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第四十三話:愚か者達の末路

 ちょこっと流血注意。シリアスです

 王城では、セイラン様と他の王様達が待っていた。

 ハビシャムさん連れて帰ってきたのに、セイラン様以外のみんなの顔が苦いものになっていて、ふと、不思議に思った。

 「王よ、此度の不始末、すべて私の不徳の致す所、いかような罰も甘んじて受ける所存でございます」

 「顔を上げろ、ハビシャム。・・・『偽りの巫女姫』を、どう見た?」

 セイラン様なんかいじめっ子スイッチが入ってるね・・・。でもそれにもめげず、ハビシャムさんはがんばってる。黒衣の麗人がひざまずいてるのって、なんかイケナイ感じがする・・・。

 「畏れながら、根の国のエルレア殿の策略かと。彼の貴人は予てより策に乗ってきた者に吹き込んでおりましたから。此度の巫女姫は偽りよ。と・・・」

 「乗せられたお前にきこう。その話、他はどこまで鵜呑みにしている?」

 セイラン様はまっすぐに目を見て言った。返すハビシャムさんも目をそらす事はない。

 「・・・今回の巫女姫には、過去の巫女との相違点がございました。そもそも、召還の次期が違いましょう。彼の巫女姫の神託も広く世間に知られておりましたゆえ、偽者が出てもおかしくはないと、信じ込まされておりました。それは、かく言う私目も、です」

 「・・・お前がチヒロを認めたと知って、心根を変える奴はいるか?」

 「おりますまい」

 「そうか・・・」

 「ハビシャムが戻っただけマシだろう、兄上。後に残る者どもは、それこそ自業自得。いや、自縄自縛か?自分で死期を早めただけ・・・」

 「オウラン、そう言ってやるな。チヒロの願いはわかっているだろう?・・・無用な流血は避けねばなるまい」

 「では、最後まで残る者どもに働きかけましょう。チヒロ・オオツキはまことの巫女姫であったと。これを害するは、国威に在らず。国を滅ぼす愚策なり、と」




 「どういうことだ!」

 怒号が走る。そこここで、男女が口汚く罵り合っていた。

 「ハクオウ国のハビシャム殿が、掌を返し巫女姫の擁護に走ったぞ」

 「根の国のエルレア殿との繋ぎがうまく働かない」

 「どういうことだ。あの小娘がまことの巫女姫だと・・・?」

 「ハクオウ国のハビシャム殿が一枚噛んでいると言うから、手を貸そうと思うたのだぞ。よもやこんな紙切れ一枚で・・・」

 初老の男が紙切れを手に、身を震わせた。

 そこには。

 ハクオウ国ハビシャム・エルレインの署名と共に、こう記されていた。

 『此度の一件、わたくしの不徳の致す所。かの巫女姫におきますれば、まことの巫女姫に相違なく、粛々として我が王の怒りに甘んじる所存。此れより先は、貴殿らも熟考すべき事と・・・』

 「・・・わが身が惜しければ、手を引けということか!」

 男が紙切れをぐしゃりと握りつぶした。

 「できぬ。王が国をあけ、不在の今、この一世一代の好機に何の手も出せず、見ていろというのか・・・!?まことの巫女姫ならば尚の事、命を落とせば、その身を守れなかった愚王として王を糾弾できるではないか!」

