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第二十五話:その道のり

 唐突に現われた太陽と月の巫女は、俺が望んだ通り、つぶさに国を見てくれた。

 ・・・もろもろの雑事にかかわっていると、日々の決済が滞るので、書面に目を通し記載された事柄に応否する。良かれと思う事には積極的に資金を回していた心算だった俺に、姫は否を突きつけた。

 確かに回した資金がどのように使われたか、結果も紙面で見ただけだったからな。

 横領されているなど、欠片も思わなかった。

 古参の貴族。

 表向き好事家。

 国政に興味を示す野心家たち。

 今思えば、裏のありまくりの輩ばかり。

 俺が国王になった頃、何度か娘を連れて城に上ってきていた、下心見え見えの奴もいたっけな・・・。父親に似て、野心ありまくりの、客観的に自分を見れない、勘違い女ばかりだったっけ・・・。

 そうと気づけば、仕事は早いほうがいい。腹心の部下を呼び、孤児院の関係者を洗い出すように言いつけた。姫は新たな道を示してくれたのだ。期待に応えられずして、如何する?


 ・・・そうしたら、出るわ出るわ。


 なんだか、自分に腹が立ってきた。だってそうだろう?良かれと思って決済していた事全てが、奴らの私腹を肥やす事になっていたなんて。懇意にしていた貴族が少なかったのはいいとして、俺をだまして笑っていた奴らは、許せるはずがなかった。

 迅速に事を進める。

 確実な証拠がなくとも、限りなく黒だと判れば、そいつも粛正の対象に入れた。

 限りなく灰色の奴は、決定的な証拠がなければ、検挙は難しいので、小さな事柄で左遷してやった。些細な理由での左遷にはじめは抵抗してきた奴も、消えていく人間の出自を知るたびに声を潜めていった。

 彼らはやがて、我先に寄付、もしくは、追徴課税の対象物件を表に出して、税金を払う事で罪を逃れようとしだした。・・・だが、許さなかった。


 俺をコケにした奴らは、辛酸を舐めねばならない。


 ・・・ああ、いつの間にか増えていた、国有財産は、有効活用した。

 幸い潤沢な資金が出来たので、姫の言う孤児達への教育という名の支援を始めた。お金も守ってくれる親もいない彼らを、罪人にしないための近道。読み・書き・算盤を教えて、積極的に雇い入れた商店や会社を優良企業とした。


 さて、姫が次に行きたがったのは、国営の採石場だった。最近は新しい砕石場でも、有用な石が取れなくなってきて、封鎖されているところが多かった。案内役の役人も、酔狂な姫だと思っていたに違いない。そんな姫は、どこまでもマイペースで月色の瞳をきらきらさせていた。

 そして、さらに妙な事を口にした。

 水が出たところに連れて行って欲しい、と。それがお湯ならなおうれしい、と。

 採石場で一番敬遠されるのが、出水だった。掘ると出てくる水を捨てながら掘り進むのだ。その労力は計り知れず、最も敬遠された。それがお湯なら、なおさらに。蒸れるし、熱いし、労力低下を呼ぶので、そういったルートは閉鎖されるのが常だった。

 だが、姫はそこへ連れて行けという。

 現場役人がどうしましょう?といいたげな顔で俺を見たが、俺は姫の望みを全て聞くつもりだったので、頷き、案内させた。

 俺の国の常識はやがて覆される。

 

 ・・・国を挙げての建設作業に、傭兵たちを積極的に雇い入れる事は、姫の案だった。その際、傭兵のたてと横のつながりを、大事にして、彼らが働きやすいようにした。良い上官の指示には従いやすいからな。まあ、悪い上官はぼこぼこにされていたが。問題ない!

 肉体労働だが、命の危険はない仕事に彼らは戸惑っていたが、彼らの母や妻の反応は良かった。なんにせよ、町に活気が帰ってきた。


 一番最初に出来た保養施設では、姫が熱心に温泉の入り方を説いていた。

 「お湯をきれいに保つ為に、まずはじめに身体をざっと洗うんです!あ、お湯の中にタオルは入れちゃいけません。髪の毛はお湯に入らないように、こうあげて・・・。」

 長い髪をかきあげて、うなじを見せていたので、とりあえずそこにいた野郎どもには、火をつけてやった。男どもが慌てて消えた部屋の中で、一生懸命女性に説明を続ける姫は、かわいらしかった。

 「こまめに水分を取りながら、出たり入ったりするんです。」

 「・・・あの、絶対服を脱がなきゃいけないのでしょうか?」

 女達の一人が言った。女達に限らず、俺だとて、全部脱ぐのは心もとないと思うのだ、湯着すら着ないというのはな・・・。

 「湯着は邪道です!」

 きっぱり言い切った・・・。何なんだその自信は。

 自信満々で、気持ちいいんです!と言い切られると、そんなもんか、と思ってしまうのか、周りの女達も丸め込まれていた。

 「・・・ええ、この世界初なんですものね。それに、巫女様がこんなにおっしゃってくださるんですし、ここで私たちがその良さを広く説明できなくては、国を挙げて作ったこの設備が泣きますわ。皆様、まいりましょう!」

 女達の一人が意を決したかのごとく立ち上がり、言った。そうだ。この国には、後がないのだ。彼らの今後がかかっているんだ。

 「そうですよー。みんなではいれば、恥ずかしくなんかないですって!それに、温泉の有効成分、じかに肌から入ったほうが効きますよ!お肌すべすべまちがいなし!」

 その勢いに合わせて、姫がのんきに言った。いそいそと、姫曰く「お風呂セット」を腕に抱え込んだ。


 「待て。姫はだめだ。俺が許さん。」


 スゴイ顔で見られた。なんだ、その人非人を見る目は・・・。連れ立って女達と歩いていこうとした姫を引き止めたのは、仕方ない。太陽と月の巫女は、本来、城の奥深く隠されて、人前に出る事はない。ましてや、人前で話をする事も、あまつさえ、肌を見せたなんてこと、なかったのだ。

 ぶうぶう抗議する姫を押さえつけ、女達には温泉に入ってもらった。

 暴れる姫は、小動物のもがきで、かわいかった事を付け加えておこう。



 機嫌を直そうと、姫を輝石の細工所へ連れて行った。美しい細工の輝石は姫に良く似合うと思ったからだ。だが、うっとりと見つめるけれど、欲しがらない奇妙な貴人に、細工師たちは職人魂を刺激されたらしい。欲しがらない姫の気を引く一品を作り上げる事が彼らの生きがいになった。掘り出した石をただ研磨し、少しの装飾を施すだけの物だったモノは、今や、並み居る貴人の目を引く細工工芸品へと進化を遂げた。

 たおやかな姫の胸元を飾れたら。

 麗しの姫の繊手を飾れたら。

 その額を。

 その足元を。

 彼らの技術は、この後更なる進化を遂げ、シャザクスの職人達の地位は格段に上っていく。



 そんな、渦中の姫は。

 「お風呂上りはやっぱり牛乳でしょ〜」

 と言いながら、城の厨房であらゆる食材の味見をしては、涙目になっていた・・・。


 姫らしくない、しかしどんな姫より目を引く存在。

 それが、太陽と月の巫女・オオツキ・チヒロだった。




 


 

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