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第三十三話:守り刀

 練習・練習、ちょっぴりセクハラ。

 練習・練習、報復攻撃。

 練習練習、お返しセクハラ。

 ・・・暇なんだな!王様って!

 くそう、くそう、人が事情通じゃないのを良いことに、練習の合間にセクハラ組み込まないでください!

 失礼にならない程度のダンス中の接近はおかげさまで身体に染込みました。

 鈍いと罵られ、愛想笑いを窘められ、隙は突くもの、作らないと言い聞かせられ・・・、肘鉄の入れ方を教わり、優雅な足の踏み方を教わり。へろへろです、疲れました・・・。

 社交界ってこわいとこだ。

 まあ、相手があの鎖拘束むっちり好きの、色ボケ相手なら仕方がないかー。

 ・・・との、呟きに。

 反応した。・・・ダレカガ。

 「だいちゃん。お願い!」

 壁が音も鳴く崩れて、再構築を始める。・・・檻に。土の精霊が作り出した土の檻には一人、人が囚われていた。

 「うわ、えと、ハジメマシテ・・・?」

 ボケをかましていたら、王様達に頭を抱えさせてしまった。う〜ん。



 壁のむこうに潜んでいたのは、根の国の密偵だった。

 そこにいた誰よりも早く異変に気づき、精霊を使役した姫の手腕は鮮やかだった。呼吸をするように自然に、精霊との疎通が成されているのだろう。

 「はは、チヒロが本気を出せば、どんな国も砂になってしまうのだろうな。」

 セイラン殿が笑って言ったが、それは事実だろう。だが、想像であって、現実にはありえない話だが。姫の御手は、豊饒を、その瞳は、未来を見ている。それは、けして陰る事のない光を見据えた力。

 アレクシスは思う。

 なればこそ、我ら五人の成すべき事は、彼女を闇に沈めぬこと。

 姫の側に立ち、姫の輝きを損ねる事の無いよう、細心の注意でもって姫の側に在ること、ではないか?

 憧憬の眼差しで姫を見つめると、同じ色を刷いた眼差しで姫を見つめるリシャールに気づいた。シャラの目ははっきりと好ましい者を見る目だ。セイラン殿は眩しげに、満足そうに姫を見ている。オウランは・・・、あれは、駄目だな。もう、後戻りは無理そうだ。

