な挨拶。・・・指先まで神経通して。

 優美な物腰。・・・肩を流れる髪の先にも神経を。

 淑女の微笑。・・・軽く小首を傾けた斜め顔がベスト。

 後から後から後から・・・もう。

 だらだらと長い衣装の裾が幸いして、大股開きで大地を踏みしめていても、誰も気付かない。

 でも、侮られた態度を見せられて、目を逸らせるほど大人じゃない。

 あからさまに値踏みする目つき。悪かったね、お子ちゃまで!胸を凝視するな!失礼な奴、失礼な奴、失礼な奴!・・・くそう。上から下までじっくりと視線でたどられたよ!

 嫌味もこめて、じっと目を見たまま、にっこり笑ってやったら、真っ赤になって、慌てて目を逸らしたけどね!ふんっだ。

 それから、もっと腹が立ったのは、上から目線で、孔雀のような女達。

 どうも、五王国の王が揃って出席する事を伝え聞いた各国の美女達が、挙って根の国に来ているらしい。

 したがって、戴冠式の出席率もうなぎのぼり。

 今日この場にいない、「自称」美女はいないんじゃないかなー。

 五王国の王様がみんな揃って独身だからなー・・・(遠い目)。

 女達の目が怖い。みんなの目が、あんたなんかー!ッて言っている。

 「これは、可愛らしい巫女姫ですこと(あんたなんかに我が君が本当に絆されるとでも?)」

 「巫女姫様には、是非わが国にお越しいただきたいですわ(でも、我が君は渡さないわよ!)」

 「巫女姫様は、何処の国を選ばれたのです?(ぽっと出の小娘ごときが・・・!)」

 「巫女姫さま?(あんたみたいな小娘、王が本気で相手にするものですか・・・!)」

 じーっと彼女達を見遣って、ほうっとため息をついた。

 ああ・・・。

 「平和ですね・・・」

 「「「「?」」」」

 「自国他国の王様の目にとまろうと努力なさって、挙句私のような、小娘にまで牽制をかけるなんて、素晴らしい努力です。ですが、私は別に王様達と結婚しようなんて、考えておりませんので、私に対する牽制は必要ありません。どうぞ、お目当ての王様に色目をバシバシ使ってください。あ、後そんな闇の波動に身を任せていると、闇に堕ちてしまいますよ。女性は、明るく前向きに!だって、美人は、国の宝ですもの!美人って目の保養ですものね!豊満な体の、きれいな人を前にすると、男の人は俄然頑張ってくれるので国も潤います。あ、後、ご存知ですか?シャザクスの温泉!一度体験なさってください。珠のお肌がさらに輝く事間違いなし!そこでしか手に入らない、湯の花ってのも、身体に良くて・・・」

 温泉効果を力説していたら、美女が一人減り、二人減り・・・そしていなくなったよ。あれー?

 ???を増産している私を遠巻きに見ていた各国貴族達が、私を驚きの目で凝視していた。なに?


 「勘違い美女たちを煙に巻いたぞ」

 「なんとすばらしい、手腕だ」

 「あの機転、機知に富んだ会話、我が王の傍らには、あのようなお方がふさわしいと思わんか?」

 ちょっとまて。なんか、もろもろ突っ込みたいが、一番の突込みどころは・・・。

 「やはり巫女姫様は、我がハクオウ国のセイラン様の奥方にふさわしいお方だと・・・」

 ハビシャムさん!お前だー!

 

 「ああ、チヒロ。ほら、落ち着いて、どうしたんだい?」

 セイラン様にそっと羽交い絞めにされた途端、周りから黄色い声が上った。

 じたばた、しながら、涙目でセイラン様を見上げた。途端に静まる会場。なんなのさ・・・。

 「さ、こちらへ。疲れただろう?飲み物を・・・」

 セイラン様は鷹揚に笑って、導いてくれた。壁際の長椅子に座り、グラスを受け取り、ちびりと(激辛対策)飲む、・・・おお!甘い!飲みやすい!なんで?

 と、くすりと笑い声が。見れば、セイラン様が肩を揺らして笑っている。

 はっとすれば、周りの貴人方も皆、そろって呆然とそれを見ていた。

 「ハクオウでも、ハチミツをね。採取したんだよ。それで作らせた、甘露水だ。今回の戴冠式の祝い品のひとつにしたんだ。参列者の商人との商談もまとまりそうだし、良い輸出品になるだろうね・・・。まあ、私としては、ただチヒロの為に作らせたんだが、思わぬ高価を付けられて戸惑うばかりだよ」

 う。なんか、お顔が・・・ちちち近すぎませんか!セイラン様の、目の端が柔らかく笑んで、そっと耳元で囁かれて、こここ腰が・・・!びくってします!

 「・・・チヒロ・・・」

 耳元で囁かれて、私の唇が震えた。伏せた目の端が赤くなったのが、自分でも判る。頬も、熱い。胸も、腰の当たりも。どこもかしこも急に熱が上った。

 ・・・・・どどどどどどーしたっ!わたし!しっかりしろ!

 はっと気がつけば、長椅子に押し倒されそうな勢いじゃないか!待て。ちょっと待てーッ!

 「セ、セセセセイラン、さま!あにょっ!」

 噛んだ。

 ぷぷぷぷぷ、と笑い声。

 「チヒロは、可愛いね」

 軽く頬に口づけられて、緩く抱きしめられ、それから、雰囲気ががらりと変わった。

 遠巻きに驚愕の眼差しで、セイラン様のオタワムレを見ていた貴人達の肩に入っていた力も抜けたのがわかった。っていうか、緊張するところなのか?

 そうしたら、その後、やけに張り付いてくるオウランを引き剥がすのに苦労し、リシャール様の憂いをこめた眼差しに打ちのめされた気分になり(なぜって、女として負けた気分になるのよ)、気がついたら、五王国の王様ぷらすオマケ一人って感じで、他の貴人の皆様が、みーんな遠巻きにしていた。

 ううう。どうせ、オマケさ!



 前夜祭が終わりに近づいた頃、だんだん近づいてくる精霊の気に少しほっとした。

 それと同時に徐々に瘴気が祓われていく。オタワムレを繰り返しながら、セイラン様やオウラン、リシャール様がそれとなく、王宮に蔓延る瘴気の塊を祓っているのだ。アレクシス様は、シャラ様と共に王宮の外の呪詛と瘴気を少しでも無くそうと精霊を駆って、瘴気を焼きはらっていた。

 「明日までに大半は、焼くことが可能でしょうね」

 その言葉に、ほっとした。

 この国を覆う瘴気を焼きはらって、人心の回復を待てば、きっと根の国は良い国になると思う。

 エルレアが悪い事をするような王様じゃなければ良いな。

 エルレアは、自分が血塗れだって言ったけど、そりゃあ、色ボケでやな奴だけど!

 間違った事をする奴には見えなかった。

 血塗れになったのは、この国のため。無能、無策な前王の、戦好きのためだったとイザハヤも言っていた。エルレアはもうずっと戦の最前線で兵士と共に戦っていたんだと。



 



 

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