 「何を・・・!それでは、一緒にいる、我が君も糾弾されてしまいますわ!わたくしは、あの小娘の命が欲しいだけ。我が君の威光に一片の傷をつけることも許しませぬ!」

 「そもそも、あの娘が国政に首を突っ込まなければ・・・!」


 「・・・だが、それで貴国は潤っているではないか。美味い汁が啜れなかったのは、貴殿の行いのせいで、あの娘のせいではあるまい?」

 唐突に響いた声にその場にいた者どもの背筋が凍りついた。

 声のした方へギクシャクと首を動かす。そこに、根の国、次期国王・エルレア・ロウ・オルデイアが立っていた。

 「エ・・・エルレア殿・・・」

 「・・・醜いな。じつに醜い。己の不甲斐なさを、あの娘に肩代わりさせるのか。そもそも、火の国で不正を働き私腹を肥やしていたのは貴殿だろう?」

 流し見られて、男がぐっと息を呑む。

 「・・・アレクシス殿に勝てなんだは、娘のせいか?カーシャ殿は魅力的だが、靡かぬのも道理。あれも此れも人のせいにする男に、自分の未来を託そうと思う女がいるか?」

 続いて流し見られ、さらに淡々と咎められ、男の顔に朱がはしる。

 「子を即位させる為とはいえ、世にも稀な巫女姫を殺めようとは、利己が過ぎますな。・・・まあ、あんな愚弟が即位すれば水の国を制するのも簡単だと思うておりましたが、ちと、話が変わってまいりましたからな・・・」

 派手な化粧を施した女が、怒りのあまり扇をみしみしと歪ませる。

 「で・・・。オウラン殿が靡かぬのは、娘のせいか?違うな。繋ぎとめておくだけのものを、貴女が持っていなかっただけの事。あの娘のように魂にまで刻み付ける輝きを、貴女が持たなかっただけの事・・・」

 麗人と呼ぶにふさわしい女は、指先が白くなるほど扇を握り締め、エルレアを睨んだ。



 「エ・エルレア殿、われわれはこれからどうすれば・・・!」

 それでも。火の国の男がエルレアに縋る目で訴えたが、エルレアは侮蔑の眼差しで彼らを見遣るだけだった。

 「どうもしませんよ。あなた方の動向はすでに各国王の知るところ・・・。衆目の事実でしかない。ああ、国に帰っても、一層、肩身が狭くなるだけでしょうね」

 「そんな!我々は、あなたがあの娘を偽りの巫女だと言ったから、協力したのに!」

 「そう。よく調べもせず、自分の都合のいいように、妄想を膨らませていったのですよね」

 「・・・よくもそのような・・・!」

 「いい夢を見られたではないですか。我が子が王冠を頂く姿を思い浮かべたのでしょう?王の傍らに寄り添う姿を思い浮かべたのでしょう?黄金の水を一手に引き受ける自分を想像したのでしょう?王冠をかぶり、その手に愛しい女を抱く夢を見たのでしょう?」

 「き、きさま・・・!」

 「よく調べもせず、自分の想像通りに行くはずだと。想像通りになるはずだと。・・・本当に良く踊る人形達でした。あなた方の行動を五王国の王に知らせたのは、わたしです。・・・さすがの知将には逃げられましたが」

 彼らの瞳が驚愕に開かれた。わなわなと震えるからだ。かみ締めすぎた唇はすでに血が滲んでいる。

 あまりの激情に言葉にならない彼らに、エルレアはさらに言葉を畳み掛けた。

 どうします?と。

 「あなた方にお聞きします。このまま、国へ帰り、巫女姫を手に掛けようと謀った者として、後ろ指を指される、そんな汚辱に満ちた余生を過ごしますか?・・・それとも、このまま、根の国にとどまり、私の手駒として私の力になってくれますか?」

 彼らの顔に逡巡の色が浮かぶ。咄嗟に周りの人間の顔色を伺う者、深く考えに沈む者、いらいらと身体を揺らす者・・・そして。

 彼らは頷き、エルレアに膝を屈した。彼らは、エルレアに負けたのだ。

 エルレアの口元が優雅に弧を描いた。

 刹那。

 かわされるまなざしは、驚愕に引きつり、恐れの色を刷いた・・・亡者のもの。

 瞬殺の煌きは、赤い血飛沫をともなって、遅れて耳に届く鞘走りの音。息呑む声。

 重たいものが倒れこむ鈍い音があたりに響き、静まった。

 エルレアは、背後のモノと化した者達の遺骸には見向きもせずに、呟いた。

 「これより後は、根の国の地に在って、呪詛せよ。怒れよ。・・・そして呪うがいい。国を人を、我を。そしてその力を我に与えよ。お前達の代わりに俺が、この地に立ってやろう」

 

 

  

 

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