第四十話:説得
・・・まあ、戦える力がある、イコール、即戦力なんて考えちゃいなかったけど、私にだって意思がある、みんなの役に立ちたいって気持ちはわかってもらえた。
懇々と説かれる。
戦える力を内包しているのは喜ばしい。けれど、率先してそれを他者に示す必要はない。むしろ、切り札・・・守り手が来るまでの時間稼ぎ、として有効だと言われた。
「姫はむしろ非力である、儚い娘であると思わせた方がより良いでしょう?」
「そう、そのほうが御しやすいと思われ、侮られ、結果、隙を見出すことになる」
「誰も、お前を危険な目に合わせたくないんだ。たとえ、切り抜けられるって判っていても。俺は、お前を守るって決めたんだから」
「わかってほしい」
「チヒロ?」
・・・そう言われて、私は頷いた。わがまま通して本当に怪我したら皆に怒られるだけじゃすまない気がした。それに、やっぱりうれしい。
「判ってくれてありがとう。私、大人しく守られてるね、皆の足を引っ張らないよう気をつけるから・・・よろしくね?」
お茶の準備がされて、みんなそれぞれ、優雅に茶器を傾けていた。
真似できない、優美さ。端々に滲む繊細さは貴族階級の持つ洗練された仕草で、見るたび溜息が出る。リシャール様の指の繊細な事といったら!
比べると悲しくなる自分の指に目を落とし、気になる事を口にした。
「あの・・・。謀反を起こそうとしている方たちの目星は付いているんですよね?どんな方たちですか?」
「俗物ですね」
リシャール様・・・!そんなあっさり・・・!
「継母が産んだ弟なのですが、これが血統ばかり鼻に掛けた嫌な男で。血の繋がりを恥じ入るばかりです。知や体に他を寄せ付けない物があれば、まだ話もわかるのですが・・・」
リシャール様、言外にありありと無能、と言い切ってますね・・・。
「他者の威光に依存する、取るに足りない者たちです」
「俺のところは、没落しかかって慌てている公爵だな。まあ、腕のいい経理担当を引き抜いてからこっち、傾いていった、金に依存しまくりの、嫌な野郎だ」
なんか、ばっさり切られてますよ!
「・・・あの〜・・・。話せば判る方なんてのは・・・」
「いないな」
「いませんね」
うう、諦めるもんかい!アレクシス様を見ると、微笑んでくれた。おお!
「私の従兄弟は、もう当の昔に見限ってます」
めげずにオウランを見れば、苦い顔でこっちを見てる。う、なんか、お小言が始まりそうだ。
「チヒロ・・・まさかと思うが、ここまでされても、そいつらの、命乞いか・・・?」
するどい!
目をうろうろさせると、これ見よがしに溜息つかれた・・・。
「・・・だって!わたしのことを知らないから物騒な考えになるんじゃないかなって」
「はなして聞いてくれる奴らなら、そもそもこんな手は取るまいよ」
うう〜、そりゃそうだけどさ!
「でも、話してみたら、判ってくれるかも・・・」
「「「「「甘い」」」」」
五重奏。へこんだ。
と、ふふっと笑い声がして。
「まあ、そこがチヒロがチヒロたる所でしょう。どうですか、私のところのは一筋縄じゃいかない曲者ですが、対決してみますか?」
セイラン様?それって・・・。
「どうせそこらに拠点を構えているはずです。イザハヤが探してくればすぐにわかるはず」
わあっと、歓声を上げたら、何を考えているのです!と声が上った。
見れば、セイラン様に詰め寄っているリシャール様。
「セイラン殿、どう云うおつもりか?貴方の言う相手はかの知将・ハビシャムでしょう。懐刀に反乱を起こされそうになって、気でもふれましたか?」
「落ち着くのは貴殿だ。リシャール殿。・・・私がこんな事を云うのもハビシャムだからだ。あれは本当に国の為にしか動かない奴だからな。大方、チヒロの・・・『巫女姫』の信憑性を疑っているのだろう。エルレアに、本物には程遠い娘だった、とでも吹き込まれたんじゃないか。あれは融通が利かないから」
なんですと!
「はい、はい!私が巫女姫じゃないってのには大いに賛成します!ってか、その人と話したい!絶対、話合うわ、わたしたち!」
挙手のままそう宣言したら、王様がみんな、ため息つきました。ああ、でもそんなの別に今に始まった事じゃないから、無視の方向でお願いします。
それより・・・。
「イザハヤ!お願い、そのハビシャムさん探し出して!」
ここに来て始めて私を理解してくれそうな人、発見!
敵の中に理解者認めてどうすんのさ・・・とは、オウランの弁。