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第二十三話:黄金の水

 シャザクスは熱い国だった。

 乾いた風が紅い砂を巻き上げ、どこもかしこも砂っぽい。

 一番の繁華街をシャラ様と歩くと、好奇の目が張り付いてくる。目立たない格好している心算なんだけどな。ちらちらと見られている気がした。

 「なんで、こんなところを歩きたがるんだ?」

 「その国を知るには市場を見ろって父が言ってました。活気があるかないか、一目瞭然だって。」

 「なるほど。で、巫女姫はどうみた。」

 「購買意欲はあるようですけど、先立つお金がないようです。品物も、そんなに良いものが並んでいるわけではないようですし。全体的に貧しいと感じました。あと浮浪児が多いですね。あそこ、食べ残しを持って帰ってます。国は、手を差し伸べてやらないのですか?」

 「国立の孤児院を創設したはずだ。毎月、維持管理費も出している。」

 「では、お金が子供たちまで行き届いてないと思います。そういう援助は、最後まで徹底して管理しないと、悪い人が私腹を肥やしちゃうんですよ。絶対ネコババされてます。」

 「ネコババ?・・・孤児院の関係者を洗い出そう。」

 「後、女性がいませんね。この時間、食事の仕度をしている主婦は買い物に来るはずなのに。なぜですか?女性が元気ないと男性も元気なくなります。」

 「女性は、一人で出歩けない。」

 「なぜ?」

 「・・・女性は、親か、夫か、息子と一緒でないと歩けないんだ。」

 「はあ、どこまでも、男尊女卑ですね・・・。ん?では、私はこの場合、シャラ様と一緒でなかったらどうなってましたか?」

 「まあ、一分もしないうちに攫われて、売られてるな。」

 「・・・・・・・こわいとこですね・・・・・。」

 「おれがいるから、姫をそんな目には合わせないぞ。」

 「よろしくおねがいします。」


 次に、輝石の加工所に行ってみた。きらきらと目にも鮮やかな細工の数々に暫しうっとりした後、気になった事を聞いてみた。

 「ここで加工した石はどこで売るんですか?このシャザクスでは、売らないのですか?」

 「ここではなく、風の国へ輸出している。わが国で買える者は、王族のみだろうな。」

 「やっぱり。貴金属のお店がないなーって思ったんです。ここで作った物は、ここで売りましょう、シャラ様。デザインを多種多様にして、今までは風の国でしか買えなかった物をシャザクスでしか買えないようにするんです。」

 「そんなことができるのか?」

 「おしゃれな女性がいると良いんですが。デザインできて、作れて、自分の身を飾れる、きれいなひと。」

 「探してみよう。」

 「あとは、輝石を掘り出してる採石場に行きたいです。」

 


 シャラ様は、根気よく付き合ってくれた。

 採石場は、熱くて、蒸れてて、そこにいるだけで、気を失ってしまえるほどだった。

 採石場の責任者を連れてきてもらった。

 「教えてください。」

 私は、ここに来てある事を思い出していた。何年か前の映画。石炭掘ってた会社が危機回生の案を練って成功する話。

 日本は、水の国。

 ここがそうじゃないとは言えないでしょう?

 地面を掘れば、水がでる。

 深く深く掘れば、稀に温泉を掘り当てる事も、あったかも。

 「石を掘っていて、温水がでてきた事はなかったですか?」

 果たして、尋ねた言葉に、現場の監督さんは、頷いた。



 もう、使われていない採石場の中で、お湯はまだ滾々とあふれ続けていた。

 喜んで、そおっと指を浸らせた。うん、熱すぎない。

 周りを見ると、岩肌に白く硬い物も付着している。うん、湯の花も取れそう。

 「シャラ様、ここを隠すように、建物を建ててください。外からのぞけないように。あと、植物なんかも植えて、そこに、貴金属のお店もくっつけちゃいましょう。国営の、保養施設にするんです。」

 「このお湯が、そんなにすごい物なのか?」

 「はい。私のいた世界では、これを温泉って呼んでいました。疲労回復、美肌効果、切り傷擦り傷の治療に、飲めば、おなかの中も癒してくれるんです。確か、ここの砕石所からは、薬石が採れたっていってましたよね?だったら、その石の薬効が溶け出しているはずなので、その薬石に頼っていた患者さんも呼べますよ。心配なら、お医者様に、飲めるかどうか調べてもらえばいいんです。それを大々的に宣伝すれば、なお良いでしょう。だから、調べてもらうときは、この世界一の名医にしらべてもらって、他のお湯の場所もあわせて調べてもらえれば、一大レジャーランドの出来上がり!です。」


 シャラ様は、仕事が速かった。

 孤児院関係で不正を行っていた者を洗い出し、粛正した。そして、維持管理費で私腹を肥やしていた不貞の輩の没収財産を返還金として国が一時預かり、その潤沢な資金を運用して、国営の温泉保養施設の建設費に当てた。

