第三十六話:計画
精霊たちの報告は、各王様たちを、驚かせ、憤慨させた。
各国の叛意者たちは、すでに互いに連絡を取り合い、根の国で行われる戴冠式に出席する太陽と月の巫女姫の、殺害計画を練っていた。
・・・って、わたしのことよね?
灰色狼のみどりちゃんを抱きかかえながら(みんな諦めてくれた)耳にする言葉は心臓が痛くなるような内容ばかりで、心細くなってみどりちゃんにぎゅうってしたら、心配するな、と言いたげな顔で顔面、一舐めされました。
ぐるる、と唸る。緑色の丸い目を王様達に向けて。セイラン様がみどりちゃんを見た。黙して話す、二人。(・・・いいよね?ふたりで)
「根の国のエルレアはそうと知っていながら彼らに対して手を貸す密約をした、と見ていいのか?」
「世論の誘導ではないか?稀なる巫女姫を失えば、我ら五国の信用も失われる。・・・だが、それもうまくいけばの話だ。さらに、殺害を示唆した事が判れば計画した者達とて、ただで済むわけもないであろうに・・・」
「叛意ありはわかった。だが、よりによって姫を標的にするとは」
叛意有りの話は怖かったけど、それをどうかわすかと話し合っている王様達も怖い。
そしてそれ以上に顔も知らない人たちの悪意に背中が冷たくなった。
顔をみどりちゃんの毛皮に押し付ける。
・・・淡々と考える。普通の小娘が、異世界から来たってだけで巫女姫として崇め奉られてりゃ、そりゃ由緒ある貴族の皆さんは不服に感じるんだろうな。しかもなんか、自国の王様達に異様に可愛がられて(珍獣扱いだとしても)重用されてりゃ不満にもなる。自分がいるはずの場所を取られたって考える人がいても、おかしくはないんだろう。
俯いてみどりちゃんにしがみ付いていたら、ぽんと頭に手が乗せられ、ぽんぽんと軽くたたかれた。そろそろと顔を上げると、オウランの目と合わさった。
「・・・そんな顔をするな、チヒロ。大丈夫だ。ここにいる我らは、力もある。それ以上に頭がある。不穏な奴らに与える隙などない」
「心配するな、チヒロ。われらは強い」
セイラン様が優しげな顔で微笑みながら言ってくれた。
「姫、あなたはあなたのままで良いのです。思うとおりになさい」
リシャール様が優しく微笑み私の手を取り口づけた。
「チヒロ、お前のおかげでシャザクスはよみがえった。礼を尽くすのは当たり前の事だ。それを不服と思う者は、この国には不要。俺は、お前を守る力があることを誇りに思う」
シャラ様が自信たっぷりに言った。
「姫。顔を上げて。まっすぐ我等を見てごらん。いつものように、笑って欲しい。あなたを守る事が我等の望み。あなたを守る力がある事が我等の誇り。姫が、姫らしく在るために。姫の心も身体も、すべて。守るためにわれ等は在るのだから」
アレクシス様がそう言って私の頬を両の掌で押し包んだ。
・・・あたたかい。
ぽろり、と涙がこぼれた。
ぽろ、ぽろ、ぽろ。零れて、おちる。
みんながくれた暖かい言葉と、優しく差し伸べられた手。
みっともなくぼろぼろ泣いている私を咎める人はいなかった。
・・・・・。
今度は恥ずかしくて顔を上げる事が出来なくなった・・・。
でも、さっきまでのような、底なしの闇に落ちていく感じは、もうない。
あるのは、胸を暖かくしてくれた彼らに対する信頼と安心感。
過保護なお母さん紛いの人たちは、今だに顔をつき合わせてなにやら画策していたが。
式の段取りを踏まえて、護衛の配備位置の確認や、控え室にいたるまでの内部の通路の把握。各国の主要人物の控え室の見取り図、などなどは、率先して話に加わったイザハヤが教授していた。
「姫のお側につけないのは、戴冠式式典中の新王に王冠を授ける時・・・」
「その時が狙い目とあちらは考えているはず」
「姫が最もエルレアに近い時・・・まあ、用心に超したことはない」