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第四十一話:説得・2

 ハクオウ国宰相・ハビシャム・エルレインは考えていた。

 ずっと彼の国を、王を、民を、考えていた。

 国が取るべき最善の道。

 王が示すべき最良の道。

 民が応える最大の恩。

 ずっと彼は最善を、最良を、考えていたのだ。

 


 それは、降って沸いた噂。・・・失われた巫女が光臨する。ありえない話だったそれに、何故か、我が王は赴いた。

 帰還した時はその腕に小さな娘を抱きしめて。

 我が王の変化は少しずつ現れて、しかしそれを認めたくは無かった。

 威厳溢れる王の中の王。

 我が王は、史実にも稀な人格者。

 我が王は、崇高でなければいけないのに、あの小娘に向ける眼差しは柔らかい。

 我が王は、偉大であらねばならないのに、あの小娘の言動に顔色を変える始末。

 我が王が望む者、それがこの小娘。ならば、致し方ないと思うたのに、手の中から解放した王。

 王よ、王。

 貴方の望みに応えぬ者が巫女姫であるはずがない。


 「あれは、理想が高すぎるのです」

 セイラン様はそう言って、さわやかーな感じで笑った。だから、そのハビシャムさんて話せば判る人なんだと感じた。

 偽りの巫女姫?どんとこいだわ。それこそ望むところよ。

 だって最初から、巫女姫だなんて言ってないもの。みんなが勝手に巫女姫呼ばわりして、あっちこっち連れまわされただけ。そりゃあ、みどりちゃんやだいちゃん、キュウちゃんにふうちゃん、りゅうちゃん見てると最近、ちょっと・・・ちょおっとだけ違うのかなって思わなくもないけど。

 一般庶民舐めんなよ!

 「貴族が何ぼのもんじゃーい!」

 こぶしを突き上げて叫ぶ私をかわいそうな者を見る目で見ないでちょうだい。特にオウラン。なんか、すごく悔しくなるのよ。

 さて、説得するに当たって、ハビシャムさんのお人柄をリサーチしてみた。

 曰く。

 石頭。頑固者。融通がきかない。不正が嫌い。王様第一。王国大事。滅私奉公。四角四面・・・。

 みんなの口から出るのは、そんな言葉ばかり。

 「なるほど、昭和一桁のおじいちゃんですね!頑固でお国の為なら!って信念の人!」

 うんうん。国を憂うお髭もじゃもじゃのご老体を想像した。

 セイラン様とオウランが「おじいちゃん・・・」と呟いて絶句していたけど、私の思考に引っかかる事はなかった。・・・今思うと引っ掛けておくべきだった。

 ともあれ、頑固もんには誠心誠意、話して理解してもらうしかない、と思った。

 「誠心誠意、まごころ込めて・・・。やっぱり、手土産はお菓子よねーv」

 腕まくりしつつ、厨房に向かう私を見つめる目は、いつものように、温かかった。

 「いいのか、セイラン殿。チヒロは何というか、・・・大いなる誤解をしているぞ」

 後を追おうとするシャラが振り返り・・・結局チヒロを追って駆け出した。後に残るは四人。

 「何を考えているんだ?」

 最近とみにチヒロに過保護なアレクシスが嫌そうに尋ねると、口の端でセイランが笑った。

 「私が、チヒロを迎えるに当たって、一番の難関がハビシャムで、一番の理解者となるのもハビシャムだからね。チヒロには、自分のこれからの為に大いに働いてもらおうと・・・おや」

 しゃん!と剣が凪いだ。あっさりと防いだセイランは顔色を変えもせず、淡々とした仕草で剣を鞘に収めた。

 「物騒だね。アレクシス殿。リシャール殿。それから・・・オウラン」

 「兄上・・・」

 「では、聞こう。チヒロの夫にふさわしい者は?わたしは随分前から求婚しているのだよ?言葉に出来ない者に否やと言われる筋合いはない。言葉を告げられぬ者もまた同じ。ましてや、子供のけんかを繰り返す者が姫を手に出来るとでも?」

 セイランがゆっくりとそれぞれの顔を見た。

 「私は、姫の後見として意見するのみ。姫が望めば、風の国の王として、否やはないよ」

 アレクシスがそう言うと、リシャールがアレクシスを見た。

 「アレクシス殿?」

 「・・・私は、チヒロの憩いでありたい。チヒロを奪うのは貴殿らだ。ならば、ひとりくらい、守ると誓う王がいてもよかろう?」

 「・・・僕は、諦めない。どの国も抑えて見せる。チヒロを迎えるのは、コクロウだ」

 「では、私も宣言いたしましょう。姫を、抱くのはシェルグランのリシャールです」

 「ふ、そう簡単にチヒロが靡くかな?」

 男達の会話は続く。本人不在のままそんな会話をされていたなど知らぬチヒロは、厨房で悪戦苦闘していた・・・。


 そして、チヒロはイザハヤと共に、大きな門の前にいた。

 「ひめ?その、なんと申しましょうか・・・。馬鹿正直に正門から入ろうとなされなくとも、火の国の王宮に彼奴を召されればよろしいのでは・・・?」

 そうしつこく食い下がるイザハヤに何度目かの答えを返す。

 「だめだってば!王様の威光を笠に着てるって思われちゃうでしょー。大体私もそんな居丈高な奴だったら会いたくないって思うもん。ここは、話を聞いてもらう為なんだから、こっちから向かわなくっちゃ!それに、ご老体にそんな失礼な事言えないし、出来ないわ!」

 そんな風に言い争っていると、件の屋敷から人が出てきた。

 細部まで手の込んだ衣装を着ている、若い男だった。わき目もふらず真っ直ぐ歩いてきて・・・。

 「当方の正門で何時まで騒いでいるおつもりか?」

 冷たい侮蔑の眼差しで切って捨てられました。怖いよう。

 


 

 


 

 


 

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