 国を挙げて行われた建設に、傭兵として生計を立てていた者を積極的に建設要員として雇い入れ、シャザクスの荒くれ者と呼ばれていた彼らに、新しい生活の術を示した。

 路上で過ごしていた子供達や、孤児院の子供達は、身奇麗にし、国営の学校に入学させ、読み、書き、算盤を教え込み、卒業の後、年長者は保養施設で積極的に雇い入れた。

 これより後、汲めども尽きぬ温泉は、シャザクスの黄金の水と呼ばれる。



 そして、今日、この施設にもうひとつの目玉が登場する。

 「なんで、わたしが・・・?」

 「諦めろ、姫。適材適所なのだろう?これ以上の人事を俺は知らんぞ。」

 そういって、渋る娘に手を差し伸べた。シャザクスの王、シャラは白くたおやかな繊手を手に取った。恭しく先導する。紅い薄絹に肌を隠し、宵闇の髪をさらさらと揺らしながら、危うい色香を身に纏うた娘と歩む。

 一足、二足。そのたびに、娘の耳元で、胸元で、しゃら、と鳴る。実に見事な繊細な細工。

 ほおっと、ため息があちこちで聞かれた。

 「なんと、見事な・・・。」

 「美しい」


 「シャザクスの誇る、麗しの姫君を彩る、輝石の数々は、この国の技術者の研鑽の賜物。いずれ劣らぬ一品なれど、数には、些か元ないものがございます。これも、満足いくもののみを出品せよとの王様の言葉を頑なに守る職人のなせる業。気に入りの品は、お早めにお願いいたします・・・。」

 商人の声に我に返った人たちが、我先にと、店へ入っていくのを、チヒロはぼーっと見ていた。

 シャラが、楽しそうに、嬉しそうに笑う。

 気を取り直し、チヒロはわくわくしながら、言った。

 「温泉、入りたい。」

 シャラに提案するも、すぐに却下されてチヒロはふてくされた。

 「だって、今日一番の功労者でしょ。温泉情報教えて、入り方も教授して、なのに私は、入っちゃだめなんて。」

 「姫の肌が衆人の下に晒されるのを俺が許すと思うのか?」

 「女湯あるでしょう?女だけなんだからいいじゃない!入りたい、入りたい、入りたい!」

 「・・・・・では、貸切にする。」

 「わーい!」

 ・・・シャラ様がにやりと笑ったのに気づかなかった私は、大馬鹿です。



 わーい。お風呂だ。お風呂だ。久しぶりだなあ、浴槽につかるの。

 私は浮かれていた。だって、お風呂だ!こっちの世界に来てから、水浴びくらいしか出来ないから不自由感じていたんだ。お風呂の有効性を懇々と説いて、シャザクスではようやく日の目を浴びたお風呂。堪能せずにいられますか!

 勢い良くぱぱっと脱いでいく。

 広い貸しきり風呂で、ざっとお湯を浴びてから、ささっと身体を洗う。

 長い髪の毛も洗おうと、頭からお湯を浴び、石鹸を手に取った。

 「シャンプー作ってもらいたいなあ」などど思いつつ気持ちよく洗っていると、泡が目に入った。

 「いたた」

 慌ててすすごうとすると、優しくお湯がかけられた。

 「ん?」

 かけられた、誰に?

 後ろを振り向くと、濡れた真っ赤な髪をかきあげているシャラ様と目が合った。

 口がぽかんと開いてしまった。

 「シャラ様?なんで?」

 「貸切だからな。それに、俺に日本風の風呂の入り方教えてくれる約束だったろう?」

 シャラ様の、熱い目線が胸の辺りを凝視して、凝視・・・?

 「うぎゃ!」

 ぎゃあと叫ぼうとした私をすばやく抱きしめ、シャラ様は唇で口封じをした。

 「あ、は、はなし・・・」

 こんなのは、いやだ。

 離れようとする腕が、シャラ様に封じられ、背中がざわりとあわ立った。 

 舌で口内を嘗め回されて、朦朧としていると、胸に熱い掌が這わされた。

 ゆっくりと揉みこまれる。

 声が漏れる。指先で蕾を摘まれて腰がはねた。

 お風呂に入るつもりだったのだ、何もつけていない事にあわてた。

 慌てて手で胸を押し返そうとすると、その手を取られた。

 力強い腕に拘束されて、悲しくなった。

 泣きそうな気持ちでいやいやする。

 こんなこと、しないで欲しかった。

 お兄さんみたいな、明るい笑顔が好きになってきていたのに。


 じわじわと涙が出てくる。

 

 「・・・チヒロ・・・ずっと側で守ってやるから。俺のものになれ・・・」

 なおもいやいやすると、シャラ様が困ったように言った。

 「チヒロ・・・。俺のものにはなってくれないのか?」

 「・・・シャラ、さまは! お、お兄さんみたいで! こ、こんなのは・・・違うの!」

 首を振って、涙を散らすと、シャラ様が困った顔で苦く笑った。

 ・・・兄、か。くそっ!と悪態をついて、乱暴に口付けられた。

 それから。

 ぎゅっと抱きしめられた。


 ・・・ちくしょう。と小さい声が頭の上から零れ落ちて。


 きつい拘束から解放された。

 「すまなかった」と言い置いて、シャラ様が去っていく。

 心のどこか、深いところで、痛いとなく声があった。

 でも、追えない。後を追ってはいけないことぐらい、・・・私にだってわかるんだ。

 

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