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第三十二話:レッスン

式典の練習の為、ずらずらと長い裾のドレスを着せられました。・・・ちなみに本番はもっと裾が長いんだそうな。滑らかな手触りの、素人の私にすらわかる、見事なつくりのドレス。これが練習用って・・・。どこの殿中ですか。

 私の頭の中には、年末によくやる時代劇のワンシーンが浮かんでいた。

 『デンチュウデゴザル!』・・・えーと、この場合、私は切りかかるほうなのかな?


 軽く現実逃避中。

 それを見透かしたオウランがぎっと睨んでくる。こわいってば!

 「姫、手はこちらへ。」

 みんなの厳しい目なんか知りませんって顔でアレクシス様がエスコートしてくれて。

 おっといけない。

 れんしゅーれんしゅー。

 くるりとターンをして、アレクシス様に手を預けたまま、軽く会釈をする。

 顔を上げても、みんなの沈黙が続くので、なにやらむずむずするよ!っておもっていたら、ほおっとため息をつかれた。

 え、なんか、まちがった?

 


 根の国の戴冠式まであとわずか。

 最近は専ら、巫女姫の社交ダンスの練習に付き合っていた。巫女姫は市井の出身者が多く、礼儀作法のなっていない者もいたと聞いていたので、この一月ばかりで礼儀作法を仕込むのは大変だと、言葉には出せないが皆思っていたはずだ。

 だが、とアレクシスは思った。

 手にした繊細な腕の巫女姫は、凛とした佇まいで背中をすっと伸ばし、こちらを信頼しきった目で見上げてくる。その姿は、清楚で、可憐だった。

 仕草は、表に出るものだ。

 どんなに取り繕うとしても滲み出る育ちの「よさ」は、過去の巫女姫を輩出した国の頭痛の種だった。

 彼女には、それが、ない。


 「・・・姫。姫は、あちらの世界で、どのような教育を受けていられたのですか?」

 突然の質問にきょとん、とし、それからふわりと微笑んだ。

 「学校では国語、算数、理科、社会、英語、音楽、体育を学びます。高校では、さらに専門の教科があって、それぞれ好きな物を選びます。後は、部活動です。私は、剣道部。」

 「剣道?姫の立ち居振る舞いが美しいのはそのせいでしょうか?」

 「さあ・・・。」

 困ったように笑う、かわいらしい姫。この様子なら、要点を抑えておけば、どのような社交の場でも大丈夫だろう、と思い至り、柔らかく微笑み返した。

 ・・・太陽と月の巫女。宵闇の髪持つ、麗しの姫君は、きっとそこに参列する各国の者どもの目を釘付けにするだろう。

 ならば、彼の姫が恥をかかぬよう、最高の作法を授けようと、五王国の国王達が自ら手を取り、礼儀作法やダンス等々、練習の相手を仕っていたのだが・・・。

 それも杞憂となりそうだ。


 「アレクシス殿。そろそろ姫を解放してくれませんか?わたくしも、姫と一曲、踊りたいのです。」

 ・・・リシャールが余計な一声を掛けなければ、姫の繊手はまだ私の物だったのに。

 

 くるくると、踊る。

 時折浮かぶ、微笑みに苛立ちを感じる。

 リシャールと、姫は、一枚の絵画のような、趣をかもし出していた。水色の髪を緩くまとめたリシャールは、常の美女顔にどこか憂いがうかがえて、その瞳もまた、じっとりとした熱を帯び姫を見つめている。

 姫は、リシャールの瞳に少し不安げな顔を見せ、それでも、彼を信頼していると判る顔で微笑むのだ。

 くるくると、踊る。

 一曲が終わって、ほっと息をついたのは、私だけではなかった。



 うーあー、目が回るう。

 みんなのステップについていくのがやっとですー。

 「チヒロ、重心がぶれている、・・・そう。」

 セイラン様も何気に鬼です。

 ちょっとのずれもぶれも見逃さない。

 でも、でもね。

 ・・・こっちの世界の社交ダンスって、こんなに密着しないといけないの?

 始めてばっかりで勝手が違うから、普通がわからない。これ、この距離間って普通なのかな?戸惑った目でセイラン様を見ても、にっこり笑ってくれるだけで何も言葉がない。

 背筋伸ばすと逞しい胸板に、その・・・胸の先が、あ、当たっちゃう・・・。

 恥ずかしいのでそれとなく逃れようとしたら、有無を言わさず抱きしめられて、首筋に息がかかって身動きが取れない。仕方なく、そのまま踊っていたら、なんだか、周りの王様達から恐い目で見られているような・・・気、気のせいだよね・・・?

 うろうろと視線を泳がしていたら、ぐっと足を割られてセイラン様の右足が、太股の深いところに入って来て、慌てていたら、オウランの叫ぶような声が耳に入った。

 「チヒロ!踏め!」

 何をさ!

 わたわたしていたら、くくく、と耳元で笑い声がした。

 「・・・と、このような行いをされたら、ご婦人は怒って良いのです。足を踏むなり、手に噛み付くなり、拘束を振り切って逃げないと、相手は付け上がる。わかったね?」


 ・・・・・。

 よくわかった。

 ヒールのほっそいとこで、思いっきり足をふんずけてやりましたとも!ええ!



 むかぷん。とふてていたら、リイノおじさんがおやつとともにやってきた。

 見かねたシャラ様がお茶の時間を早めてくれたらしい。

 リイノおじさんは、日々ミルク製品の開発に勤しんでくれたので、バターを使ったお菓子や料理の種類が増えていた。

 料理人ってすごい。私の記憶の中のクッキーの作り方から、分量を変えながらさまざまなお菓子を作り出してくれた。

 あとは、さとうきびだよねえ・・・。砂糖がないので、果物の中から比較的甘いと思われる果物を煮詰めて、ジャムにしたのを砂糖代わりに練りこんでいるんだけど、これでも結構な衝撃だったらしく、シャラ様の侍女サンたちには、次はどんな物を?とわくわくした目で見られるようになった。

 ちなみに、牛乳は、まんま牛の乳と呼ぶんじゃ誰も口にしないということで、異界の「ミルク」って呼び名をそのまま使う事にしたんだって。

 


 

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