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第三十話:お母さんの味

キュイの実のジュースはおいしかった。そこで、今度はキュイジュースを煮詰めて、クリーム、無理でもジャムにならないかって思った私は、また、厨房にいました。

 「姫様、こんな何度も抜け出しちゃ、まずいんじゃないか・・・?」

 リイノおじさんは恐る恐る私に声を掛けた。おじさんも、雇われの身、ばれちゃまずい事になるって思ったらしい。

 「えと、精霊達が付いていてくれるんで、不審者対策はばっちり!でも、確かに、おじさんに迷惑掛けてるんで、今日は、キュイジュースもらって部屋で実験します。」

 「そうかい?俺も手を貸してやりたいんだが、なにぶん、あんた姫様だからなあ。ああ、そうだ。この間、動物の乳を搾って何か作るって言ってたな?さっき、試しに城の肉牛の乳を搾って持ってきてもらったんだが。どうすればいいんだ?」

 「うわ、ミルクですね!そっと置いておくと、生クリームと、液体に分かれるんですが・・・。おお、いい感じです。この上の塊が生クリームで、下の層が牛乳で・・・。」

 スプーンでひと掬い、とろりとしたクリーム。口に入れると、ほのかな甘さの・・・。

「うう、生乳百パーセント!」

 泣けてきた・・・。普通に牛乳。普通に生クリームだ・・・。

 「チョコレート・・・。あの、オレンジ色の塩味のチョコの果物、クダサイ。」

 「・・・オレンジ色の・・・レンの実か?搾るかい?」

 なんちゃってチョコの実は、レンという果物らしい。そいつを搾ってもらって、オレンジ色のオレンジの香りの塩チョコ味のドリンクの中に、生乳百パーセント生クリームをひとさじ入れた。

 リイノおじさんがすごい顔してる。動物のお乳って飲まないって言ってたから当たり前か。

 じっと見てから、えいやっとばかりに、飲んでみた。

 ごくん。ごくん。ごくん。

 ぷはー!とグラスから顔を放す。ああ・・・。

 「有り!もうすっごくおいしい!ほんのり塩味が、クリームのほの甘さを引き立ててくれて、チョコの味が香りと相まって、オレンジショコラになってる!」

 感極まって叫んだら、後ろから、おどろおどろしい声が・・・。

 「・・・それは、良かったな・・・。チヒロ。」


 ひいっと、背中がざわめいて、ぎくしゃくとオモシロイ格好で振り返ると、鬼がいた。

 「え、ええと・・・。なんでみんな、ここに?」

 えへっと笑って誤魔化してみるも、敵は強かったです。

 「・・・それは、こちらの台詞だ。なぜ、姫がここにいる?」


 「・・・リイノ。」

 シャラ様の声にリイノおじさんは震え上がった。申し訳ありませんっと、必死に謝っている。私は、まずい事になったと思い、リイノおじさんをかばいに行った。

 「シャラ様、勝手に部屋を出てごめんなさい!」

 「・・・みんな、心配した。また攫われてしまったのかと、俺は自分の無能さ加減を疑った。」

 「・・・ごめんなさい。」

 そんなシャラ様の肩をぽんとたたいて、セイラン様が口を挟んだ。

 「・・・それぐらい脅せばいいだろう?精霊の気配を追って城内から出ていない事はすぐにわかったのだから。」

 「チヒロの甘い物に掛ける思いは、殺人蟻の巣を捕ったときに分かっていただろうに。居ないと分かって、すぐ、厨房が浮かんだ僕ってすごいじゃないか?」

 オウランが、それはフォローなのか?と疑いたくなるフォローをいれた。

 「それで、姫。今回はどのようなものを?」

 興味があるのか、リシャール様が優しく問いかけてくれた。

 「わたしも知りたいな。・・・例のハチミツはとても美味で、あれから、何回か食卓に上ったのだよ。シェンランの特産品にと考えているくらいだ。」

 「姫の見出す物は、美味だからな。」

 「で、これってなに?」

 「んと、牛乳です。こっちの方たちは飲まないって聞きましたが、おじさんが知り合いの人に頼んで搾ってもらってきてくれたんです。私のいたところでは、当たり前の食材で、さまざまに加工して使ったり、そのまま飲んだりします。」

 「虫の蜜、樹液の次は、動物の乳か・・・。スゴイトコロダナ。」

 オウラン。なんか褒められていない気がするヨ。

 ムッとしたので、私はグラスをずいっと奴の鼻先に押し付けた。

 「リイノおじさん、オウランにも一杯注いで上げて。・・・それからみんなも。」


 かくして。

 「・・・うまい。」

 その一言で、みんなの牛乳に対する目が変わる。

 国のトップから食生活を変えていけば、牛乳のステータスも上るわよ!そしたら、オレンジもどきのレンの実使って、オレンジショコラ。オレンジショコラプリン。オレンジショコラケーキも夢じゃない・・・!

 何より、生クリームが採れたってことは、バターがつくれる!

 バターが作れれば、クッキーが!マドレーヌが!パウンドケーキも作れちゃう!

 ああ、なんか、先が明るいわ!



 そう、浮かれてた。この先に何があるかなんてその時の私には考えも付かなかったんだ。


 

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