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第二十七話:風雲急 2

 眼を覚ますと、そこは、見知らぬ場所でした・・・。

 なんか、目覚めるたび、違う場所にいる自分って何!

 世界から落っことされた時、風の国から木の国へ渡った時、そして今!

 はっとして、身体を見おろす。貞操の危機もあったんだ!

 うん、どこも違和感はないけれど・・・。自分が纏う服にぎょっとした。

 うう、まただ。何でここの世界の人たちは、薄絹好きなんだ・・・。凹む。しかも、危うい。ちょっと屈めば見えちゃう。ジャージ着たい。

 「キュウちゃん?」

 さっきまでそばにいた火の精霊に声をかけてみる。

 答えはない。心配になって、ベッドから降りて歩こうとして、足首に巻かれた皮ベルトに気づいた。ベルトからは、鎖が繋がっていて、ベッドの柵に固定されていた。

 「これ・・・。」

 声が震えた。鎖で繋いで、逃げられないようにするなんて。

 じゃらり、と音が耳に届いた。


 くやしい。頭の奥が熱くなった。

 いつも、いつも、私の思いは後手にまわる。

 この世界に落ちたときは、仕方が無いと思った。風の国でやれる事を探して生きていこうとすら思った。いつか、帰ることを夢見て、でもどこかで諦めていた。

 泣くな。と言い聞かせる。いなくなった事に気がついて、きっとシャラ様やセイラン様、オウランが動いてくれる。

 泣くな。こんな、人を人として扱わない誰かに負けられない。

 がんばるんだ、わたし。


 「・・・お前、変な女だな。」

 声は、唐突に、耳に届いた。

 「普通、泣き叫ぶとこだろう?泣くな。がんばれって自分に言い聞かせている奴、始めて見た・・・。」

 しかも、無駄な足掻きだし。と、呟いた男は、金の髪を短く刈り込んだ、金色の目の、カフェオレみたいな肌の色した精悍な美男だった。

 足音もなく、近寄って来る男を警戒して、自然、目線はきつくなった。

 「こんな餓鬼が、かなめの巫女・・・?いいように踊らされたな。ルツ。こんな餓鬼のどこに男を狂わせる色香があるんだ?・・・俺はもっと豊満なほうが良い。」

 ルツと呼ばれた男は動じずに言い返した。

 「王子。外見に囚われてはなりませぬ。この娘欲しさにあの、セイラン王自ら国を出て火の国へ渡ったことはすでに周知の事実。」

 「ふ。あんがい、風呂に入る為だけに来たのかもしれないぞ。」

 「王子。戯言はここまでに。まこと、これなる乙女は太陽と月の巫女。召しませ。今のうちに妻にしてしまうのです。さすれば、五王国のどの国王ともわたりあうことの出来る力が手に入ります。」

 「ふん」

 鼻で笑った男に腹が立った。じろじろ見る眼も気に入らない。っていうか、胸を凝視すなー!!!私はそりゃ豊満じゃないけど、ペタンコでもないわい!

 むかむかする気分のまま、睨みつけて。

 「色気のあるのが好みなら、私はいらないでしょ。鎖、外して。きっと、王様達怒ってる。」

 ぐっとこぶしを握り締めて言う。胸を貶されてだまってられるかい。

 「・・・お前ごとき攫っただけで、諍いが起きる、と?驕ったものだな。」

 うう、むかむかが最高潮になる。

 「小娘「ごとき」攫って、鎖に繋いでるのはあなたでしょう。私は、帰ります。」

 眼の中が熱かった。とても熱い。まるで、眼の中で火の精霊が踊っているようだ。

 「・・・返すと思うのか?」

 「振り切ってでも。」

 ふわり、と風に髪が舞う。風の精霊達の声が耳の奥にこだまする。

 眼の中が紅くなる。キュウちゃんの声がした。

 きいん・と音が響いて、土の気配が濃くなった。ざらり・と音がして鎖が砂のように崩れ去る。

 いけ好かない金の瞳が大きく見開かれて、少し気分が良くなった。

 「わたしは、帰る」

 声とともに、ひときわ大きくなった小鳥・・・鳳凰が顕現した。小さなキュウちゃんが、私の意志を汲んで大きな姿を取ってくれたって判った。

 「お前・・・!」

 拘束しようと手を伸ばす男の手を風がはじいた。キュウちゃんの朱金の翼に手を伸ばし、背に乗ろうとすると、ルツと呼ばれた男が阻んでくる。腹が立って、男を睨んだ。すると、ぎゅるる、と緑が伸び男の身柄を拘束した。

 キュウちゃんが翼を大きくひとつはためかせると、風の精霊が力を貸して、大きな風の塊を作り上げた。閉ざされていた部屋の壁ごと吹き飛ばす。

 青空が見えた。

 そのまま、外へ飛び出す。

 「キュウちゃん、帰るよ!」

 キュウちゃんが一声嘶いて、ぐんっと加速した。

 「キュウウウウッ!」

 その途端、キュウちゃんが痛そうに鳴いた。振り落とされそうになりながら、しがみつき、キュウちゃんの異変の原因をさがす。それは、黒い、黒い、闇の腕。

 細長い黒い綱のようなものが、キュウちゃんの足を拘束していた。綱の先には、いけ好かない金の瞳。いやに真剣な瞳で見つめ返してきた。その眼を睨み返す。

 「キュウちゃん、痛がってるでしょ!放しなさい!」

 「・・・今、放してやる。光栄に思え。俺の名を教えてやる。」

 「いらない!」

 「聞かないと放さないぞ!」

 「いるかー!色ボケの名前なんか聞きたくない!」

 頭が沸騰していたんだ。叫ぶ心のままに、地面から熱いお湯が噴出した。熱いスコール。充満する蒸気。目の前が、熱い。紅い。

 爆発する!

 どんっ!と地鳴りがして炎と熱湯が踊り狂った。

 「王子!危険です!」

 ルツの声が湯気のむこうに聞こえた。キュウちゃんを戒めていた黒い綱が、その時ふっと掻き消えた。

 「キュウちゃん!」

 キュウちゃんはすぐに私に応えてくれた。飛び立つ。高く高く。奴の、黒い綱が届かないほど、高く。

 キュウちゃんの、羽の中に埋もれてキュウちゃんの羽を撫でる。

 「ありがとう、キュウちゃん。ね、なんか眠いんだけど、眠っていい?キュウちゃん・・・。ね、シャラ様、心配してるだろうから、早く帰ろう?セイラン様とオウランも、きっと・・・。」

 ねむい。

 オウランが鬼の形相で怒っているのは想像がつく。セイラン様も怒ると怖そうだ。シャラ様は、きっと心配してるから、速く帰って無事だって言わないと。



 遠くで、声がした。

 心配する声。

 怒りのままに叫んでいたのは、だれ?

 優しく、いたわる様に頬を撫でてくれたのは?

 髪が、優しく梳かれて、額に口付けが落ちた。

 

 

 

 

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