 ふう、と大きく息をついた。

 欲しいと思っていた。今もそう。

 だが・・・。五王国の全ての国が姫を闇雲に求めれば、姫は闇に沈むのだろう。

 かわいらしい、姫。あの、静かなカーシャが必死に守っていた姫。

 『守ってあげてください。』と、カーシャは言った。ああ、そうだな。カーシャ。

 姫は奪う者にあらず、守るべき存在なのだな。

 アレクシスは、自分の中からじんわりと滲み出してくる思いにようやく気づいた。これは、庇護欲だ。姫の心を、姫の身体を、あらゆる物から守りたいのだ。



 「あの、やはり、根の国の方ですか?」

 チヒロがのんきに語りかけている。檻に阻まれた者は、観念したのかどっかりと座り込んで顔を覆っていた覆面を外しだした。

 「チヒロ、下がれ。」

 何が飛んでくるのかわからない。

 そう言うと、チヒロはじっとそいつを見てから、首を振った。

 「短剣と仕込みナイフが靴に。あと、薬らしい物もないそうです。」

 「・・・そうです?」

 「あ、風の精霊のふうちゃんが、危ない物持ってないって・・・。」

 「・・・すごいな、姫さん。」

 覆面を取ったそいつは、素顔の美しい女性だった。

 長い金髪を頭の上できっちりまとめ、凛々しい眼差しの、浅黒い顔。力持った瞳は金。

 「根の国特有の色彩だな。エルレア殿の手の者か?」

 「・・・そうだ。だが、もう違う。われらは忍んでこそ使える者。それが捕まったと知られれば、消される運命。私は、最早、帰るところがなくなったのだ。」

 女は、力なく首を振った。女にしても、今回の拘束は予想の範囲外だったのだろう。

 密偵が、逃げられると踏んで取っていたはずの距離。

 逃げる間もなく檻に囚われ、女は、すっかり気が削がれている様子だった。

 おそらく、拷問を受け、話して聞かせることが出来る情報も、たいした物はないはずだ。覚悟を決めたのか、淡々と静かな受け答えは潔く映った。

 どうするか、と逡巡する一同の中で、ひとりがあっけらかんと言い放った。


 「えと、取り合えず、悪い人じゃないみたいなんで、出していいですか?」


 ・・・姫は相変わらず、のんきだった。

 「姫、虜囚自らが驚くような事を仰らないで欲しい・・・。」

 アレクシスは疲れたように呟いた。

 ちなみに当の虜囚は、それはもう化け物でも見るような眼で姫を見ていた。・・・不敬だ。

 

 「・・っ馬鹿か、きさま!」

 「口が悪いですねー。女の子なんだからもっと優しくしゃべらないと。それにね、あなたすごーく精霊に愛されてる。さっきから、あなたの周りを風の精霊と水の精霊が心配してぐるぐる回っているの。どうしよう、どうしようって。このままだとあなたが酷い目に合って死んじゃうって、それはもう悲しげに。」

 「精霊・・・?そんなもの、見たことはない。でたらめを言うな!どうせ、国に帰っても殺されるだけだ!それに、拷問しても私が知っている情報など微々たる物だ。何の価値もない。・・・殺せ!」

 自分の胸元をぐぐっと掴んだまま、女は言った。下を向いたまま、さらに呟く。

 「それに、私の帰りを待っている者は、いないのだから。さっさと殺してもらったほうが、楽になれる・・・。」


 ざらり、と檻が砂になった。その砂を踏みしめて、姫は歩いた。

 下を向いたままの女は、気づかない。膝をおって女の前に座り込む、姫。・・・不思議に誰も動かなかった。女の手をそっと両手でつかみとった。

 姫が目を閉じ祈るように女の手に口づけた。

 「・・・見て。聞こえるでしょう?あなたを心配してる精霊の、声が。」

 「・・・この、こえ・ほんとうに・・・?」

 女の目から涙が落ちた。

 そして、女も、姫に落ちた。

 「・・・なあ、気の済むまで拷問してくれてかまわない。そして、私が、危険じゃないと判ってもらえたら、私をあなたの護衛に雇ってはくれないか・・・?その、国に帰っても、捕まって殺されるだけだし、なら、この国で、あなたのために、死にたい・・・。」

 「え?別に死ななくっていいですよー。」

 姫があっけらかんと言い放つ。この変な生き物にどう突っ込もうかと思ったとき、セイラン殿が歩み出た。

 「チヒロがこの者を信用するのは、なぜ?」

 「え、あのですね、悪意のある人はわかります。表面取り繕ってても、精霊たちが危険って教えてくれますし。それに、こんなに精霊に愛されてる人、はじめてみた・・・。」

 どこかうっとりと女を見つめる姫。女も、うっとりと姫を見つめている。

 ・・・引き剥がしたくなった。

 にっこりと微笑んだセイラン殿は、懐から薬の瓶を出す。

 「飲めるか?」

 密偵が恐れるのは、自白、殺害。敵側の人間が用意した物を飲むなどありえないのだが、女は、セイラン殿の手首を取り、そのまま目で促した。セイラン殿が蓋を開け、セイラン殿の手ずから飲み込む、液体。躊躇いはそこになく、摩り替える事などできるわけもなく、女は、飲みきった。

 「その意気や良し。」

 「認めよう。チヒロの身辺、心にいたるまで、存分にその力、持ち、守るが良い!」

 ・・・チヒロが大輪の華のように、微笑んだ。



 

 


 


 

 

 



  




 

 

 チヒロは、お兄ちゃん気質のストーカーを手に入れた!

 チヒロは、ツンデレの威力を知った!

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