第三十七話:計画・2
「凡人が凡人ゆえに欲しがる言葉を与えると、人はああも簡単に操れるモノなのだな」
エルレアは呟いた。
他者を罵り、嘲り、貶めて。反面こちらを褒め上げ崇める。
それだけで人は簡単に操る事が出来た。
操られている、と気づかぬまま死んで行った者たちもいた。
・・・エルレアはそれを行使するのに躊躇しない。
「どんなに治世が良くても不満はどこかに生じる。それを探して突付けばいいのだから、あとは、彼らキャストがいかにうまく働いてくれるか、だ。ルツ。最高の戴冠式になる・・・」
「は。では、予定通り各国貴族にはつなぎをとっておきましょう。・・・ですが、よろしいのですか?彼らは本気で巫女姫を殺しにかかりますぞ。戴冠式を血で濡らすなど不吉な事を黙認されましては・・・。それに、エルレア様。稀なる巫女姫はエルレア様の隣にこそふさわしいと、今でも、私は思うております」
ルテインの言葉にエルレアはうっすらと微笑む。
「・・・あの馬鹿どもに本当に姫の命が取れると思うか?しかも、あの王達がそれをみすみす見逃すと?・・・ありえないな」
「?で・ですが、エルレア様・・・」
くすくすと笑う主君にルテインは慌てた。
「俺が、殺させるはずがないだろう。あの馬鹿どもは五王国への手土産だ。それに・・・『色ボケ』と言われたのだから、あの女には、その身を持ってあじわってもらわねば」
「!で、では!」
「ああ、馬鹿どもには最大限、騒いでもらおう。五王国には恩を売り、巫女姫を奪いにいく。ま、命の恩人になるのだから、少しは懐いてくれるだろう。懐かぬ時は・・・そうだな、闇に沈めて日の下には出さぬようにしようか?」
くくく、と笑う。
「さて、ルツ。そろそろ奴らの企みが五王国の王に知れる頃合だ。親書をしたためろ。姫を殺めんとする不逞の輩の密書を手に入れた、と。彼らは戴冠式に暗殺の結果を目の当たりにする為乗り込んでくる・・・。そこを一網打尽に、とな」
「御意」
「・・・尻尾を掴む前に千切りやがったか。うまく立ち回る気だな・・・」
根の国からの親書を手にシャラ王が呟いた。
「でも、僕にとっては、腑に落ちた。エルレアはどちらかと言えば策士の匂いがするから。阿呆な貴族の選民思想に則って、チヒロを殺そうとするとは思えなかった・・・」
オウランが苦い顔でそういった。
「だが、これで五王国へ恩を売ったつもりになられては困る」
リシャールが戒める。
「どうする?姫に万が一のことがあってはならない。だが、ここまでお膳立てをされて、こちらが出て行かなければまた騒ぎ出すのだろう。それに、書面にもあったとおり、万全の警備体制を整え、馬鹿な貴族どもを一網打尽に捕らえる、またとないチャンスでも、ある」
アレクシスが考えながら、言った。
セイランが立ち上がり、皆を見渡し話しはじめた。
「エルレアはわれらに恩を売り、根の国の立場を高めていくことが望みだろうな。ま、言葉巧みに操っている貴族達からこちらの情報は引き出し放題と来ている。彼らのつながりはここで、言葉どおり断ち切ってもらおう。我らは、自国の膿みを掃きだし、彼は自国の力を諸国へアピールできる。・・・痛み分けといったところか?・・・ああ、もちろん、チヒロに怪我をさせたら、エルレアの思惑など知った事じゃない。たたきつぶすよ」
そんな風にさらりと告げれば、後の者どもの反応は似たり寄ったりだった。
静かな瞳に力を込めて彼らは誓い合った。
愚か者にはふさわしい罰を。
企む者には相応の枷を。
そして、我等が姫には、祝福を。