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第三十八話:企む者たちの事情

 守る者、守られる者の構図が見える。

 追う者、追われる者の縮図も。

 はたして、我が王が求める者が我が王の傍らにふさわしい者なのか?

 男は思考をかさねる。

 「・・・我が王の傍らに愚鈍な者は必要ない。庇護されるだけの力なき者もまたしかり。ましてや、偽りの姫など、もってのほか」


 女は、しなやかな指で愛しい子の髪を撫でた。

 「此度の姫巫女は、偽りの巫女。かような娘に心奪われたる王には、ことほどあきれ果てました。やはり、この水の国を統べるは貴方のような聡明な御子でなければ・・・」

 「母上、しかし誠、太陽と月の巫女ならば、如何なさるのか。殺すにはおしいと・・・」

 「おだまりなさい。・・・貴方は何も心配する事はないのよ。すべてこの母が、良いようにしてあげる。そう、偽りの巫女に心奪われては一大事。貴方は決して出てはなりませぬ。・・・そして万が一失敗したならば。これはすべて母がした事と、母を捨てなさい。よろしいか?」

 「母上・・・」

 女は微笑む。我が子の威風を思い描いて。

 叶うはずもない、それを信じて。



 男は憤っていた。

 与えられて然るべき富。賞賛されて然るべき功績。羨望の眼差しは当然の事実。

 ・・・なのに。

 上を行く者がいた。

 当たり前のようにそれを享受するそいつが、男は嫌いだった。

 好いた女もそいつのものとなった。・・・だが、彼女が幸せならば、そいつが、いつか幸せにしてくれるならば良い、とすら思えた。・・・のに。

 男は彼女のために、邪魔者を消そうと腹をくくった。

 男は報われない思いの捌け口を小さな少女に向けたという事実から目をそらす。

 それがけして彼女のためになるはずがないのに。



 男は静かにことを見つめていた。

 ことごとく裏目に出た謀に、些か疲れていた。

 細かい事に無頓着で、しかし暗愚ではない主君は、国を立て直そうと必死になっていた。そこへ降って湧いた巫女姫の登場に彼は悉く後手にまわってしまう。

 気がつけば、不要と割り切って売り払った鉱山が一転、宝の山だった事に気づかされる始末。今回の施設の建設にも割り込むことが出来ず、彼は富を手にする事が出来ずにいた。しかも・・・。不正を暴かれ、修正しても王から与えられる眼差しの種類は、疑惑、侮蔑。

 最近では、王宮からの召還もない。完全に第一線から退けられた形で、周りにいた者どもからも軽く扱われ・・・はらわたが煮え返る思いを味わわされた。

 「それもこれも、あの小娘のせいだ・・・」



 女は憤りを隠せずにいた。

 我が王は、聡明であられる。国のために身を粉にして働き、国を民を思って行動する。

 国のために非情になり、国のために自分を殺す。

 彼の隣にいるのが当たり前になり、彼の隣が自分の場所と・・・思っていた。

 彼にふさわしい自分になるために。

 ありとあらゆることを学び、ありとあらゆることを身に着けた。

 彼の隣が自分の場所。

 「あんな小娘が、あの方の隣に立つなど、許せるはずがない。なぜなら、あの女は、偽りの巫女姫なのだから・・・」






 その、渦中の女であり、小娘であるチヒロは。

 目にも留まらぬ斬撃に耐えていた。

 いや、剣撃を受けているのではなく、よけ続ける。

 いわゆる、剣道における、見切り、である。

 剣筋を見極め、右に左に、わずかな足裁きで体をかわし、渾身の一撃をよける。

 それは、各王たちの度肝を抜くものだった。

 練習用の刀の刃はつぶされているが、一撃でも受ければ骨が断たれるのは明白な程の、剣撃。それをかわし続け、よけ続け・・・相手の息が上った頃、チヒロの刀が走った。

 狙い違わず相手の親指の付け根に入る。・・・と、男は剣を取り落とした。

 「・・・お見事!」

 男・・・火の国の警備隊隊長は、自分が取り落とした剣を拾い上げると、膝を突き、戸惑った眼差しで目の前の娘を見た。

 長い黒髪を背に流した細身の小さな娘である。真珠の肌は運動の所為かほのかに色づき、とろりとした月色の瞳の・・・間違いでなければ、火の国の恩人とも言える巫女姫。瞳の逡巡はやがて確信に変わる。得難い姫君、との噂もうなずける。

 「まさか、これほどとは」

 「姫に試せと言われた時、かよわい姫に剣を向ける非道は出来ぬといいましたが、私の驕りでした。姫君は、お強い。かわし続けるその眼力、私め、肝が冷えました。剣先が確かに捕らえたはずの頭がすり抜けるような感じで・・・」



 賞賛の声は私の頭の上を通り過ぎていった。

 はふーと大きく息をつき、座り込んだ。

 はー、人間なにが好機になるかわかんないなー・・・芸は身を助けるってほんとの事だねーなどと考えていた。

 「お母さん、ありがとー」

 母は、新撰組が大好きで大好きで、マニアな事に、土方さんや沖田さんより、斉藤一、の人だった。母の影響で剣道習っていた事がこんな風に役に立つなんて。毎日の素振りも、体捌きも無駄じゃなかった・・・。

 ・・・女は弱い。どんなに鍛えようと乗り越えられぬ壁がある。男なら、力でねじ伏せ切り伏せるところを、女の非力では剣をいなして隙を作り活路を見出さねばならない。

 私は師匠にそう教わり、それを実践した。これでも結構強かったんだよ。

 でも、それが真剣ならどうなのか?身体が恐怖に凍りつかないか?そう思って、イザハヤに実践練習を頼んだら、あっさり断られ、王様達に頼んだら、知らんふりをされ・・・。

 私が単身、火の国の警備隊の隊室に乗り込んだのは、相手にしてくれなかったみんなが悪いのだ。うん。


 

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